160.お別れの時と事情
俺が倒れてから4、5時間ほど経過していたようで、落ち着いた現場はそれなりに落ち着きを取り戻していた。
もちろんゴブリン巣穴からも人質が救出されていたのだが、狡猾だったゴブリンロードらしく、いくつかの場所に巣を作って囲っていたとのこと。
言葉では言えないことも数人やられていたようなので、少々痛ましい。
女性が冒険者になるリスクは死ぬこともそうだが高いなと改めて思った。
……死者も数人。
本来ならそう簡単には死なないような連中だが、ゴブリンと魔物の勢いが強すぎたのが原因だろう。
とりあえずゴブリン討伐に参加しなかった人達を呼んで回復できるだけやったのが今、ということである。
欠損者も数名いたので、そこは俺がなんとかした。
イルネースに怖いことを言われたものの、親のために危険な冒険者をやっている人間も多いため、やはり見捨てることはできない。
数十人の腕や耳が無くなっていたり、頭蓋陥没などなど……結構な重傷者が居たが全員回復してもまだ余裕があったので寿命には影響は無さそうだ。
で、遺体の片づけなどの事態収拾スリアン国の連中も手伝ってくれ、明日、お互い凱旋ということになったのだが――
「で、あんたたちはなんでまた俺達のことを目の敵にしていたんだ?」
「うむ……この、ウルテン山とアイゼン森はどの国の領土でもない場所なのは知っておろう。そこで最近、魔物が増えたという声が大きくなってきたので兵を派遣していたのだ」
「ああ、こっちもだな」
スリアン国のおっさんは名をワイゲルといい、同じく騎士団長らしい。
「その際、ジャンクリィ王国の紋章がついた鎧や剣を装備した者が襲い掛かって来たというのだ。実際に襲われた相手が落としていった武器を見るとその通りだった」
「だから、俺達がここを占拠するためにあんた達を排除してたって言いたいのか?」
「申し訳ございません、本来は魔物増加調査が主の派遣ですが、あなた方を見つけたため交戦となってしまいました」
こくりと頷くワイゲルだが、背後に控えている部下たちは申し訳なさそうな顔で頭を下げていた。
言葉を交わせばいいのにいきなり襲ってくるあたりやべえやつだなと思ったが、その被害は結構あったらしいので、常識がありそうな部下たちも交戦止む無し、黙らせて話を聞くと考えていたとか。
「魔物はゴブリンロードが操っていた、という感じになりそうだがウチの装備をした者が襲っていたというのは気になるな」
「お主らの仕業ではない、ということじゃな?」
「当然だ、この地域もウォルフ族やエルフが住むから、手続きが国としても面倒だし、武力で手に入れても角が立つからな」
「では、内部に裏切り者などは――」
と、ワイゲルが口にするが俺は別の可能性を提示する。
そもそも、この魔物が増えたというのがゴブリンロードの仕業であるならだが……
「……どうかな? 襲われた時間帯が夜ならゴブリンロードの指示で拾った装備でスリアン国の人間を攻撃するくらいはするんじゃないか? その限りではないけどあいつは相当頭が良かったし同士討ちくらいは考えそうだ」
「そうだな、アルフェンのいうことは有り得そうな話だ。女を簡単に奪還できないよう別に隔離するような知恵が回るようなやつだしな」
「うむ……」
オーフの援護は納得するに十分だったようで、ワイゲルは渋い顔で相槌をうつと、フェイバンが口を開く。
「その仮説が正しいなら今後はこういったこともなくなるでしょう。もちろんそちらが良ければ合同で調査をすることも可能ですから」
「かたじけない。……いや、確かめもせずに斬りかかったこと謝罪したい! この老体を腹を切ってお詫びする所存……!!」
「うわ!? 止めろ! トラウマになんだろうが!?」
「団長、おやめください!?」
俺とリンカが、剣を抜こうとしたワイゲルを両側から引っぱたいて止める。
目を白黒させたワイゲルがひっくり返ると、苦笑しながらフェイバンが言う。
「まあ、そちらからの攻撃でゴブリンに発見されましたが、ゴブリンロードの策略だったかもしれませんしとりあえず今回は私の不問にしましょう。
ただ、報告はしっかりしていただきたい」
「しょ、承知した」
実際、討伐と片付けには協力してもらったことはあるのでいがみ合っても仕方ないと判断したらしい。
まあ、基本的には常識がありそうだから国同士の争いに発展するようなことはなさそうだ。
それから一泊し、俺達は戻ることになった。
となればもちろんリンカとは別れることになり、出発前の挨拶となる。
「それじゃあ……」
「気を付けてな。俺と同い年で冒険者ってのは珍しかったよ」
「ううん、まだまだ修行が足りない。今回はそれがよく分かった」
みんなの前では尊大な喋りをするけど、どうやら舐められないためにやっているらしい。
「家族は心配していないのか?」
「……ウチは両方亡くなっている。元は貴族だったんだけど、その時、叔父に追い出されてしまったのだ……」
どうやら俺と似たような境遇らしいが、父親の弟があまりいいやつではなく、まだ10歳になったばかりのリンカの家を乗っ取ったということみたいだ。
それで放逐され、父親の知り合いであるワイゲルのところへ身を寄せているのだとか。
騎士にはなれず、パン屋と冒険者として金を稼ぐ日々を過ごしている。
小さい女の子がこんなところに居るのは変だと思っていたがそういうことだったわけだ。
「そうか……ま、俺もだけど」
「そうなの?」
そのまま流れで俺の現状を話すと泣いてくれた。
ああ、いい子なのだろうと思うと同時に、ワイゲルのところで上手くやれているなら俺の復讐に巻き込むのは酷というものだろう。
「元気でな」
「……」
「どうした?」
「助けてもらった恩も返せてないのに……」
「気にしなくていいって」
俺が頭に手を乗せて笑っていると、ワイゲルが近づいてきた。
「行くぞリンカよ。む、小僧か、世話になったようだ」
「こっちもな。冒険者は止めさせてやれよ?」
「ワシが言ってもきかんのだ……普通に働いてくれればいいのだがのう」
「いけません。私はなるべく迷惑をかけたくないのですから」
リンカはしっかりしているがワイゲルはお転婆で困るとため息を吐いていた。
この爺さんの子供も娘で、すでに嫁いでいて夫婦で寂しいと思っていたところに彼女だったらしい。
が、ふわっとした母親似の娘と違って気が強く、遠征について来ようとするリンカには困っていると苦笑していた。
「お別れは終わったか? とりあえず俺達もオルファの町に帰ってベリモット様に報告だ」
「ま、その後はライクベルンだけどな」
「ライクベルン……小僧はあそこへ行くのか?」
「ああ、俺の故郷なんだ」
「アルベール将軍のお孫さんですって」
「なんと。なるほど、強いわけだな。いや、娘を守ってくれて感謝する」
「ありがとう、アルフェン。また会えるといいわね……コホン、いいな!」
無理やり口調を変えるリンカに笑いながら手を振り、スリアン国の人間が立ち去っていくのを見送った。
もうリンカっとは会うことはないんじゃないか? 『ブック・オブ・アカシック』に聞いてみるか。
「アル!」
「アル兄ちゃん!」
そんなことを考えていると、今度はウォルフ族がやってきた。
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