第133話
薄暗い部屋の中で、私はマイカちゃんとベッドに座っていた。電気を消したのは、明るいとこのまま寝れなくなりそうだったからだ。
「あの人、なんだったのかしら」
「多分、オオノを探してるんだろうね」
「……不思議な服を着てたわね」
「そうだね。どこの民族なんだろう。名前の順番も変だし、そんな民族、聞いたことないよ」
ヤヨイさんは布を紐で留めるような奇妙な服を着ていた。男装とかを超越した格好だと思う。
とりあえず私達がオオノの居場所を知っていることは伏せておいた。もし私の考えが合っていたとすれば、オオノはヤヨイさんがこの街にいることを知っていて、あえて避けていると思ったからだ。
「オオノが街を出て行くって言い出した時、なんか違和感があったんだ」
「そうかしら」
「そうだよ。オオノだってマトが大事じゃない訳がないのに、やけにあっさりと街を去ることを決めたっていうか」
「大事だから迷惑をかけない為に、じゃないの?」
そこまで理解が及んでいてこの子はオオノの腹に拳を突き立てたんだ……こわ……。だけど、それだけが理由だとは思えない。私にはヤヨイさんが関係してるとしか思えないのだ。
「うぅん。私には、街を去る理由を見つけたように見えた。マトとのことをどう考えていたのかは分からないけど。あの服装だし、もしマトがヤヨイさんに会ってたら、オオノに話すと思うんだよね。変な人に会ったって。それでオオノはヤヨイさんがこの街にいることに気付いたんじゃないかな。つまり、オオノはヤヨイさんを避けてる気がする」
「……きっとランの考えすぎよ」
「そうかなぁ」
「なんか色々考えてたら眠くなってきたわ」
「そだね。寝よっか」
その日、私はマイカちゃんといつも通りくっついて寝た。ヤヨイの匂いがしてムカつくとか言いながら横になったから、八つ当たりで殺されるかもしれないと思ったけど、あれは事故だって分かってくれたみたいで、暴力を振るわれることはなかった。
翌朝、朝食を済ませると、なんだか嫌な予感がしてマイカちゃんと部屋を出た。付け髭をしているマイカちゃんも大分見慣れてきた気がする。
「なんで急いで部屋を出たのよ」
「ヤヨイさんからすれば、私達はやっと見つけたかもしれない弟の手がかりなんだよ? 昨日は夜も遅かったからあっさり帰ってくれたけど、それで終わるとは思えないっていうか」
「……なるほど、部屋に突撃される前に逃げたのね。私もアレに付き合わされるのは面倒だからいい判断だと思うわ」
私はドラゴンの餌の専門店に行くと、火吹き餌を買い込んで、一旦部屋に戻ろうとした。本当はこの後も街をぶらつく予定だったんだけど、いかんせん荷物が多すぎる。だってセールやってるんだもん……。
マイカちゃんは両手に紙袋を抱えている。私も持ってるんだけど、明らかに彼女の負担が多い。ビジュアル的に私が持ってあげた方がいいとは思うんだけどね。嵩張るだけで軽いから大丈夫なんて言って、マイカちゃんは荷物持ちを引き受けてくれたのだ。軽くないと思うんだけどね、それ。
道を歩いていると、陽気なお兄さんに呼び止められた。ナンパならお断りなんだけど、彼にそういうつもりは無いらしく、私達の荷物を見て話しかけてきたようだ。っていうかこの人、よく見たらお姉さんだ。本当にこの街の人は性別が迷子な人が多い。
「そこの魔具屋なんだけど、五千チリーンの大容量バッグ、三千チリーンにしとくから買わない?」
「大容量……?」
思いもよらぬ声掛けだったので、つい足を止めてしまった。マイカちゃんはほっときなさいよなんて言ってたけど、話を聞く価値くらいはあると思ったんだ。
「そそ。たとえばその子が抱えてる荷物を入れてもまだまだ入るよ。これなんだけど」
「本当に……?」
どう見てもバランスがおかしい。彼女が見せてきた魔具だというバッグは小さめのウエストポーチで、マイカちゃんが抱えてる荷物の方が明らかに大きい。
「マジだって。試す?」
「入る訳ないでしょ」
そう言ってマイカちゃんが鞄に荷物を近付けると、吸い込まれるようにして本当に中に収納されてしまった。中を弄ってみると、指先にビー玉くらいの何かが当たった。
「え……」
「ね? 出すときは触れたものを摘んで出せばいいんだよ。やってみて」
彼女の言う通りにしてみると、バッグは収納したときの状態のまま荷物を吐き出した。マイカちゃんは目を丸くしている。
「これ、いくらって言ったかしら」
「五千チリーンのところを三千チリーン! もし二つ買ってくれるなら五千チリーンにしとくよ! あ! 既存の鞄に同じ魔装を施したいなら言ってね! 加工費は二千チリーンだよ!」
「ラン、これ、すごいわよ」
「……お願いしよっか」
そうして私達は鞄を一つずつと、お店の前でクーの鞍に付いていた小さな鞄に同じ加工を施してもらった。これで七千チリーンは安いと思う。他にこんなお店知らないから比較はできないけど。
加工の様子は私がマイカちゃんの精霊石に力を付与する時みたいにすぐ終わった。何も変わっていない様子にクーは不思議がっていたけど、餌を中に収納して見せてやると翼をピンと張って驚いていた。
「毎度ー!」
荷物を置きに行く必要がなくなった私達は街を散策することにした。こんなアイテムがあるんならもっとクーの餌を買ってあげればよかったかも、なんて呟くと、マイカちゃんが今から行きましょうよなんて言ったので、私達は再び買い物をした店へと戻っていった。
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