113.過去の話

  

 「誰から質問されますか?」


 はやる気持ちを抑えてこの場にいる全員に尋ねてみる。

 実を言うと【呪い】以外に聞くことはないだろうと思っていたのだが、ひとつ聞きたいことが浮上した。

 そのため少々長くなると思うので、最後にしようと考えている。

 すると、当然だが国王が小さく頷いてから一歩前へ出た。


 「父の代からよくも謀ってくれたものだなカーラン。この病気は貴様の仕業か?」

 「まあ、今更だと思いますがねえ。私ではありませんよ。

 徐々に体がマヒして動けなくなる‟ドールズメイカー”という病気ですが、頭まで侵されればいわゆる廃人になっていたでしょう」

 「な……!?」


 未知の病ってわけではないけど、馴染みのない病気らしい。

 国王が驚愕していると、鼻で笑いながらカーランが続ける。


 「死なれては困るので、症状は緩和していましたがね? そこは感謝して欲しいところですよ。本来ならもう少し前にこの世からいなくなっていた可能性が高いですし」

 「……おのれ……。父もそうだったというのか?」

 「ですねえ。あれこそ【呪い】みたいだと思っていましたよ、くくく……」

 

 しれっと恐ろしいことを言うヤツである。

 こいつがやったとしか思えないが、確かめようがないので今は国王が治ったことを喜ぶべきだろう。


 「分かった。この件についてはもういい。次に攫ってきた子供たちは地下に閉じ込めていたあれだけか? 他にどこかに居るのではないか?」

 「大将と呼ばれていた男から実験室は聞いたが、そこにはなにも無かった」


 国王とヘベル大臣が次いで質問を投げるが、カーランは嫌らしい笑みを浮かべてから口を開いた。


 「くっく……実験室と今いったではないですか。そう、実験材料だったのだから全員始末していますよ? まあ、若い方がいいと子供をさらっていましたが、受精はそれなりに歳を取っていた方がいいと気づきましたがね」

 「受精だと? 子供を作っていたのか?」

 「私のではありませんよ。魔人の子と魔人の子、人間と魔人など組み合わせを変える、マナの優劣、そういった要素のデータ収集のためでした」

 「気の長い話だな」


 俺がそう言うとカーランは小さく頷く。

 そのあたりは加味しているとばかりに語りだした。


 「まあ、そっちはバレない前提で進めていましたから、特に問題は。本懐としてはあくまでも優秀な人間にマナを供給、組織の移植といった外付けの効果がどれほどあるかを試したかったのです」

 「げ、それを俺にやるつもりだったのか……」

 「ええ」

 「それで子供たちを犠牲にしたのか……未来でその子達がお前の言う『英雄』になるとは思わなかったのか? それか、育てようとは」


 国王が放ったその言葉に、カーランは不意に真顔になった。


 「……英雄アレになれるのはほんの一握りだと人族でも分かっているとおもいますがね? 素養・素質・生まれ持った能力。それらがなければとても無理だ。それができるのであれば私が英雄になっている」

 

 まあ確かに、200年は生きているエルフがそういうのだから並大抵なものでなれないのは分かる。分かるが……


 「他人を犠牲にしていいわけがないだろうが……自分の子でも改造するなんて許されることじゃない」

 「それができれば苦労はしませんよ」

 「では、子供たちは……」

 「等しく土へ還りました。気の毒ではありますが、これも英雄を魔神を作り出すため……」

 

 カーランが薄ら笑いを浮かべた瞬間、カッとなった国王が殴りつけた。

 椅子ごと転がり、ヘベル大臣が再び起き上がらせる。挑発しまくりだなこいつ……


 「……私はもういい。自分の子と同じ年の子供たちが犠牲になったかと思うと、吐き気がする……! 父が招き入れなければこんなことには……いや、そうでなくば私は助からなかったのか?」

 「くくく……そうだな、私が居なければアルがここに来ることもなかったでしょうし感謝して欲しいものですな」


 楽し気なカーランとは裏腹に国王が睨みながら下がり、すぐに俺達へ顔を向けてから『次は?』と声をかけてきた。

 両親とグシルスはこいつに関しての情報が少ないため、必然的に次は俺になるだろう。案の定俺を見て頷いていたので、そのままカーランへ質問する。


 「カーラン、お前にはいくつか聞きたいことがある。一つ目は、どうして英雄を作ろうと考えた? シェリシンダになにか恨みでもありそうな感じだったな」

 「……そうですねえ……、少し長くなりますがよろしいですか?」

 「時間はある、離してくれ」

 「くくく……どこから話しましょうかねえ」


 カーランが話し始めたのはまだ大森林に多くのエルフが居た時代のことだった。

 250年ほど前にこいつは大森林で暮らしていて、多くの仲間と集落を形成していたそうだ。

 シェリシンダ王国とイークンベル王国との境にある大森林は両国の橋渡しとして、エルフ達が安全を守る代わりに、食料や生活用品などを用意して互いの生活を支えていた。

 しかし、時のシェリシンダ王がエルフを囲おうと、今回と同じく誘拐を企て、大森林は大混乱。

 そんなことをした理由は自身の家系にエルフの血を入れて美貌と寿命の長命を求めたのだとか。


 「実際、自分の娘とエルフの男を結婚させ、自分は別でエルフを妾にして子孫を残していたらしいですがね。だからこそ私は時間をかけ、エルフに伝わる呪いを覚え、昇華したわけです」


 それで逆に寿命が短くなる呪いをエリベールの家系にかけたのだそうだ。

 顔の傷は村を襲撃された際に負ったものだとか。


 「……確かにあたしが生まれる前にそんなことがあったって聞いたことがあるよ。父親は優しい人で、母さんがエルフだったんだ。当時のシェリシンダ王国が嫌で大森林に逃げて暮らしていたみたいだけどね」

 「ああ、あの家?」

 「そうそう。冒険者としてイークンベルに行っていたんだけど、父さんは人間だから寿命で、母さんは病気でね。だからあんたを拾った時は一人で住んでいたってわけ」


 父さんと出会ったエピソードなんかも聞いてみたいが、今はその時じゃない。

 

 「で、梟のペンダントで呪いは解けたのか? 他に呪いをかけた家や人は居ないか?」

 「ええ、きれいさっぱり。術者が死ねば自然と消滅するのでご安心を」

 「信用できるのかねえ」

 「シェリシンダ王国の騎士でしたか? 信じようと信じまいと私にはどうでもいいこと」


 また不敵に笑う。

 恨みがここまで強いのは恐らく――


 「カーラン、あんたの大事な人も攫われたんだな」

 「……」

 「まあ、それこそ今更だしどうでもいいこと、か」

 「そう、ですねえ。あの時、君のような……いえ、なんでもありません」


 カーランは口元をにやけさせたまま目を閉じて首を振る。

 諦めたというより、死に急いでいるような気がしなくもないがその心境は分からない。


 「それじゃ次だ」

 「どうぞ」


 俺は続けてカーランに質問を続ける――

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