2.転生


 ――光


 光が見える……なんだっけ、俺はなんでこんなところにいるんだ……? 記憶が薄い……眠い……体を動かそうにも手足がなく、なんだろう……意識だけがどこかに向かって進んでいるという『感覚』だけ。

 

 ……いや、それすらもなんとなくで曖昧だ。

 唯一、光が大きくなっていくのだけがハッキリと分かるのが救いというか。

 やけに『視て』いて安心する光、近づくたびに意識が遠のいていく。

 それは俺を包み込んで――




 「ふぎゃあふぎゃあ!?(……ハッ!)」

 

 「う、生まれました元気な男の子ですよ!」

 「ふぎゃあ!(な、なんだ……!?)」


 俺に顔を近づけてくる女性に驚いていると、不意に男性の前に差し出された。


 「おお……おおお……頑張ったね、マルチナ!!」

 「はあ……はあ……あなた、私達の赤ちゃん、見せてください……」

 「奥様、どうぞ」

 「ああ……無事に生まれてくれた……良かった……」

 「あぶー(凄い美人だ……それにしても……)」


 首が動かないので視線だけ動かしてみる。

 どうやら白い服を着た女性は看護婦のようで、ここは病院。

 ……そして俺は赤ん坊のようだ。


 そういえば赤ん坊からやり直しみたいなことを言っていた気がする。


 だが――


 「あぶぶう!(大人の意識を持ったままこの姿はきつすぎる!?)」

 「あらあら、どうしたのかしら?」

 「産まれたばかりだと最初はよく泣くのでこんなものですよ。それでは奥様の隣に、と」

 「うふふ、可愛い。ママですよー」

 

 美人が母親らしい。

 おっとりした喋り方で、首筋まである絹のような金髪がとても綺麗だ。

 

 「パパだよー! ああ、もう可愛いなあ! 男の子なら僕の跡継ぎだ、マルチナみたいな人と結婚させよう!」

 「あばぶー(なんとなく分かっていたけど親父か)」


 一方、赤に近い茶髪をした頼りなさげな男が俺を抱き上げてから満面の笑みでそんなことを言う。

 冴えない顔だが父親らしい彼に気が早いことを言うなと思っていると、母マルチナが苦笑しながら俺の考えと同じことを口にする。


 「もう、ライアスったら。まだ早いわよ」

 「そ、そうかな!?」

 「あぶー(だな)」

 「ほら、この子もそう言ってるわ」

 「ええー。はは、ゆっくり育てていこうか。お疲れ様マルチナ、僕は仕事に戻るよ。名残惜しいけど……名残惜しいけど」

 「ふふ、可愛い我が子ともっと顔を合わせたいわよね。ふう……疲れちゃったから少し横になるわ」

 「うん。あ、そうだ名前」


 父親が手を打ってからそういうと、母親が俺の頭を撫でながら口を開いた。


 「私、考えたんだけど‟アルフェン”なんてどうかしら?」

 「キルト語で『勇敢な人』だね。いいね、流石マルチナだよ!」

 「きゃ、ほら、アルフェンが驚くからお仕事に戻りましょ? ね?」

 「あばぶー(勝手にしてくれ……)」


 父親は母が大好きらしいということが嫌と言うほど伝わってくる。

 まあ、こんな美人が奥さんなら舞い上がっても仕方がないと思う。それに親父、冴えない感じがするし。


 「あぶー……(眠い)」

 「あ、お眠みたいね。おやすみアルフェン――」


 というわけでどうやら俺はどこかの誰かと家族になったらしい。

 前世……と言っていいのか分からないが、前の両親と妹を少しだけ思い出しながら俺は眠りについた――

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