第154話
私達は客室でお茶をすすっていた。くつろいで欲しいと言われたけど、状況が状況だし。部屋に食事なんかを持って来てくれる女性はことごとく薄着で、同性とはいえ目のやり場に困るくらい大胆な格好をしている。
曰く、暗器などを隠していないことや、友好的に接する気持ちを現す為で、この国では比較的ポピュラーなやり方なんだとか。男の人の前でこんな格好したら……とも思うけど、まぁそれも含めてってことなのかも。
出された食事も、毒味役が一口ずつ食べて見せるというパフォーマンス付きだ。いや、ただのパフォーマンスって言い切れないんだけど。実際それで大変なことになった訳だしね。ただ、この辺の土の精霊ともすっかり仲良くなれたし、何かあれば彼らが知らせてくれると思うので、さほど警戒はしていない。
毒味役が下がって、部屋に私達しかいないことを確認すると、マイカちゃんは食事をしながら言った。出ていかないの? と。
「……とりあえずは、ね。クーも休ませてあげたいし、ルリとはまだ話すことがある。それに、結局休んでないじゃん、私達。休息は大切だよ」
「もちろん分かってる。今後の事を考えるとまだ道のりは長いし、この先に休めるところがあるようにも思えない」
「……じゃあいいじゃん。どうしたの?」
「私は、こわいわ。私だけならどうとでもなるかもしれないけど、クーが……」
マイカちゃんはすぐ横に置かれている小さなテーブルの上のクーを見た。テーブルは魔法陣の為に設置されたもので、そこには回復陣が展開されている。せめてこれくらいさせて欲しいと言って、使用人の中でも偉そうな人が置いていったものだ。できるだけクーに元気になってもらいたいので使わせてもらってる。
クーは座って、ゆっくりとお気に入りの木の実をついばんでいた。特に変な感じもしないし、本人も居心地が良さそうにしているので、とりあえずは心配してない。
だけどマイカちゃんには分からないだろう。信用していいのか分からないものに囲まれていて、守りたい存在と唯一信用できる存在がいる。それが今の彼女が置かれた状況だ。彼女が安心できるように、私はリラックスした感じで話を続けた。
「大丈夫だよ。ここの精霊とは仲良くなったから。もし変な動きがあったら教えてくれる。それに見なよ。クーもあそこに居て嫌そうじゃないじゃん?」
「それは、そうだけど……ラン。ルリに話したいことって、何?」
「んー、ちょっとした交渉だよ」
私がしたい交渉は、ルリが私のことを出し抜こうとしてても、心から反省していたとしても成立することだ。
先ほど使用人に確認したところ、ルリはクーと同じ魔法陣を使って身体を癒しているらしい。それが本当ならサイズは違えど、効果に差は無いだろう。明日には会話できるくらい程度には回復してると思う。
その日、私達はいたれりつくせりで夜まで過ごして、朝を迎えた。
寝ている最中に襲われるようなことはなかったけど、目覚めはそこまで良くなかった。多分、心のどこかで気持ちが張りつめているんだと思う。マイカちゃんほどではないにしても、私だってこの屋敷の人達を心から信用している訳ではないし。
朝食を済ませて支度をすると、私達は緊急時を想定して、きちんと荷物を持って、マイカちゃんはクーを抱っこして部屋を出た。扉の近くに控えていた使用人に「ルリに会わせて」と伝える。「その意思は伝えますが、何ぶん治療中なので……」と、やんわり”無茶を言うな”と拒否されてしまった。
「そう。自分で伝えるからどこにいるか教えて。教えてくれないならいい。自分で探す」
私がゆっくりと手をかざそうとしたら、その人は「すぐに案内します!」とかなんとか言って慌てて駆け出した。私だってこんな風に力を誇示するようなことしなくないけど、のんびりする気分にもなれない。できるだけ早めにこの大陸を離れたいのだから。
他の部屋よりも大きな扉の前で止まると、使用人はノックをしてから声を掛けた。向こうからの返事はない。きっとそういうものなのだろう。使用人も疑問を抱いていないようだ。
「ラン様、マイカ様がお話があるとのことで……その、如何致しましょうか」
向こうの返事を待たずに、マイカちゃんはドアを押した。なんかバキって言って扉は奥にバーン! と倒れてしまった。
目を丸くする使用人達と、さらに私達。うん、わざと壊そうとしたつもりじゃないからね。この扉、押すんじゃなくてスライドさせるんだね。マジごめん。
「……随分と派手な見舞いだこと」
「そりゃ派手にやり合ったし、多少はね」
意味不明なことを言って誤摩化しながらも、部屋の中にずんずんと進んでいく。ルリはこうなることは分かってたという顔をして、座椅子に座って静かに闖入者達を見上げていた。下半身には布がかけられていて、その下には淡い緑色の光が漏れ出る魔法陣がある。
「……分かっている。確かに私達には対話が足りなかった。そして、こうなってしまった今、その主導権はそちらが持つべき。こちらが百歩も千歩の譲るのは当然の道理、だろう?」
「だね。それじゃ、はっきり言うね。私達に協力してほしい」
「……協力、とは?」
ルリが目配せをすると、傍に控えていた女性が私達に座布団を出してくれた。腰を下ろすと、私は話を始めた。
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