170.感動の再会と続く因縁
「アルフェン……よく無事で……」
「うん……なんとか生き抜くことが出来たよ」
「さあさ、リビングへ行きましょうね。タリア、アルフェンのお茶とお菓子の用意を。お友達も来ていますよ」
婆さんが俺の肩に手を置き、泣きながら誘導してくれる。
リビングへ入ると、見知った顔が二人笑顔で手を振って声をかけてきた。
「はぁい♪」
「良かった……」
「ロレーナとリンカ、無事だったか」
俺が安堵すると婆さんがリンカの隣に座るよう促してきたので並んで座る。
そこからは当然と言えばそうだが、質問攻めとなった。
「一体どこへ居たのだ? 川へ落ちたのでは、と思っていたが……」
「俺はマイヤと一緒に川に落ちて、そこからイークンベルに流れ着いたんだ。そこで出会った人に拾われて――」
と、6歳から今までの経緯を話す。
特にイークンベルのフォーゲンバーグ夫妻に育てられたことは体が震えるほど感謝をし、早く礼をせねばと興奮したところで俺達が爺さんを抑えた。
そこからツィアル国で陰謀を企てていたエルフを倒し、魔人族との交流、シェリシンダ王国のエリベール姫と婚約をしているあたりで目を丸くして驚いていた。
爺さんがこんな顔をしているのは初めて見たので結構やってやった感が強いが、ともかく、だ。
「手紙もかなり送ったんだけど、返事が無かったから心配したよ。せめて無事だって伝えたかったんだけど」
「なに? 手紙だと? 届いておらんかったぞ。屋敷に手紙は来ていないな?」
「ええ、私どもは存じ上げませんわ」
メイドのタリアが困惑したように呟き、お茶をテーブルに置いた。
俺は確認するように爺さんへ尋ねる。
「多分、20通くらいは送ったと思う。一つも?」
「うむ」
「……ツィアル国が鎖国していた時期ならわかるけど、その後に5通は出しているんだ、届かないはずはないと思うんだけどな……」
「確かにな……流通を改めて洗ってみるか?」
俺と爺さんが考え込んでいると、婆さんが手を叩きながら笑顔で口を開く。
「まあまあ、いいじゃありませんか。こうやって無事に帰って来てくれたんですから。今日はご馳走を用意しましょう。彼女さん達もね」
「か、彼女さん!?」
「婆ちゃん、二人は違うから」
「あら、そうなの? 王族になるなら子供はたくさん作れるようにした方がいいのよ?」
「こ、こども……!」
「落ち着けリンカ」
顔を真っ赤にして姿勢を正すリンカに苦笑しつつ、落ち着かせるためクリーガーを膝に乗せてやると、毛が抜けるんじゃないかという勢いで撫で始めた。
「きゅーん!?」
「ああ、ごめんなさい!?」
「それにしてもホッとしたわい。マルチナとライアスも安心しているだろう。マイヤも生きていたならイリーナも浮かばれる」
「……そうだね」
ようやくここまで帰って来れたが、犠牲は多かった。ここからの目標は黒い剣士。ヤツを探すための行動を開始せねばならない。
そこでふと、爺さんが左腕を隠していることに気づき尋ねてみる。
「そういえば爺ちゃんはなんで腕を隠しているんだい? 怪我でもした?」
「む……」
「アルフェン、実はね――」
難しい顔をする爺さんは口をつぐみ、代わりに婆ちゃんから衝撃の事実を告げられ、俺は驚愕する。
俺の件で話がある、と言われて屋敷に赴いた際に呪いをかけられそうになったらしい。侵食される前に腕を切り離して事なきを得たが、そのせいで退役することになってしまったとのこと。
「マジか……俺のせいで……」
「いや、お前のせいではない。ワシが焦って踊らされたのが悪いのだ。こうやって孫の頭を撫でられる腕が残っていれば十分だ」
「おじい様……」
リンカが悲しそうに呟き、俺も少し胸が痛くなる。
だけど、それをどうにかする力が俺にはあるのだ。
「爺ちゃん、腕を見せてくれ」
「ん? 気持ちの良いものではないぞ」
「いいから。俺のために負った怪我なんだし、見せてくれよ」
何度かお願いしてようやく見せてくれた腕は切断面が真っ黒になっていて、ただの傷口ではなく見ていると不安になる。
……これが呪いの効果かは分からないが、ただの傷ではないことが明白だ。
「アルフェン、あれをやるのね」
ロレーナの問いには答えず、俺はそっと傷口に手を触れて【
暖かい光と共に爺さんの腕の傷が黒から色を取り戻し、少しずつ腕が伸びるように再生していく。
「な、なんと……!?」
「あなた、これは……」
完全に治ったところで俺は汗を拭い、へたりこむ。
おかしいな……一人くらいでマナがそこまで消費するとは思えないんだけど……
「アルフェン……!」
「え?」
「鼻血!」
リンカがそういい鼻に手を当てると、ぬるりとした感触と共に真っ赤な血がべったりと付着した。
「う……頭が……」
「お、おい、アルフェン!? バーチェル、ベッドを用意してくれ!」
「ええ!」
なんだ、気分が……悪い……もしかして呪いを無理やり打ち破ったから、か……?
俺は完全に治った爺さんに抱きかかえられて寝室へと向かった――
◆ ◇ ◆
「北側の防衛は第二大隊がやれば良かろう」
「まあ、こちらはそれで構わんが……そうであればスチュアートをこちらの部隊へ派遣してくれないか? あの男の腕を国境警備に回すのは惜しい」
「だな。国境は大事だが、お前の部下、ディカルトがいるから問題ないだろう? あいつも腕が立つ」
「……彼は元からウチのだ、それは出来んよ」
「はあ……臨機応変にってアルベール元将軍なら応じるぞ? まあ、考えておいてくれよイーデルン」
「……」
まだ将軍になったばかりだしな、などと口にしながらライクベルンの精鋭である各隊の将軍がブリーフィングを追えて会議室から出ていく。
それを横目で見ながらイーデルンは最後に部屋を後にする。
「……人を下に見やがって、あいつらもそのうち――」
「イーデルン様!?」
「うん? なんだ、そんなに慌てて」
「それが――」
駆けつけた兵士はイーデルン派の人間で、概ねの状況を知る者だ。
その彼が声を潜めて耳打ちをすると、イーデルンの顔が見る見るうちに険しくなっていく。
「どういうことだ……タイミング的にあの小僧がなにかやったとでもいうのか? 【呪い】が解けて術者に返ってくるとは――」
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