230.ラヴィーネ=アレルタ


 稀代の『英雄』ラヴィーネ=アレルタ。


 昔、実の父や爺さんにおとぎ話のような感じで語られたことがあるその人物は、戦争を止めさせたとか、どこかに居るドラゴンを倒した、一人で一国と戦ったなど眉唾な話も含めて超人レベルのエピソードばかりだった。


 その『英雄』だと言う目の前の女を全員で凝視していると剣を肩に担いでから話を続ける。


 『信じられない、という顔をしているな。まあ無理もないな、こうして私は若いままの姿なのだから。本来ならとっくに死んでいるはずだものな』

 「ならどうして若いまま生きている? 『ブック・オブ・アカシック』が欲しい理由と繋がるのか?」

 『ふむ、やはり賢いな坊やは。だからといって教える義理は無いがな。さあ、回復しただろう。続きをやろうじゃないか……!!』


 教える気は無し、か。

 興味本位で尋ねたものの別に聞いたところでなにかが変わるわけでも無いかと切り替え、手招きをしながら挑発するラヴィーネへ踏み込んでいく。


 『フッ、私の正体を知ってそれでも億さんか。それでこそ本の持ち主というところか!』

 「お前はこれのことをどこまで知っている!」

 『力づくで口を割らせるのだな』

 

 打ち合いになるが力負けをする……!?

 体格差だけじゃない技術の差で「そうさせてもらおう。貴様が何者であろうと、ワシらにとっては仇であることに変わりはないのだからな!!」


 戦意を削ぐつもりだったとも考えられるが、なにもしない内から降参するような真似はしない。

 俺が劣勢になる前に爺さんが斬りかかっていく。それをガントレットで防ぎ、俺を薙ぎ払いつつ爺さんへと反撃を行う。


 「つっ……!?」

 「アル兄ちゃん!!」

 「ここから離れろ! こいつは……強い!」


 腕をわずかに斬られて血が舞い、ルーナが悲鳴のような声をあげた。回復魔法でさっさと治療し起き上がる。

 目の前には爺さんとさらに攻撃に加わったギルディーラを相手にダンスでも踊っているかのような足さばきでいなしていくラヴィーネ。


 『くっ……同じ『英雄』でここまで差がでるものか』

 『ああ、私は少々違うからな。長生きをするもんじゃあないってことだ』

 「なら早くリタイアして欲しいもんだな!」

 『ほう!』


 ギルディーラを弾き飛ばしたラヴィーネに一瞬の隙が見えたその時、父さんの剣が腕を落とさんと切り上げられた。

 しかし肘のガーダーでそれを受け止め蹴りを繰り出す。


 「ぐあ!?」

 「ゼルガイド殿! ……まだだ!」

 『くく……やるな、爺さん!』

 「ランクがあっても所詮は一人、隙を見せれば痛手を被るものだ」

 『かすり傷を追わせた程度でいい気になられては困る……!!』

 『同時ならどうだ!!』


 壮絶、といって差し支えない剣撃。

 

 <ど、どうするのお兄ちゃん……!? このままじゃ双子ちゃんも殺されちゃうよ!>

 「……」

 <う、動かないの……?>


 三人の攻撃をいなすラヴィーネに戦慄を覚えている……というわけではなく、俺はあの中に入るには腕が足りない。

 ならばどうするべきか? ……観察するのだ。


 「ハァッ!!」

 『いいね、鋭い一撃だ。体が温まってきたようだな!』

 『お互いにな……!』


 爺さんの一撃は鋭く、ギルディーラの一撃は重く父さんはバランス型。

 ……そしてふっきれたのかアドレナリンが分泌されたのか、三人の動きは先ほどと違い激しくなっていた。

 

 『くく……やるやる……! 今まで戦った一国全員を相手にするより強いぞ貴様等!!』

 「一国の騎士団長が英雄相手とはいえ、後れを取るわけにはいかんからな! 痛っ!?」

 『うおおおお!』

 『ぐぬ!』

 「抑えておけギルディーラ!!」


 流石に手練れ三人の波状攻撃は厄介そうな雰囲気を醸し出しているな……

 

 そうやって俺は現代で復讐を成し遂げた時のように相手のことを観察し調べ上げる。癖は無いか、必ずやる行動は無いか? 相手を恋人のように知ることで見えてくるものがある。


 確実に殺すには――


 「それしか、無い……!」

 「アル!?」


 母さんの声が耳に入るがそれには構わず俺は姿勢を低くしたままラヴィーネに接敵。


 「……! そこだ、アルフェン!」

 「ああ……!!」

 『む、盾になるつもりか老いぼれ……!』


 爺さんが俺の意図を汲んでくれたようで相手の視界を塞ぐように立ちはだかる。

 俺はそこから左に停滞ファイアーボールを出す。


 『そっち……じゃないだと!?』

 「こっちだ! くらえ!!」

 『なんと……!』


 飛び出すようにして側面に回り込んで俺が狙ったのはヤツのガントレット。

 こいつを壊せれば……!!


 『フッ、確かに防具を破壊されれば私も手数が減るが、これを破壊することはできん!』

 「くっ……!」


 全力でガントレットを突き、芯を捉えることができた。

 しかし、手ごたえは良かったがびくともせず、ラヴィーネが笑いながら手を引いて虹色の剣を俺に振り下ろしてくる。


 だがその瞬間――


 『なに!?』

 「やった!」

 「兄ちゃん凄い凄い!!」


 ガントレットにひびが入った後、粉々に砕け散った!


 『馬鹿な……神のもたらした金属と呼ばれるガリオルド鉱石で出来たこの鎧を砕くとは……本を持つ坊やのそれもまさか……』

 「よくわからないけどどうやら装備品の優位性は奪えそうだな」

 『面白い……!』


 腕の血をなめとりながら俺を見て口の端を持ち上げる。

 

 「ゼルガイド、ギルディーラ! ワシらは牽制じゃ、アルフェンに攻撃を任せるぞ!」

 『任せろ』

 「ああ……!」


 反撃のチャンスを掴んだ。

 俺は全員を回復魔法で癒してから次のアタックを仕掛けた!

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