管理塔での攻防
第188話
管理塔の屋根は斜めに切り落とされたようになっており、一番崩壊が激しいところは壁すらほとんど無い。寄りかかろうとしたらそのまま地上に真っ逆さまだ。
レイさんとクロちゃんはそこで結界を張って時間を稼いでくれていた。寝返りを打って死ぬことを恐れたのか、クロちゃんは一応少し壁が残ってるとこで寝てるけど、そこで寝れるメンタルが信じられない。
私達はクーから管理塔の床へと飛び移ってから、レイさんに事情を聞いた。
「やっほ。で、君が青の柱の巫女? 正統派美女って感じじゃん」
「そうなんですの。あなたは事実を見通す力がございますのね。私の名前は、ジャスティス・ゴージャ」
「ニールだよ! 二人とも、仲良くしてあげてね!」
私はニールの言葉に被せて発言した。それでもクロちゃんは何かを察したらしく、訝しげな顔をして彼女をじろじろと見ている。まぁ怪しむなと言う気はない。怪しいもん、この人。変な名前名乗るし、すぐ脱ぐし、きらびやかな名前のエグい魔法使うし。ここで取り繕っても化けの皮はすぐに剥がれると思うので、あまりフォローはしなかった。いま割って入ったのはあくまで時間短縮の為だ。というか、正面からバシバシ魔法を撃たれてるのに、気にならないわけがない。
ローブのフードを被った魔術師が並んで魔法を放っているが、レイさんの作った魔法障壁によって遮られているのだ。だから、安全なのかもしれないけど、全く心が休まらない状況っていうか。
「あ、転送陣も魔法で防御してるからちゃんと使えるよ」
「そ、そっか。よかった。じゃあ、行こっか」
「どこに?」
レイさんは不思議そうに首を傾げている。いや、その反応はおかしいよね……?
転送陣はすぐ見えるところにある。ちゃんと保存されている。出発前のレイさんの話だと、出口となる力のみを一時的に無効化し、私達が戻ったらここから移動する為に使う、と。
目を丸くする私、そしてマイカちゃん。さらにレイさんも困った顔をしてこちらを見ている。え?
見兼ねたクロちゃんがレイさんに寄りかかりながら、言った。ラン達は障壁を出した状態で転送陣の起動ができると思ってるんじゃないの? と。
「あぁ〜! そういうことか! さっすがクロ〜♥」
「そういうのは良いから、早く説明した方がいいと思う」
「もー。クールなんだから。ま、いいや。私もとっとと転送陣を起動して飛んだ方がいいと思ってるよ。でも、機能を部分的にブロックした状態で転送陣を動かすってすごい大変なんだよ。だから、それだけに集中しないと無理なんだ?」
私はレイさんの話に耳を傾け、眉間に皺を寄せた。それってつまり。あの何十人という人間を私達で……あんまり考えたくない感じの話になってきたな……。
「障壁解いていい? 私とクロは完全にノーガードになるから、守りながら時間稼いでね。多分十分くらいかな? そんじゃ」
「待って待って! 何も考えてないのに障壁解こうとしないで」
「アンタどんだけ考え無しなのよ」
これまで話を聞いていたマイカちゃんは、腕を組んで呆れた顔でレイさんを見た。彼女なりに、年上にそんな視線を向けることに違和感を感じているかもしれない。
「そうだよ、あのマイカちゃんがこう言うんだよ?」
「マジかぁ〜……マイカに言われるなんてヤバ過ぎるよね……反省しよ……」
「私の扱いがムカつくから一発ずつ殴っていいかしら」
「私はいいとして、華奢なレイさんは本当に死にそう」
後ろの方で静かに話を聞いていたフオは、私達に存在をアピールするように声を上げた。ちなみに、ニールと手を繋いでいる。それも指を絡めるようなやつ。大丈夫、分かってる。ラブラブとかじゃなくて、今にも脱ごうとする裸族の手を塞いでるだけだって。痛いくらいよく分かる。
「こんな崩れかけの塔じゃランは女神達の力を振るえない。ということは呪文で乗り切るしかないんじゃないか?」
「私は?」
「魔法使えるようになってから言えよ」
「なっ! 何よ! なんっ! ふん!」
フオちゃんにいじわるを言われたマイカちゃんは、何一つ言い返すことができずに地団駄を踏んでいる。塔が崩壊するからやめて。
でも、彼女の言う通りだ。魔法を使える人間が三人もいるんだもん。数では全然負けていて心許ないけど……それでも、一人じゃない。幸い、向こうも派手な呪文は放ってきていないし。ここは上手く立ち回って、少しずつ数を減らそう。とりあえずは同じ部屋にいる魔導師を倒して、その次は降りて下の階も制圧して、追っ手が来ないようにできればいいかな……?
「よ、よし……」
なんとかなる気がしてきた。計画を具体的に考えると、ちょっとだけ心が落ち着いてきたっていうか。
「頑張ろう!」と言おうとした直前、敵の魔導師から、火の津波という感じの魔法を浴びせられた。レイさんのバリアが全部防いでくれたけど、生身であれを受けたら、おそらく秒で骨になると思う。服とか体とか焼けて。いや、骨、残るかな。とにかく、かなり強力な呪文だった。
「ラン、ちょい待ち。今の呪文やべーだろ。やっぱちゃんと作戦考えよう」
「よかった。私もそう言おうと思ってた」
ね。誰も率先して骨になりたくなんかないからね。
だけど、マイカちゃんとニールは心なしか、障壁が無くなるのをそわそわしながら待っているように見える。この子たちホントに頭おかしいな。
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