第128話
マイカちゃんにうんこ製造機呼ばわりされたエビルKは完全にブチギレていた。っていうか誰でもうんこ製造機呼ばわりされたらブチギレると思う。少なくとも私はマイカちゃんにそんなこと言う勇気はない。
怯えさせようとした話で、聞き手の一人が導き出した結論がうんこメイクマシーンだったことが、かなりの不服なのだろう。エビルKはいまだにギャーギャー言っている。
「何あいつ……本当のことを言っただけなのに急にキレたわ……?」
「アレは誰でも怒るよ、っていうか前にもこんなことあったじゃん、学んで」
「こんなことがあったって覚えてたなら、ランがどうにかすればよかったのに」
「ぐっ」
なんで最終的に私が悪いってことになるのかな。そんな風には思うけど、とりあえずはこの場をどうするか考えることが先決だ。
一瞬だけど油断した。そうとしか言いようがない。何かが猛スピードでこちらに飛んできて、反応が遅れてしまった。
「ラン! 危ない!」
叫ぶマイカちゃんの炎を纏った正拳突きが、私を襲おうとしていた何かを焼き払う。ぼーっとしていたことを短く詫びながらエビルKに向くと、飛んできたものの正体がすぐに分かった。
毛だと思ってた何かは、全て触手だったらしい。それを太くして私に伸ばしてきたようだ。大きくした数本の触手を束ねただけでもかなりの威力がありそうだが、さらにその先端が鋭く尖っている。下手を打てば、体を刺されて一発であの世行きだろう。死ねればまだマシかもしれない。あれだけ怒らせてしまった後だし、もしかしたら嬲り殺しにされるかも。
敵の攻撃の威力がとんでもないと把握できたにも関わらず、マイカちゃんは私を庇うように、前に立ってくれている。それを少し情けなく思いつつも、私は手を伸ばしてマイカちゃんの右手にそっと触れると、精霊石に力を付与した。
「ラン、何か考えなさいよ」
「とりあえず、今やらなきゃいけないことについては考えるまでもないよ」
とどめの刺し方についてはあとで考えるとして、ね。
私は短く伝えた。煽りまくって怒らせ続けて欲しいと。あとはなんとかするとまで言うと、彼女はエビルKを警戒しながら、ちらりとこちらを見た。
「本当にそんなので上手くいくの……?」
「悲しみを糧に手下を生み出し続けるなら、我を忘れさせるくらいキレ続けさせればいいんだよ!」
「理屈は分かるけど……」
「私は隙を見て、応戦してみるから……マイカちゃんに危険な役お願いしていい?」
「……分かった」
マイカちゃんは軽く地を蹴って、足場の状態を確認しながらそう言った。しばらく追いかけっこが始まることを予想してのことだろう。
彼女をおとり役に選んだ理由はいくつかある。まず第一に私は彼女ほど身体能力が高くないので、いざって時に普通に致命傷を負う可能性があること。さらに、役割を逆にした場合、マイカちゃんにはこの魔族に対する攻撃手段がほとんど無いことが挙げられる。
まぁこれらは理由の二、三割ってところで、残りの全ては、マイカちゃんほど敵を激高させる言葉を生み出す自信が無いってことなんだけど。
私は左手に氷の刃を持って、マイカちゃんに視線を送った。
「氷……? 炎の方が使い勝手いいんじゃないの? 前に言ってたじゃない、重いって」
「炎はさっきクーとマイカちゃんが試したでしょ。弱点なら魔族とはいえ、もっと弱ってるはず」
「そう……よく分からないけど、そういうのはランに任せるわ」
いや今のは分かろう? めっちゃ簡単だったじゃん……。
何も難しい要素無かったじゃん……。
「てめぇら全員無事で帰れると思うなよコラァ!!!」
私達が話をしている間に、エビルKも攻撃の体制を整えていたらしい。全身から生やした触手を伸ばしてうねらせている。奴の怒りに感応しているのか、たまに触手の一部がビキビキと痙攣しているのがおぞましくて結構キモい。
マイカちゃんは触手を躱して、回り込むように駆け出すと、大きな声でさらに奴の気を引いた。
「アンタ本当に気持ち悪い見た目してるわね! もしかして、いざとなったら自分の姿を映すだけで泣けるように、アンタを作った魔族が配慮してくれたの!?」
「おあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!?!?!? ぶっっっ殺すぞてめぁあ゛あ゛!!」
怒りで攻撃がかなり単調になっている。私があいつだったら、あんなにたくさん触手があるんだから、一部は誘導の為に使うと思うけど。エビルKはマイカちゃんの軌道のみを狙って、その小さな体躯を串刺しにすることしか考えてない。
マイカちゃんは緩急を付けた動きで十分対応できているので、作戦としてはこれ以上無いくらい上手くいってる。ドボルを出す余裕も無いみたいだし。
「怒ってる顔もブッサイクね! 目しか無いのにブサイクってすごいわ!」
「んだとコラアアアアアアアアアアアア!!!」
それにしても……怒らせろって言ったのは私なんだけど、ここまで怒らせて大丈夫かな。なんか最終奥義出してきたりしないかな。触手の隙間から見えてた白い目玉がどんどん赤くなってくんだけど。
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