8.来訪者
「お父さんいけー!」
「おおー!」
本を片手に持ち、親父に肩車されていざ庭へと向かおうと歩を進めていると、メイドのイリーナさんに連れられた渋いおじさんが目の前に現れた。
男は鋭い目を親父に向けながらゆっくり口を開く。
「邪魔しているぞ」
「あ、お義父さん!? これはお出迎えもせずに申し訳ありません」
「良い、連絡も無しで来たからな。子供が産まれたそうだな」
「ええ! この子、アルフェンを授かりました。アル、お爺ちゃんだよ」
「お、おじいちゃん……!? こ、こんにちは、初めましてアルフェンです」
「……うむ」
色々とびっくりすることが盛られているけど、まず結構若い。親父に比べたらほりが深いがおじいちゃんと呼ぶには若い見た目。
次に怖い。
いや、雰囲気ではなく『目』だ。これは確実に人を殺している……そう、戦う者の目だ。
俺が挨拶をすると、帽子を下げて目を合わさないように短く返事をする。怒らせてしまっただろうか……? さ、流石に孫を殺したりしないと思うけど。
「奥様の姿が見えなかったのでお連れしました、申し訳ありません」
「ううん、いいよイリーナさん。ごめんよアル、お義父さんが来たから魔法はまた今度だ。マルチナを呼んでくるからおじいちゃんをリビングまで連れて行ってくれるかい?」
「う、うん、いいよ」
マジか。
人のことは言えないけど暗殺者みたいな雰囲気の爺さんと二人きりにするとは。親父、恨むぞ。
「そ、それじゃ行こう、おじいちゃん。」
「うむ」
「あ」
恐る恐る爺さんの手を取ると、ごつごつした掌の感触がする。職人とかそういう感じの手だ。
だけど、両親が貴族ならこの人も貴族のはずなのにな?
そんなことを考えながら不機嫌そうな顔をする爺さんの手を引いて歩くと、ため息を吐く。
どっちの親か分からないけど、もしかして親父と仲が悪いのだろうか……。
例えば親父が母さんと駆け落ちして、一応許されたけど実はまだ怒ってて、その息子の俺が疎ましいとか……
あり得る。
ゲームや小説ならよくある設定だぞ……そして、人知れず始末する……
「うう……」
「……どうしましたアル様?」
「ううん、なんでもない! どうぞ!」
身震いする俺に、イリーナさんが心配そうな顔でしゃがみ込んでくれるが、気を取り直してリビングに入る。
すると――
「ご苦労だった、イリーナ。後はアルフェンと待たせてもらおう」
「かしこまりました」
「あ、待っ――」
二人きりなどとんでもない!?
イリーナさんを止めようとしたが、無常にも扉は締まる。残された俺が後ろに立つ爺さんにゆっくり目を向けると、鋭い視線を俺に向けていた。
「ど、どうしたのおじいちゃん? 座らないの?」
「……」
爺さんは俺を見下ろし、そして両手を俺に伸ばす。
や、殺られる……!? 前世ならまだしも、この体じゃ抵抗できない。
あのクソ神、これを見越していたのか!?
ぎゅっと目を瞑ってその時を待つ。
だけど次の瞬間、俺の体がふわりと浮いて高らかに持ち上げられた。
「くく……はははは! 孫だ! ワシの孫だ! 男の子か、マルチナは頑張ってくれたな!」
「ええ……?」
高らかに笑いながらそんなことを言う爺さんに困惑を隠しきれない俺をよそに喋りは止まらない。
「あの二人の子だと性格が心配ではあったものの、どうだワシを見ても泣きもしなかった。お前は強い子のようだな」
「あ、うん! おじいちゃんは僕が嫌いじゃないの?」
「そんなことあるわけなかろう!? 生まれたと聞いてすぐに会いに来たかったが、仕事が忙しくてなかなか来れなかったのだ。三年……くう、小さいころから見たかった……」
「あはは……」
どうやら俺の勘違いだったようで爺さんは孫に早く会いたかったらしい。親父と母さんと同じく、孫馬鹿になりそうな予感がする。
「おばあちゃんは?」
「バーチェルは家だな、ちょっと仕事でこっち方面に来たから寄ったのだ。よし、このままおばあちゃんに会いに行くか!」
「だ、だめだよ、お父さんたちに言わないと!?」
「くそ、バーチェルにも見せたいのに……!!」
威厳はあるんだけど、やっぱり肉親なんだなあと苦笑する。
そこで扉がノックされた。
そして爺さんは驚くべき速さで俺を抱えてソファに座ると、また怖い顔になる。
まあ、膝には俺を置いているんだけど。
「いらっしゃいませお父様、来られるんでしたら一報入れてくだされば良かったのに」
「……久しぶりだなマルチナ。仕事の帰りで立ち寄らせてもらった、すまんな」
「いいえ、大歓迎ですよ! あら、もうアルと仲良くなったのですね」
「む、まあな」
「遅れましたがお久しぶりですお義父さん」
「うむ」
あー、爺さんはアレかな、大人には威厳を出したいって感じな気がする。
舐められないようにする、ってのが裏稼業の人間にはあったけどそれに似ている気がする。実際には気のいい人が多かったから特にそう思う。
「まずは二人ともご苦労だった。元気な子で一安心だ、この子はワシを見ても泣いたりしなかった、強い男になるぞ」
「ふふ、お父さんにそう言われると嬉しいですね」
「そうだね。というかライクベルン王国で五本の指に入るアルベール=ゼグライト将軍の血が入っているんだ、強いのは当然だと思うけどね」
「……!」
なんと、どうやらウチの爺さんは結構なお偉いさんのようだ。
それと苗字からすると親父は婿養子みたいだ。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとうイリーナ、それじゃ旅のお話とアルのお話をしましょうか」
母さんが手を合わせて笑顔でお互いの近況報告が始まる。
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