166.作戦を練ろう


 「どうしてここに?」

 「いやあ、フェイバンを追って王都へ戻るつもりだったんだけどちょっと野暮用でな」

 「もう依頼かい? オーフって結構忙しいよね」

 「ま、人気者はつれえってことだ。で、お前はどうしたんだ? まだ国境を抜けてなかったのか?」

 「あー……」


 とりあえず先ほどあった顛末を説明することに。

 隠しても仕方がないので全部話すと、ロレーナが口を尖らせて憤慨していた。


 あいつらの言い分は納得は出来ないとはいえ、本が言うように殺すのは逆にこちらが本物の反逆者にされるのでそれ以外の方法を考えなければならない……

 

 「なら、俺達と一緒に行ってみるか? 隠れていれば抜けられるかもしれねえ」

 「うーん、でも仕事中なんだろ? それにライクベルンへ行く用事は無いと思うし、それにバレたらオーフ達も巻き込んじゃうからな」

 「まあ、確かにねえが……」

 「まあまあ、オーフ。そうね、私達はこの町で仕事をしているから声をかけてねー」

 「お、おい、ロレーナ……」

 「ありがとう二人とも!」


 助かるなと思いつつ、いざという時は頼るかとギルド内へ行くオーフ達を見送った。

 

 <でもどうします? 山を越えるしか方法が無くないですか?>

 「そうだな……」


 ――それから俺はまず顔を隠して町を散策。一日、二日じゃ向こうも警戒して近づいてこないであろうことを考慮してみた。

 

 オーフ達には協力してもらう可能性も考えて接触は避けた。宿は同じだったから食堂などで背中合わせにこっそり会話する程度だが。


 結局、7日ほど町に潜伏してあいつらの動向を探ってみたが、町へ来ている様子はなく、クリーガーと馬を置いて隠れながら国境付近まで行ってみたこともあったが、俺を警戒してか兵士の人数がやたらと増えていた気がする。

 ディカルトとかいう責任者は常に前へ出ていたので面倒だな……


 簡単に言えばライクベルンへ入るのが相当困難だということだけが判明しただけでなんの解決法も見当たらなかった。


 「こうなったら樽にでも隠れて行くしかないか?」

 <獣人兄弟と同じ末路!? でも、国境を見る限り商人さんの積み荷もしっかり調べられてましたよね>

 「だなあ……」


 まあ、町にあいつらが来ていないなら考えようはあるか。

 しかしどうするか……?


 そんなことを考えていた十日目のことだ。


 「とりあえず昼飯を食ったら山を越えられるか確認しないとな。かなり厳しいらしいけど」

 <まあコテージがありますし、ゆっくり戻ればって感じじゃないですかね>


 結局、そこしかないかとリグレットの案を採用する。

 北側になるが、魔物もまだ多いのと馬が登るにはきつすぎるようなので馬と馬車は残念ながらオーフに任せるか。


 すると、町の通りで見たことがある人物を見つけて俺は目を見開いて驚いた。


 「あ、あれ!? もしかしてリンカじゃないか?」

 <おや、そうみたいですねえ? まさかアル様を追って! モテモテじゃないですか!!>

 「いや、そんなことは無いだろ? だけど、なんか慌ててる感じがするな」


 旅人風の男と一緒に居るリンカがそわそわしているのが見えて眉をひそめる。

 俺の状況的にあんまり関わらない方がいいと思うが、顔を隠して近づいてみることにした。


 「おい……おい、リンカ……」

 「え? だ、誰だ……?」

 「リンカ殿、私の後ろへ」

 

 旅人風の男が俺から守るように立ちふさがる。相変わらず尊大な喋り方をするなと苦笑しつつ顔を隠していたフードとマフラーをずらして顔を見せる。


 「あ……!? アルフェン君……!」

 「おお!! 神の導きか……!!」

 「は? え? なに? どういうことだ?」

 「事情は……ここでは少し……」

 「ん、わかった」


 深刻な事情か?

 そう感じたのでこの数日で調査した飯屋の内、この時間なら人が少ない酒場の隅で話すかと移動。


 「居酒屋……」

 「え?」

 「あ、いえ、なんでもないぞ。こういうところに来るんだな」

 「こういうところの方が飯は美味いんだよ」

 「……!」

 「私もバーのようなところばかりなので興味深いですね」

 「ま、それはおいおいってことで。で、どうしたんだ?」

 「えっと――」


 沈んだ顔で俯いたリンカがぽつりぽつりと話し出す。

 衝撃としか言えないもので、きちんとした貴族のお嬢さんだったのに、両親が亡くなってから叔父に家を乗っ取られたそうだ。

 当時まだ8歳の彼女だったが、あれよという間に追い出されてしまったらしい。


 「……遺産は持てる知識を総動員して私が持っているが、土地と屋敷はどうにもならなかった」

 「遺産が取られなかっただけ良かった……ってすごいなお前……」

 「まあ、勉強はしていたからな。それでその叔父がクズみたいな家に私を嫁がせようとして、見返りは特産品の独占。金の亡者といういい例だ」

 「それでワイゲル様は養子としていないことを理由にリンカ殿の『自主性』を尊重したということで冒険者として送り出したのです。しかし国内ではいずれ捕まる……なので、他国へ行くことにしたのですが……」

 「アテが無い。で、ライクベルンへ行く俺を追って来たってわけか」


 確実に別の国へ行き、同い年、そこそこ強いということもあったのが理由だそうだ。

 しかし、だ。


 「俺の最終目標は黒い剣士の討伐だ。それになんかわからんけどライクベルンで俺が反逆者扱いになっているらしい。一緒に居るのはあまり得策じゃないぞ?」

 「なんと……」


 一瞬、『ブック・オブ・アカシック』のリンカ推しが頭によぎる。とはいえ事実は伝えないといけないので正直に伝える。


 「アルフェン君は反逆者なのか?」

 「違うわ!? 俺は潔白だし! 話した通りイークベルン王国でずっと過ごしていたからな!」

 「ふふ、わかっている。なら堂々していればいいじゃないか」

 「ったく、意地悪だな。だが、今は手をこまねいているのが現実でな、向こうへ行くならリンカ一人の方がいいと思う」

 「ふむ……」

 「それは……」


 旅人風の男……どうやら騎士らしい。が、困ったという顔で口を開き、リンカは顎に手を当てて考える。

 この手つき、どこかで……? さっきの言葉も――


 「しかし、今の私に頼れる者も居ない。彼は……ホウフラットも長居はできないからな」

 「うーん……」


 命の危険があるのにと頭をかく俺。

 本が言うこともあるし、居ると役に立ってくれそうな気はするが――


 「あら、リンカちゃん? なんでここに」

 「ロレーナさん? ここにいらしたんですね」

 「そっちはスリアン国の騎士か? どうしたんだ?」


 俺達が現状を話すと、オーフは真剣に話を聞いた後に……


 「なるほど、これは使えるかもしれねえ。もう少し待てるか? フェイバンに連絡を取る」

 「「??」」


 オーフはいたずらを思いついた顔で俺達の頭を撫でていた。

 

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