250.過ぎ去ってしまったこと


 「リンカを残してみんな消えてしまえ!! 【破壊の右腕《パズス》】!!」

 「ぐ、ぬう……」

 「あれはアル様が水神を倒した技じゃねぇか!? アルベール様、逃げてくれ!!」

 

 あの場で俺のを見ていたらしいディカルトが驚愕する声を上げる。

 だが、腹を刺された爺さんでは回避はできない。

 というかアレを使っている時ってあんなに黒いものを纏っているのかと身震いする。

 そこへギルディーラとラヴィーネが『俺』へ攻撃を仕掛けた。


 『弾かれるだと……!』

 『このディストラクションでも切れんというのか……私を一人で倒したというのは本当らしいな』

 

 英雄クラス二人でもダメか……!

 ならばこちらも同じことをするしかないと大声を上げる。


 「ギルディーラ、ラヴィーネ! 爺ちゃんを連れてその場を離れてくれ! 『俺』には俺がぶつかるしかない!!」

 『それは……!? 分かった、死ぬなよ!』

 『まだ大丈夫か?』

 「う、む……意識があればアルフェンが回復魔法を持っておる……」


 出血が酷い……。

 俺を信じて待っていてくれる爺さんのためにもここでケリをつける……!!


 「うおおあああああああ! 【破壊の右腕《パズス》】!」

 「ぶつける気か……! はあああああ!!」


 赤黒い炎がぶつかり合い、圧のかかった通路の窓ガラスが全て割れていき吹雪が入り込んでくる。

 俺と『俺』に触れた雪が蒸発し一面を白く染め上げて行く。


 「手助けをした俺がどうしてここまで苦労を背負わなければならない……!!

 「境遇には同情する。だけどやっぱり容認は……できない。もしかしたら有り得た未来で、俺はいくつもある絶望にいる俺の一人なのかもしれない。その状況を作ってくれたお前には感謝しているよ」

 「ならば……!」

 「リンカは渡せない。お前が大事だと想っているように、俺の世界のリンカは俺の大事な人だからだ!」

 

 なにもかも奪われた『俺』の暴挙。それを止めるのはやはり俺しかいない。

 可哀想だとは思わない……一つ間違えば向こう側に立っているのは俺なのだから。

 

 ……ああ、そうか。

 『俺』に出来るのだから俺にだってできるはずだ。

 ひとつ、あることを閃いた俺はここで絶対に負けるわけにはいかないと力を振り絞る!


 「ば、かな……!? 俺の方が熟練しているはずなのにどうして押されるんだ!?」

 「俺はお前が作ってくれた未来を進むため、負けるつもりはないからな……! 後は俺に任せてくれ――」

 「なにを……! う、うわあああああああああ――」

 『アルフェン!!』


 力の均衡が崩れたその時、赤黒くなった炎が『俺』を吹き飛ばす。

 

 「う、ぐ……」

 

 全身の力を一気に吸い取られたような状態になり片膝をつくが気絶するわけにはいかない。このまま爺さんを治療しないといけないのだから。


 「しっかりしろ!」

 「オーフ……爺ちゃんのところへ」

 「任せとけってんだ!」


 ――程なくして俺は爺さんの治療を終える。

 流石に『死神』と呼ばれるだけあってまだ迎えには早いと思われたのか間に合った。

 意識が飛びそうになる中、ギルディーラに背負われて声をかけられた。


 『背負ってやるから乗れ。……トドメは見なくていいか?』

 「……ああ、謁見の間へ戻ろう。リンカが無事なら……それでいいさ」

 「そうだな……」

 「お兄ちゃん、こっちのお兄ちゃんは……」

 「スキルを食らったんだ、お前ならわかる……だ……ろ……」


 そこまで口にし、閉じる前に見えたラヴィーネに抱えられているリンカは無事みたいだったので俺はそのまま意識を閉じた――



 ◆ ◇ ◆



 「……これは……さすがに無理、か」


 吹雪の中に大の字になった俺は【破壊の右腕《パズス》】で抉られた箇所から急速に熱が奪われていくのが分かった。

 死ぬことに恐怖は無い……などということはなく、全てを失った時に自害も出来なかった。このままなにも為せずに死ぬことが怖かったんだ。


 「結局このザマ、か……ごほっ……前世も今世も……とんでもない……人生……だな……もう生まれ変われなくても、いい……」


 神の力は少し持っているがこの程度で出来ることなどたかが知れている。

 回復手段はあるが【再生の左腕セラフィム】は【破壊の右腕《パズス》】と対のスキル。

 【破壊の右腕《パズス》】を使いすぎた俺にはもうアレが使えない。

 天秤のようなものだというからくりを聞いたのはイルネースを殺した時だったっけか。


 ……もう今更だ俺の人生はここで終わり。

 目的も果たせず血反吐を流しながら――


 「……?」


 ふと、俺の横になにかがあると思い閉じた目を再び開けると、そこには白骨死体が俺を抱くように隣に横たわっていた。


 「リ……ンカ……」


 助けられなかった大事な人。

 それでもなお、最期までいてくれるのか……。


 (大丈夫、あなたは成し遂げたわ)

 

 幻聴か? 俺もいよいよらしい。

 手探りでリンカの手を握り、目を瞑る。


 (アルは別世界のあなたを救ったの。後の未来は『私達』に任せましょう? いつまでも一緒よ、和人――)

 「ああ、これで一緒――」


 うっすらと目を開けたその瞬間、俺は確かに見た。生前の姿をしたリンカを。


 「ようやく、会え、た――」


 気持ちが楽になると同時に、俺の視界は真っ白に染まった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る