自然と共存する町 コタン

第24話


 翌朝、身支度を済ませると、私達は並んでソファに座って一息ついていた。ちなみに、体の節々が痛い。なんか全体的に軋んでる。私に体力を回復させようとソファで寝させることに躍起になっていたマイカちゃんには言いにくいけど、これ普通に床で寝た方がマシだったよね。


「たたた……」

「なんか言った?」

「ううん、別に?」


 私は「ちょっと話をしない?」なんて言って、さりげなく話題を逸らすことにした。まず、ここの家主についてだけど、一夜を過ごしても帰ってきた様子は無かった。もちろん、今朝も周囲に人影はない。お礼やら謝罪やらはひとまず置いといて、私達は今後について話し合う必要があると思った。


「ここ、もしかしたら空き家なのかなって思えてきてるんだ」

「分かるわ。実は私も。ここ、クロに隠れてもらう第一候補ってことにしない?」

「うんうん。どうせ白い柱を開放して青い柱に向かう為にはここに戻ることになるし。そのときには白い柱の巫女と一緒にここに暮らしてもらおう」

「ちょっと待って。無理」

「え」


 私達の話し合いを止めたのは、他でもないクロちゃんだった。彼女が付いてきたいなら私はそれでも構わないけど、前にどこか安全なところでしばらく暮らしてもらうって話をしたときは嫌がられなかったし。もしかして、何か気に食わないことがあるんだろうか。


「同じ巫女ってだけでこんな狭い空間で共同生活とか、殺す気?」

「殺意は無いよ」


 まぁ、あんまり他人とすぐに仲良くできるタイプの子ではないことは、なんとなく察してた。なんか呪いとか使うし。これで「みんなとたくさん仲良くしたい!」ってタイプの子だったら逆に驚く。


「まぁさ、その子と相性が悪そうならもちろん、住む場所は別々に用意するよ。でもさ、前向きに検討してみて。一人で居させるのも、私としては心配だし」

「分かった。はい無理」

「検討しろや」


 もうやだこの子。

 困り果てた私はマイカちゃんを見た。彼女がさっと拳を胸に掲げると、クロちゃんは即座に「分かりました、一緒に暮らします」と言った。それも結構な早口で。

 脅しをかけろって意味の視線じゃなかったんだけど……ま、いっか。じゃあクロちゃんの住居問題は一件落着ってことで。




 そうして小屋を出ると、私達は白い柱を目印にして出発した。歩き始めて小一時間で、なんとか森を抜けることに成功した。道がわりとはっきりしていたので、迷わずに抜けられた。周辺のモンスターも道の近くは人に遭遇すると学習しているのか、ほとんど寄り付かない様子だった。先を急いでいるので有り難い。


 さらにしばらく歩くと町が見えてきた。ここまでの道のりはかなり順調だ。この調子なら予定よりも早く白の柱に辿りつけるかもしれない。そんな期待を抱いていると、足も不思議と軽くなっていくようだった。


「情報収集をして、昼食を食べたら山に向かって出発かな」

「そうね。ゆっくりしてる暇はないし」

「ここで私の住居の第二候補を探すというのは?」

「なんか言った?」


 マイカちゃんが拳を握ると、クロちゃんは頭を押さえながらなんでもないと言った。私の後ろに隠れながら。あそこに人が住んでいるのだとしたら彼女の住居は他に検討しなければいけないし、無しではないと思うんだけどな。


 私達が町の入り口に辿り着いたのはお昼前だった。門には「ようこそコタンの町へ」と書かれている。どうやらここはコタンというらしい。


「じゃあ私はあっちの方で聞いてくるから、二人はこの辺で情報を集めてくれるかな」

「分かった。昼食はあそこにしましょ」

「オッケー」


 町についてすぐ、私達は持ち場と集合場所を決めると解散した。クロちゃんはマイカちゃんに預けた方がいいと判断したので、私は一人で町の東側へと歩いていく。暴力を振るっていないかがちょっと心配だけど、私が連れて行くとクロちゃんのわがままを制御しきれない気がするし……。

 移動しながらも道行く人に白の柱のことを訊ねてみたけど、こっちはやっぱり何も出てこない。山の国境については少し有益な情報を聞けたけど。

 町の人々は黒い柱が消えたことで騒然としているようだった。伝説だと思ってた柱が現れたと思ったらまた消えた。こんなの話題にならないワケないし、それは予想通りなんだけど。


「白の柱について知りたいなら、ここじゃなくてキリンジ国に入ってからの方がいいと思うけどねぇ。と言っても、あんまり失礼な聞き方すると、怒られちゃうと思うけど」

「どうしてですか?」

「あの国には、柱の元になっている塔を神の住まう場所と呼ぶ人達がいるのよ。だから変な聞き方をすると目を付けられちゃうかもって話」

「そんなに過激な人達なんですか?」

「悪い人達じゃないらしいんだけどねぇ。信仰心が強過ぎるっていうのも考えものよね」


 買い物カゴを腕に提げたおばさんはそう言って控えめに笑った。これからキリンジ国に入って聞き込みをするに当たって、すごくいいことを聞けた気がする。

 空を見上げると陽はちょうど真上に来ていた。私は聞き込みを切り上げると先ほど決めたお店へと向かった。


 先に到着していた二人が席を取っておいてくれたらしい。私はメニューを広げて何を食べようか決めようとすると、マイカちゃんが絶望的な一言を言った。


「ランはポテトバターだよ」

「え? いや、私いまはお肉の気分なんだけど」

「路銀は節約するに限るでしょ」

「そんな……」


 マイカちゃんの決定は理不尽に思ったけど、まぁ先にメニュー取りに来ちゃったんなら一緒に頼んじゃった方が早く来るし。それに路銀のことを気にしててくれたのも嬉しくないと言えば嘘になるし。

 うんうん、たまには節約してみんなで質素なご飯を食べるのも悪くないよね。そう思っていた。二人の前にトラブルポークのステーキが置かれる前は。


「こういうことする!? 普通する!?」

「一口あげるから怒らないでよ。ほら、あーん」

「あーん……え、うまっ! 余計腹立つんだけど!」

「二人ともイチャイチャうるさい」

「誰がイチャイチャよ!」

「クロちゃんも一口ちょうだい! おっきめに切って!」


 そうして私達は昼食を騒がしく済ませて食後に情報共有することにした。口の中に残る肉の美味しさがまだ憎い。肉だけに。


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