第64話
ドロシーさんは私達を空いている椅子に座らせて話を切り出した。ちなみに、これらは配達に行っている社員のもので、数日は戻る予定が無いから遠慮なく腰掛けていていいらしい。
「二人のような人を探していたんだ! 話しだけでも聞いてくれないか!?」
「え? え、えぇ。まぁ」
少し面食らったけど、私達だってルークに助けられたし、できることなら協力してあげたい。お兄さんもいい人そうだし。力になってあげられたらと思う。
「良かった! 数日前のことなんだが、お得意さんからわがままを言われちまってなぁ。どうしても届けなければいけない荷物があるんだ」
ドロシーさんは少し視線を落としてため息をついている。よほど断りにくい上客なのだろう。人員が足りないから私達に配達を手伝って欲しいということだろうか。
協力してあげたいけど、そもそも飛竜になんて乗れないんだよねぇ……マイカちゃんは数秒で乗り方覚えちゃいそうだけど。
「平時であれば何も難しい地域じゃないんだ。ただ、最近あの地域で山賊がたむろしているらしくてな。同業者が積み荷を狙われる事案も発生しているんだ」
「あー……」
私は即座に何を求められているのかを理解した。そうだよね、配送業務なんて、会ったばかりの人にさせないよね。荷物を無くしちゃったり、盗んでそのままどっか行っちゃったり、そういうリスクがあるんだし。
隣を見ると、マイカちゃんは何故かほっとしていた。いやほっとする場面じゃないでしょ。え、何? 安心要素どこにあったの?
「良かったぁ。配送を手伝えなんて言われたら嫌だなぁと思ったのよ。私、地図読めないし」
「あー……マイカちゃんらしい……」
「何よ! 馬鹿にしてるの!?」
「いや、そういうワケじゃないんだけど……山賊だよ? 相手は人間ってことだよ?」
「だったら何よ。悪人よりも人に危害を加える気の無いモンスターをしばく方がイヤよ、私は」
それは、私もそうなんだけど……。返答に困って、というか対話の意味を失って、私は言い返すことを止めた。
ドロシーさんはがははと笑ってマイカちゃんの背中をぱんぱん叩く。随分と機嫌が良さそうだ。
「マイカちゃん、面白い子だな! 普通は山賊なんて言われたらビビるだろうが! 下手な男より勇ましいな!」
「……いえ、私は、その、争いとか怖いから協力したくない」
「マイカちゃん、今更遅いよ。もう誰も信じないよ」
「何よ!」
「いたい!」
理不尽なビンタを受けて頬を押さえつつ、ドロシーさんを見る。どうしても気になることがあったからだ。
「あの、一ついいですか?」
「なんだ?」
「私達なんかよりもドロシーさんの方が全然強そうなんですが……」
「わはは! なるほど、まだ二人に頼みたいことを伝えてなかったな! 俺は二人に山賊と戦えって言ってんじゃない。もし絡まれたときにどうにかするのは俺だ。二人には積み荷を死守して、必要であればルークと上手く逃げて欲しい」
彼の言葉を聞いて少し安心したものの、すると今度は別の疑問が浮上する。
「っていうか、用心棒みたいのって居ないんですか? これだけ物流に重きを置いている街ならそういう会社もありそうだけど」
「いいところに気付いたな! あるぞ!」
「じゃあなんで私達にわざわざ頼むのよ。そっちの方が逃げる時の手際も良さそうなのに」
「それがなぁ……秘密裏に進めて欲しいというのが依頼人の要望だ。下手に外部の会社に頼る訳にはいかんのだ」
ドロシーさんもこの依頼人にはほとほと手を焼いているのだろう。危険な地域に物を運べ、さらにこのことは内密に、なんて。私なら業者さんが相手とはいえ、そんなめちゃくちゃは言えないけどなぁ……。
「ところで、何を運ぶのかしら」
「それがまた面倒なんだ。食料と水。要するにかなりかさばるものの配達だ。あと重量もある。依頼人のことを考えると、食料の中に密書なんかを忍ばせてそうだけど、俺は関知しない。あくまで食料として注意を払って届けるだけだ!」
深入りはしない、この業界ではそれが鉄則なのだろう。元々断れるような相手じゃないのであれば、せめて知らんぷりを貫くのも、一つの賢いやり方なのかもしれない。
「普通は聞くんだけどな。何かヤバいものを運ばせようとしてないか、って。念書も書かせる。だけど、得意先にそんな野暮な真似するワケにもいかないし、そもそもヤバいところに行かされるんだ。もうなんでも来いって感じだよ」
半ば自棄だ、なんて言って彼は笑う。お茶を運んできてくれたルークは、そんな兄を見て苦笑いしていた。
カップを受け取って彼女にお礼を言う。そうしてドロシーさんに向き直ると、私達はその場で彼らの仕事を手伝うと返事をした。危険なのは承知の上だけどね。急ぐ用事も今のところ無いし。
そうして私達はお茶を飲みながら段取りを決めていく。というか、もう大体は決まっていて、それを私達に説明するような作業だったけど。
一段落ついてドロシーさんは「こんなもんかな」と広げていた地図を丸める。彼は机からある袋を取り出して、それを私達に渡しながら言った。
「とりあえず、三日後にまた来てくれ。これは支度金だ。依頼人からだから遠慮なく受け取ってくれ。本当はもう少し多人数の護衛を想定してたから、二人にしてはちょっと多いけどな。ま、金はあって困るもんじゃないだろ!」
今の自分の手持ちよりも多いんじゃないかってくらいのお金を受け取って、私達はハブル商社の建物を出た。外はとっくに暗くなっている。あと、懐がずっしりとしている。ヤバい。
無駄遣いしちゃだめだと自分に言いきかせて深呼吸したのも束の間。すぐにマイカちゃんに手を引かれて、マイティーミートへ向かうことになった。
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