99.アルフェンの策


 門番のところからさらに歩き、王都のギルドへとやってきた俺達。

 彼らの話を聞いてから町を見ると、改めて異質な場所のような感じがして背筋が寒くなる。


 まあ、俺としてはこの国がどうなっても出来ることは無いので、エリベールのためだけに注力するつもりだ。

 国を救うなんて大層なことが、たかだか10歳の子供にできることはない。

 ただ、クソエルフに相応の礼はさせてもらいたいのでこの場にいるわけだが。


 「とりえあず依頼を見てみよう」

 「そうだな」

 

 グラディスが扉を開けて中へ入ると、喧騒に包まれている室内が広がっていた。

 ゲイツの居たギルドに比べれば多い方だが、規模の割には……って感じだな。

 俺が室内を見渡しながらそんなことを考えていると、喧騒が止み、俺達に注目してきた。


 「見たことねえ面だな」

 「まあ、別にそこは気にすることじゃねえが……」

 「なんで子供を肩車した男がギルドへ入って来るんだ? ははっ、子守りは家に帰ってやってくんねえか?」

 「お!? お、降ろしてくれグラディス」

 『分かった』


 そういえば肩車されたままだった……

 俺はしゃがんだグラディスの肩から降りると、こっそりマチェットを取り出して腰に装備。


 『ごめんグラディス。なんか久しぶりに目線が高かったからそのままにしてたよ』

 『別に構わん』

 

 「お、おい、魔人族だぞあいつ……」

 「みたいだな……他の町ならまだしも王都に来ているとは……命知らずか」


 俺が地上に降りて再び並び立つと、どよめきが起こる。

 魔人はどこに行っても恐れられているけど、妙に突っかかってくる奴が居なくなるのはありがたい。

 

 とりあえず、どこも似たようなもんなんだなと思いつつギルドの受付カウンターへと向かう。


 「……なんだ、坊主」

 「俺はアルフェン、こっちは魔人族のグラディスって言うんだ」

 「ギルドカードを持ってんのか? どこで作った?」

 

 ギルドの受付って漫画とかだと女性が多いのにこの世界はいかついのばっかりだな……


 「えっと、ゲイツって人と適正があるか確かめて貰って合格したんだ」

 「ゲイツか!? ほう、見た感じ偽物でもねえし、坊主は戦えるんだな?」

 「一応ね。誘拐されて、身一つになったから嫌でもこうなるさ。グラディスが居なかったら野犬の餌だった」

 「……」


 顎髭を撫でるおっさんと、俺達を興味深げに見てくる冒険者達。

 しばらく無言だったが、おっさんは口元をにやりと歪め、俺の頭に手を置いて口を開く。


 「がっはっは! 生意気な坊主だな! だが、自分のことをよく分かっている。……それに、その魔人族も打算でついてきているわけじゃなさそうだしな」

 「ん」


 俺の頭に手が置かれた瞬間、グラディスが腰の剣に手をもっていき、抜きかけていたのだ。俺になにかあれば容赦しないとでも言いたいのだろう。

 

 「カードがあるなら冒険者仲間だ、歓迎するぜアルフェン。俺はギルドマスターのイゴールだ。冒険者の育成には力を入れていねえから俺一人で切り盛りしている」

 「話が早くて助かるよ、イゴールさん」

 

 俺が握手をしていると、何故か拍手とでかい声で歓迎される。


 「坊主、気合入ってんな! 誘拐されて生き延びたんなら運がいいんだ、冒険者向きだ!」

 「そもそも魔人族と一緒にいる子供ってのがやべえけどな!」


 「そっちの魔人族の兄ちゃんはしゃべれねえのかい?」

 「イゴール『さん』って面かよ、イゴールでいいって」

 「あはは、ギルドマスターだから流石に」

 「ヨロ……シク」

 「喋った!?」


 グラディスが仏頂面で握手を求め、一通り挨拶をしたら元の喧騒に戻っていく。

 

 「よう、騒がしくしちまったな。新しい冒険者ってのも最近は増えなくてな。町で店をやったり雇われたりするヤツらが増えてんだ」

 「安定を求めているってことか」

 「まあ、そんなところだな。ただ、魔物は減らないのに兵士は遠征を出さない。こっちも数に限りがあるから早々出ることもできねえ。見ろよ、この依頼の数」

 「うへえ」


 掲示板に貼られた依頼票を見ると、周辺の町や村といった場所からの依頼で、魔物討伐がほとんどだ。


 「聞いたことも無い魔物もいるな……どれにするか」

 『なんでもいいぞ。ここに書かれている文字はよくわからんから一応、何を倒すかだけ教えてくれ』

 『オッケー。いや、待てよ……』

 

 俺は大量の掲示板からランク分けされた魔物の依頼を数枚はぎ取ってからイゴールの前に置いた。


 「これ全部受ける。まだ陽は高いし、いけると思うんだ」

 「はあ!? ま、まあ、受けるだけなら構わないけどよ……こいつなんて危険度Aランクのスラッシュベアだぞ?」

 「グラディスが居るから大丈夫だよ」

 「こいつもBランクの――」


 と、心配してくれたのか色々と危険な理由と、楽そうな昆虫退治を促してくるが「グラディスが居る」で押し通して依頼を受領することに成功。


 周りの冒険者も心配してくれたあたり、みんないいヤツっぽい。

 冒険者は持ちつ持たれつ、足を引っ張ったら死が早まるとか言ってたなあ。分かる気がする。


 というわけで外に出た俺達は早速依頼をこなしに現場へ向かう。

 その途中、グラディスが声をかけてきた。


 「一気に依頼をこなすのはいいが、なにか理由があるのか?」

 「うん。変な目立ち方はまずいけど、名誉ある目立ちはありだ。今日から面倒そうなのと、数をこなせば一目置かれるはず。もしかしたら、城に入る口実ができるかもしれない」

 「なるほどな。それなら、回転率を上げていくか――」


 なぜかグラディスが張り切って鼻息を荒くし、俺達は魔物退治へとしゃれこむことになった。



 ◆ ◇ ◆


 

 「グラディス! 追い込んだ!」

 「任せろ!」

 「グォォォォ!」


 今回の依頼は四つ。

 その内三つはすでに終わらせ、日が暮れた暗闇で赤い瞳のでかい熊を追い込む俺。

 小規模のファイヤーボールで移動先を封じ、今、グラディスが待ち構えている場所へ誘導できた。


 「すまんな、たぁぁぁぁ!」

 「よっしゃ!」

 「グゴォォォ……」


 四つん這いに眉間に大剣が振り下ろされ、鮮血をまき散らしながら重い体を横たえた。


 「ふう、俺の剣じゃこの毛皮をボロボロにしてしまいそうだったから助かった」

 「いや、お前の歳でこいつに刃を立てられるのが凄いんだがな? ……さて、帰って夕飯にするか」

 「だな。金にもなるし、いいことだな」


 ――俺達は町へ戻り換金すると、キャンプ飯でない食事を摂ってゆっくり休み、翌日からも精力的に活動をすることになる。

 

 さて、これが正解か? 結果は――

 

 

 

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