204.疑わしきこと

 「どこだ……ここ……? どっかで――」

 『やあ、アルフェン君、久しぶりだね』

 「イルネース!? なんでここに」


 と、意識を失う前のことを思い出して吐血したことを思い出す。

 まさか死んだのか? そう考えたところでイルネースがとんとんと自分の座るテーブルを指で叩いてから困ったように微笑み、座ってくれと目で訴える。

 ここに呼んだ、ということは【狂気の右腕パズス】に関してなんらかの説明があるってことだろうが……


 『さて、君をここへ呼んだのは他でもない。あのスキルのことだ』

 「だろうな。俺はあれで死んだのか?」

 『冷静だねえ。一回死んで、二回死にかけて、三回目ともなるとそういうものなのか……人間は興味深い。で、結論から話すと死んではいないけど深刻な状況だってことだ。そこで境目になった君を呼びつけたわけだが、聞きたいことがあってね』

 「聞きたいこと?」


 二回目にここへ呼ばれた時に次はないと言ってたのに来たということはよほどあのスキルが強力すぎた、とかか?


 『あの技は一体どこで手に入れたんだい? 傷を癒す力も少しどころじゃなく規格外だし、破壊の力も相当なものだ』

 「え? それはお前が与えてくれたんじゃ……」

 『僕はあくまでもあの世界に落とす役割を担っただけだから、そこまでバランスを壊す技はつけた覚えがない。まあ多少は魔力量を増やしたりしたけど、元々の能力はそこまで上げていないよ? そうじゃなきゃどうやって生きていくのか面白くない』

 「……」


 確かにとは思う。

 こいつは最初に俺が俺のままでどう生きていくのかを見たいと言っていた。無双を見たいというわけじゃないからそれは当然だ。


 なら――


 「リグレットが使えるようになった、とだけしか聞いてないしあいつなら分かるのか?」

 『君の頭の中に居る誰か、だね? 彼女が……教えた……? そうだね、聞いておいた方がいいかもしれないね』

 「ん? それだけでいいのか?」

 『ああ、少し気になることが出てきたけど概ね理解できた。ただ『アレ』をどうやって手に入れて君に使用可能にしたのか、だな』

 

 顎に手を当てて勝手に納得するイルネースに違和感を持つ俺。なら今後、スキルがどうにかなるのか?


 「【再生の左腕セラフィム】と【狂気の右腕パズス】は消すか?」

 『……いや、それはそのままにしておくよ。見た感じ、【狂気の右腕パズス】 は少し危険だけど感情のまま、大量の魔力を使わなければいいと思う。逆に小出しにして慣れておいた方がいいのかも、と僕は思っているよ』


 確かにずっと使っていなかったからぶっつけ本番の一撃だった。

 水神の大きさから考えて魔力を込めてぶっ放したけど、実際の破壊力はどこかで試しても良かったのかもしれない。


 『いや、とりあえずアルフェン君の人生は面白くなってきたね。【狂気の右腕パズス】は少々バランスブレイカーだけど、本が気になるから――』

 「本? 『ブック・オブ・アカシック』が気になるのか?」

 『いや、なんでもないよ。とりあえずそろそろ戻ってもらおうかな? 女の子が本気で泣いてるみたいだし、従者も必死みたいだ』

 「そりゃどういう――」


 瞬間、俺は意識が遠くなっていく。

 イルネースの姿、声がだんだんと遠くなり――


 ◆ ◇ ◆


 『……よろしいのですか? あの力は余りあるのでは?』

 『いいさ。あの程度で僕の世界が壊れることはないからね。ただ、僕の知らないところでなにかが暗躍しているのが気に入らないね』


 ……まあなんとなく予測がついたから後はアルフェン君の行動次第というところか。それにしても執念とは恐ろしい。神をも恐れぬ所業をやってのける。

 

 『だから人間は面白い』

 『は?』

 『なんでもない。引き続き彼の様子はうかがうとしよう――』



 ◆ ◇ ◆


 「ふぐぇぇぇん……アルフェン君このまま死んじゃったりしないよね……」

 「ば、馬鹿、滅多なことを言うんじゃねえよ!? もし死んだりしたら‟死神”に合わせる顔がねえよ! アル様! 起きてくれ! こんなので死神と戦っても面白くねえんだからよ!」

 「あ、あの、あんまり揺すらない方がいいんじゃ……?」

 「なによ眼鏡っこ、褐色眼鏡でキャラが強いからって口を出さないで!」

 「ええー……」

 「息もあるし、心臓も動いている。気絶しているだけだと思うが」

 「じゃあなんで目を覚まさないんだっての!」


 なんか耳元でロレーナとディカルトがぎゃあぎゃあと騒ぎが聞こえる。他は……ダーハルとマクシムスさん、か?

 というかいい加減――


 「うるさーい!! 耳元で騒ぐなよ二人とも! 後ロレーナは言いがかりも甚だしいぞ!?」

 「あ!」

 「お!?」

 「なんだよ?」


 チラリと二人を見ると、泣きはらしていたのか目が赤かった。

 で、俺はどうやらベッドに寝かされていたらしく上半身を起こすとさっきまで崩れていた城とは別のところにいるらしい。

 そして俺を見たロレーナが鼻水を垂らしながら俺に抱き着いて来た。


 「アル君よかったぁぁぁぁ!!! 血まみれで倒れている時はわたし倒れそうになったんだからぁぁぁぁ!」

 「ぐあああああ!? 力が強い!? や、やめろ!?」

 「へへ……オレは信じてたぜ……」

 「うるさいよディカルト!? 涙ぐむなよ……」


 俺が枕を投げつけるとあっさり避けやがった。

 そこへマクシムスさんが苦笑しながら俺に話しかけてきた。

 

 「まあまあ、彼等も心配していたのだよ。なんせ、二日も寝たきりだったからね、息をしていたとはいえ私も気が気でなかったよ。死神は……相手にしたくないからな……」

 

 二日!?

 俺が向こう側へ行っている間にそれだけの時間が……

 

 「そうだ、戦争は……!!」

 「大丈夫だ、全て片付いている。しかしまさかアレを一撃で葬り去るとは……」

 「ギルディーラ!」


 部屋の隅にいた魔神のギルディーラが難しい顔でそんなことを口にし、この二日のことを語り始めた。

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