181.敵か味方か
国境警備責任者だった男、ディカルト。
そいつが俺の居るフォーリアの町へとやってきたと分かったのはスチュアート達が新規警備隊としてやってきた際の挨拶の時だった。
あの時の出来事があるのでスチュアートはヤツと俺に複雑そうな目を向けていた。
「爺ちゃん、こいつは王都へ返していいと思う」
「うん。信用できないわ」
「二人が言うならお前はダメだな」
「そりゃねえぜ!? あんときゃ仕方なかったんだ、勘弁してくれよ、悪かったって」
ディカルトが土下座をして謝罪の言葉を述べるが、俺とリンカは冷ややかな目で見下ろす。するとスチュアートが立たせながら口を開いた。
「こやつは国境でアルフェン君を攻撃したのですよ。私がやめろと言っても聞かずに」
「ほう、死にたいらしいな?」
「うおおお、待ってくれ! イーデルン将軍に言われてやったことだって!」
「……そうだな、そのあたりを詳しく聞かせてくれ。爺ちゃんを退役させたのはあいつだって知っているからな、こっちは」
俺がそういうとディカルトは頭を掻きながら語りだす。
ずっと二番手で爺さんが目障りだったから追い落とすためにおびき寄せて始末しようとした、ということらしい。
もっと理由があるのかと思ったら小物臭いことことこの上ない……のだが、イーデルンよりも次に放たれた言葉の方が重要だった。
「どこで雇ったのかは知らねえが、黒い集団に金を払ってたぜ。当事者のアルベール殿も知っているとは思うが」
「……もしかして」
「アルフェンが考えている通りかもしれん。ワシを襲った連中は黒装束の者だった、黒い剣士の仲間という可能性も十分ある。しかし、それをワシらに告げて良いのか?」
「もうイーデルンの旦那とは縁を切ったから別に構わねえよ。俺は権力には興味がなくてね? 強い奴と戦いたいだけでな、アルベール殿なら楽しめそうってわけだ」
くっくと笑うディカルトに俺達は顔を見合わせて肩を竦める。
この情報を俺達が知っているとは思っていないはずで、イーデルンを失脚させるには十分な話。それを口にするということはイーデルンの部下をやめたという部分は信用できるかもしれない。
「でもやっぱりムカつくからあんまり屋敷に近づかないでくれ」
「マジか……一回、一回でいいから手合わせしてくれ!!」
「気が向いたらな。黒い剣士を……仇を取るまでは忙しいからな」
「チッ、ここにくりゃ戦えると思ったのによ……イーデルン将軍はいいのか?」
ディカルトは悪態をつきながら『情報を渡せば戦ってくれるかも』という期待をあっさり打ち砕いた爺さんに尋ねるが、
「失脚はさせない。黒い剣士と装束のメンバーと繋がっているなら、泳がせておくのも悪くないだろう」
と、そこは密告しないのだと返す。
実際、俺がディカルトに襲撃されているし今のでイーデルンが危険人物で間違いないが、ヤツの目的であった『爺さんを将軍から降ろして成り代わる』という目標が達成されているので、こっちに手を出してくることはないだろうという算段。
それにイーデルンのことは俺の件で陛下も知っているので監視する方向で調整するとのこと。
「甘ぇなあ、そんなんで生きて行けるのかね? 両親みたいになるんじゃねえか? ……っ」
「それはさせない。今度はあいつが死ぬ番だ」
「はっ、お前もおもしれえな! いてぇ!?」
「口の利き方に気をつけろ。もう騎士団は辞めたんだ、貴族である一家にそんな言い方はするな」
ディカルトはスチュアートに拳骨を食らい、国境での立場が逆転していることが分かる。蹲るディカルトをよそに、スチュアートは礼をしながら爺さんに言う。
「またお世話になります。それにしても……腕が戻っているとは驚きでした」
「そうだな、ワシも驚いておるよ。これも神のお導きだ、孫にそんなちからがあるとは思わなかったが、今度こそワシは家族を守る。すまんが協力してくれ」
「もちろんです。それにしても【呪い】は影響が無いのでしょうか?」
【呪い】……。
爺さんが腕を落としたのはこのせいだが、これを扱える人間って実際どれくらいいるのだろうか……?
カーランはおかしなやつだったが魔法使いとしてはかなりランクの高い男だったが、メジャーではなさそうなんだよな。
それと黒い剣士もカーランも『ブック・オブ・アカシック』を狙っている、というのもおかしな話だ。
昔からあるが手にしたことがある人は何人いるのか、など正直興味は尽きない。
いや、ひとつ手はあるが教えてくれそうにないんだよな。
まあ、それは今後の課題か。
「その黒い剣士ってやつも強そうだし、見つけたら俺に戦わせてくれねえ?」
「仇だから俺が殺すんだって」
「そこをなんとか! トドメだけやるから!」
「意味がわからないわ……」
こいつも警戒しとかないとな。イーデルンから離れたとはいえなにを企んでいるか……。
これでひとまず俺達の基盤はできた。
後は連中の情報収集に力を入れることができる。
しかし分かっていたことだが、それは簡単ではなく、別の事件に巻き込まれることに――
◆ ◇ ◆
――ライクベルン謁見の間――
「陛下、南西部の治安が悪化しつつあるようです」
「ふむ、何故か?」
「山を越えたところにある砂塵族はご存じかと思いますが、その者らの横暴に耐えかねて国を出た者がライクベルンへ流れてきていまして……」
「生活習慣などが違うだろうし、軋轢はありそうだな」
ライクベルン国王のバラックは辺境の兵士から報告を受けていた。
ライクベルンとジャンクリィ王国の西には大きな山岳があり、それを越えると砂地で覆われている地域が広がっている。
さらに西にはアルフェンが流れ着いたイークンベル王国のある大陸が存在し、大橋経由でいけるようになっているのだが、現在では橋は壊れ、ほぼ自活する国へと変化していた。
砂塵族と呼ばれる民族が統括しているサンディラス国はイークンベルとなにかあってから鎖国をしている。
「はい。それはまあ些細なことなのですが、こちらへ逃げて来た砂塵族の話によるとこちらへ侵攻してくるようなことを話していた、と」
「国の規模は小さいのに仕掛ける気か?」
「そのようです。勝てる見込みがあるのでしょうか……?」
「わからん。だが、あそこはいずれどうにかするつもりだったから見極めるためにも使者を出してもいいかもしれん」
「は、もう少し情報を集めてから組んでみます」
「あの国が往来できれば貿易も捗る。柔軟な王であればいいのだが」
バラックは国交が途絶えた国の対応を考えるのであった。
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