217.これはまずい
――夜
俺は自室で『ブック・オブ・アカシック』を開いていた。
理由は簡単、この黒い剣士との戦いで俺達がどうなるのかを確認するためだ。
「大丈夫かしら?」
「わん」
「まあ、持ち主の不利益になるようなことにはならないと思うよ。……どうだ?」
俺は本のページをめくって念じると、すぐに文字が浮かび上がって来た。
‟アルフェンの悲願が果たされる時が来たようだな。ここから先はそれほど難しくない。王都から見て南……ジャンクリィ側が若干手薄だから侵入するならそこからだ”
「マジで……? いままでと違って随分具体的だな」
「まだ出るわ」
‟この戦いは恐らくオーフ、ロレーナが参戦してくれる。一度ジャンクリィ王国へ向かえ”
「……これ以上巻き込むのは遠慮したんだけど」
‟大丈夫だ。というより、行かざるを得ないのだ”
「どういうこと?」
‟近いうち、イークンベル王国から手紙が届く『ようだ』。ルークとルーナ達だが、ライクベルンへ遊びに来るという内容のな”
「おいおい!? 今は戦いになるかもしれないのに、まずいだろ! 帰さないと!」
‟いや、すでにこっちへ向かっているので手紙を返すのは無理そうだ。だからジャンクリィ王国で止まってもらうために向かうべきだと言っている”
「タイミングが悪いわね……私がおばあ様と話をしにいきましょうか?」
「そうだな……」
リンカも強くなったけど黒い剣士たちと戦わせるには不安が残る。
そう考えるとジャンクリィ王国でゼルガイド父さん達を止めてもらい、そのまま残ってもらえば危険も少ないか?
だが――
‟リンカはここに残した方がいい。彼女の婚約者だった者が刺客を放ち、探している。ジャンクリィ王国までは危険だと思った方がいいだろうな”
ライクベルンは黒い剣士達が掌握しているから移動は難しいだろうし、このフォーリアの町は結構王都や国境から離れているので、リンカは動かない方がいいだろうとのこと。
さらに顔を知っているのは俺だけなので、行くなら俺だろうとも。
‟特にロレーナの火薬は侵入の際、非常に役立つ『はず』だ。時限爆弾を作って陽動をかければ手薄な場所がさらに手薄になる”
「ジャンクリィ王国にはどうやって行く……ああ、サンディラス国を経由しろってことか」
‟そういうことだ。できればゼルガイドとカーネリア達にも参戦して欲しいところだがな”
「さすがに子連れは無理だよ。事情を説明して帰ってもらうのが一番いい」
「そうよね。うーん、双子ちゃん達を見たかったけど残念ね……」
「他にこっちが有利になりそうな情報は?」
‟王都の外に部隊が展開されていて王都内部には兵士は殆どいない『よう』だ。ちなみにバラック王は生きているし、他の騎士や将軍も存命している”
「それだけ自信と余裕があるってことか……。生きているならありがたいけど、その場で人質にする可能性もありそうだな」
取り急ぎやらないといけないのはカーネリア母さん達の出迎えか。
ロレーナの話しかしなかったのは……この時点でオーフが死んでいるはずだからか。
‟王都潜入時はディカルトと行動するんだ。あいつは役に立つ。城内部はバラバラに動いた方がいいだろう。……幸い、といっていいか分からないが『魔神』が居るならまず負けはしない”
やけにハッキリ断言する本に違和感を感じながら今後のことについて情報を得ると、本を閉じて一息つく。
「ふう……なんとかなりそうだな」
「うん。これで倒せればエリベール様のところへ帰れるわね」
「……お前も連れて行くけどな。許可をもらわないと」
「ありがとう。前世から好きだったし、子供が欲しいなと思ってたのよ? ……体に異変が無ければ」
そういや俺のすぐあとに病気で亡くなったんだっけか。
エリベールなら第二婦人くらいは許してくれそうだけど。
……それでもすべてが終わってからだ。まずはライクベルンを取り戻す。
◆ ◇ ◆
「それは信憑性があるのか?」
「一応、今まで不利益になったことはないから大丈夫だと思う。だけど調査はした方がいいかもね」
たまにずれていることがあるからな。
『一旦アルフェンがサンディラス国へ行くとなると我らはどうする?』
「ジャンクリィ王国側が手薄なら一緒に行った方がいいんじゃないか? そこから一気に崩す」
「ロレーヌさん達がすぐ見つかるかが鍵ね」
「ひょっこり現れるんじゃねえ?」
「魔物じゃないんだから……」
と、情報を提示して作戦を練っていた。
・サンディラス国を経由してジャンクリィ王国へ。この間フォーリアの町は危険に晒されるが、裏山へ逃げ込む手はずを整える。
『ブック・オブ・アカシック』いわく、もう来ないらしいが……?
・ジャンクリィ王国でオーフ達を探しつつカーネリア母さん達を足止め。
・王都奪還
このあたりだろう。
城内部に疎いギルディーラに爺さんがレクチャーすればだいたいこっちは把握できているからな。
そして――
「アルフェンさんにお手紙です」
「きたか」
作戦開始の合図が届いた――
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