39.染まる日常
「行ってきますー!」
「アルにいちゃ、ルーナも行く!」
「僕も!」
学校生活も数日を過ぎ、この朝の光景も慣れてきた。
ルークとルーナの双子は俺が出ようとすると必ず両脇を固めてくる。
最初は泣き叫んでいたのだが、最近たくましくなったのか鼻息を荒くして主張してくるようになった。
……正直な感想としては『なに、可愛い生き物』だ。
ルークも同じ男の子だが赤子故の愛らしさがある。親ばかならぬ兄ばかと言われても俺は一向に構わない……!
コホン。
とはいえ、流石に学校に連れて行くわけにはいかないので引きはがすことにしよう。
「毎朝頑張るなあお前達……。ほら、お留守番だ」
「やー!!」
「アルにいちゃ、と遊ぶのー!」
<ああ、可愛らしいですねえ……>
リグレットが興奮気味の声を出すが、気持ちは分かる。
今日はなかなか手強いなと思っていると、そこで最強の味方が二人を抱え上げてくれた。
「「あー!?」」
「はいはい、お母さんと遊ぼうねー。アル、行っておいで」
「ありがとう、カーネリア母さん!! 行ってきます!」
「「あああああああああん! にいちゃぁぁぁぁぁ!」」
心苦しいけど俺は耳を塞いで屋敷を後にする。
まあ15時位で学校は終わるので、帰れば笑顔で出迎えてくれるんだけど。
「今日もいい天気だ……ふあ……」
いつも通りの散歩道を歩きながら今日の授業がなんだったかを考える。
実は何気に剣と魔法の授業は少し他の教科より多いくらいで、語学、数学、歴史、教養、錬金学といったものでローテーションを組んでいる。
理科は錬金学、社会は歴史と一緒になっているのでほぼ小学生の教科は網羅していると言える。
そういや図画工作も錬金学に組み込まれているのは興味深い。
「あー、そういえば今日は魔法が使えるのか。あの日以来、学校では禁止されていたから久しぶりだな」
ミーア先生は鋭いハルバード捌きを見せてくれたが、魔法もなかなか出来るらしい。詠唱とイメージについて是非教授願いたいものだ。
と、色々勉強したり、稽古をしているが一番の謎があった。
それは『あの本』のこと。
あの日、確かに帰り際に先生へ本を貸した。
だが、驚いたことに――
「先生、あの本どうだった? 色々書いていたでしょ?」
「僕も読んでみたいなあ」
「……アル、こっちへ」
「え?」
俺は廊下に呼び出されると、先生が衝撃なことを口にする。
「……カバンを見てみなさい。もしなければ家のどこかにあると思うけど」
「え? ……あ、あれ? いつ入れたの先生?」
「私じゃありませんよ。昨日、自宅の机に置いていたの。本を読もうと思ったら忽然と消えていたわ」
「そ、そんなことが……」
「それが伝説とも言われるものであればあり得るわ」
先生が真顔で、カバンから取り出した俺の本をじっと見る。何かを知っている。だけど良い意味では無さそうだ。
「教えてくれる……んですよね?」
「そうね。もう少し資料を探して確証を得たら。それまでこの本を誰にも見せてはいけませんよ。ゼルガイドとカーネリアは知っているかしら?」
「確か……教えてない」
「結構。では二人の秘密にしましょう――」
――と、そら恐ろしいことを言われた。
ほぼ『何か』であることは分かっているようだが、教えてくれなかった。
まあ、その内教えてくれるらしいし、手元に戻ってくるのは呪いの人形のようで気味が悪い気もするけど俺にはかなり便利ツールなので手放したくないと思っている。
「ふあ……にしても眠いな……ルークが魔法を見せてくれって夜遅くまでやってたからなあ……」
「おはようアル!」
「ラッドかおは――」
「また後――」
ラッドの声が聞こえてきたので俺が振り返ると、馬車が横を通り過ぎ、ドップラー効果を残し消えて行った。
<慌ただしいですねえ>
「はあ……」
いいヤツなんだけど、いいヤツ過ぎて困るんだよな。
俺と関わってもいいことはないんだけど、言っても聞かない。
この前は危うく城に連れて行かれそうになった。
……ただ驚くこと無かれ、あいつの剣筋はかなりいい。
型を見せたらすぐに覚え、昨日やった模擬戦は手加減していたとはいえ、ランク9の俺を驚かせるくらいの腕前だ。
あれでやったことがないらしいので、きちんと学べば少なくとも死んだ父さんクラスにはなれるのではないかと思う。
王子が強くて困ることは無いから問題ないし、鍛えるのはいいことだと思う。大森林で襲われたけど、ああいう手合いが居る世界だし。
そんなことを考えながら学校へ到着。
「おはようアル!」
「さっき聞いたよラッド……まあ、おはよう」
「うん! 今日は魔法の授業だね」
「だな、ラッドは『ミドルクラス』までは使えるんだろ?」
俺が聞くと、ラッドは頭をかきながら言う。
「実はミドルクラスは一つしか使えないんだよ。父上が一個でいいから他の子の度肝を抜けって口を酸っぱくして言われてさ、いい迷惑だよ」
「そ、そうだな……」
……どこの親も似たようなものらしい。
ラッドがこういう性格なのは国王がファンキーなせいなのかもしれない。
とりあえず二人でいつもどおり朝の掃除を進めていると、ミーア先生が入ってくる。
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