231.お互いが追い求めたもの


 『くく……くはは! 凄い、凄いぞ坊や!!』

 「俺にはアルフェンって名前があるんだ!」

 

 四人がかりで、しかも魔神がいるというのにラヴィーネは怯むことなく剣を振るってくる。

 だが今までできていた行動に制限がかかったせいか一方的に返されるということは無くなったのはこちらにとってかなりプラス。


 俺のマチェットなら全力で振ればヒビを入れられ、そこから破壊。

 現状、ガントレット二つを破壊して右胸のあたりに亀裂が入り、あと少しで殺しきることができる未来が見える。


 「魔法は効くか……!」

 「アル、俺がやるからお前は背後から魔法を撃ってみろ!」

 『そんな甘い一撃など』


  俺は一度距離を取り防具が魔法が、代わりに父さんが割り込んできてくれたが、角度がまずかったのか隙が出来た。


 「チッ……!」

 『首を刎ねれば回復は意味を為すまい!』

 「それをさせんためのワシらだ!」

 

 バランスを崩した父さんの首に虹色の剣が横薙ぎに飛んでいくが、それを爺さんが弾いて軌道を変える。


 「剣が……!?」

 『折れたか、次は貴様の番だな!』

 『アルベール殿! 武器を探しに行くのだ、ここは任せてくれ』

 「……すまぬ!」

 『うおおおお!!』

 『まだ力尽きるなよ魔神!!』


 <つ、強い……!>

 「だけど、向こうも余裕はなさそうだ。恐らくあの装備が自然治癒も担っていたんだろう、傷が塞がらなくなっている」

 <本当だ……>


 血だらけで笑うラヴィーネに痛みはないのかとぞっとする。

 回復魔法は使えないようで『英雄』ならそれくらいの素養はもっていそうなのにと違和感を感じる。


 『ぐあ!? ……だが!!』

 『くく、いいね、いい攻撃だ……!』


 ギルディーラが左肩に剣を落とすと鮮血が噴き出す。

 

 もう少し。

 

 爺さんが一旦戦列を離れたのでこのまま俺も攻撃を続行するつもりだがアイツの言うように『ブック・オブ・アカシック』に策が無いか聞いてみるのもいいかもしれない。


 「……どうだ?」


 ‟……ついにこの時が来たか。 問題ない、現状を聞かせてくれ”


 「父さんとギルディーラが仕掛けていて、鎧は一部破損。相手もこっちも傷だらけだ」


 ‟そうか、魔神が居たのだったな。ヤツの右胸の鎧に傷はあるか?”

 

 「ああ」


 ”ならばマチェットでそこを『お前が』狙え。エクスプロードを撃ちながらだ。そして最後に右腕を使えば終わりだ”


 <……! それは――>

 「いい、紬。わかった、それでいいんだな?」

 

 ‟うむ。むしろそれでなくば終わらない。アルベールが戻る前に決着がつくだろう。……来るぞ”


 『ブック・オブ・アカシック』がそう記した瞬間、目を見開いたラヴィーネがギルディーラを突き飛ばして俺に向かってくるのが見えた!


 『アルフェン、それを渡せ! お前が持っていてはならぬ物だっ!!』

 「そんなに欲しけりゃくれてやる……!!」

 

 本をラヴィーネの頭上へ放り投げると、俺には構いもせず目をそちらへ向ける。


 『……!! 『ブック・オブ・アカシック』!』

 「爺ちゃん!」

 「うむ!」


 玉座の陰から出てきた爺さんの手には装飾が豪華な剣があった。

 その剣を振り抜き、ラヴィーネの背中に叩きつける。


 『がはっ……!? 老いぼれが!!』

 「うおおおお!?」


 爺さんを蹴り飛ばし、それでもなお『ブック・オブ・アカシック』を手に入れたかったのか、本をキャッチする。その瞬間、俺のマチェットが右胸を刺し貫く。


 『うぐ……!? ま、まだまだ……! この程度では!! 本は受け取った……後は所有者が死ねば――』

 「まだやるというなら!!」


 マチェットと虹色の剣が交錯し火花が散り、


 「『剣が欠けた……!?』」


 二人で驚愕し距離を取ると、『ブック・オブ・アカシック』が宙に浮かびと自動的にめくられていく。

 そしてピタリと止まり――


 『……!?  ば、かな! そんな! では私は自分の――』

 「なんだ? 動揺している? 文字が――」


 ‟撃てアルフェン! 【狂気の右腕パズス】を!”


 ここが終焉か……


 「父さん、ギルディーラその場から離れてくれ! 黒い剣士……ラヴィーネ=アレルタ、覚悟!!」


 水神を攻撃した時と同じレベルのスキルを発動し、ドラゴンの形をした光がラヴィーネを飲み込む。手には『ブック・オブ・アカシック』が。


 しかしこれには驚いたようで目を見開いていた。


 『これは……避けらない……!? ……いや、これが私の罪に対する罰、か――』

 「……」


 諦めた……いや、安堵し『ようやく』と言った表情をした彼女は避けようともせず、そのまま【狂気の右腕パズス】に飲み込まれた――

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