第34話
マイカちゃんを呼んで手の大きさを改めて確認する。そこではっきりしたんだけど、この子、関節一個分くらい大きな小手をして今まで戦ってた。ブーツも採寸してみると、こっちもかなり大きい。マジでさぁ、もっと早く言ってよぉ……。
「少し動きにくかったけど、戦えないという程じゃなかったもの。それにあのお店に私の身体のサイズに合う装備があるとも思えなかったし、こんなところの調整ができるなんて思ってなかったし。それなら何を装備しても大して変わらないでしょ」
「普通ならそれでいいかもしれないけど、鍛冶屋が一緒に旅してるのにそれを言わないってさ」
「遠慮してた訳じゃなくて、ランにそういうの直せるってイメージがあんまりなかったのよ」
私は凹みに凹んだ。確かに、マイカちゃんから見た私はマチスさんに泣きついてばかりのひよっこだもんね……いや、間違いではないんだけどさ。でも、多少なら自分でも出来るもん……一応それを生業としてる訳だし……。
色々と思うところはあったけど、これ以上言葉でぎゃーぎゃー言うのは止めにする。彼女のその認識を、私が実力で改めさせればいいだけだ。
私は気合を入れて作業に取り組んだ。マイカちゃんの身体のサイズに合わせるならパーツを一つ抜いた方が早いのかもしれないとか、加工の段取りを頭でイメージしてから作業に取り掛かる。
いつの間にか外は暗くなっていた。奥のリビングの方から足音が聞こえてくる。顔を上げてゴーグルを外すと、そこにはローブのようなものを纏ったマイカちゃんがいた。おそらくはおっちゃんが出来合いの装備を着替えとして貸してくれたんだと思う。
「休憩したら?」
「ううん、多分もうちょっとで終わるから、最後までやっちゃう」
「……」
「どうしたの?」
「ううん、お父さんもよく同じことをお母さんに言ってたから。ちょっとビックリして」
「あはは。職人なんて皆そんなもんじゃないかな。作業がノってる時は離れたくないんだよ」
「それでノってない時は「いま手が離せない」って言うんでしょ」
「当たり」
マイカちゃんと話している間も手は止まらない。微調整をするように金属を打っていく。今日はおっちゃんが泊めてくれることになったらしい。それを伝えに来たというマイカちゃんは作業台の端に飲み物を置いて、いつの間にか居なくなっていた。
私がそれを口にしたのは、結局作業が終わってからだった。
***
翌朝、私はマイカちゃんに早速小手とブーツを装備してもらうことにした。彼女はブーツを履いて驚き、小手をはめると更に目を見開いた。
「えぇ!? ピッタリなんだけど!」
「そりゃマイカちゃんに合わせて作ったからね」
「すごい!」
「ランは、結構腕がいい職人なの?」
「ううん、全然だよ」
謙遜なんかじゃない。すぐそこで、自分の武具が褒められているかのようにニコニコしてくれているドワーフの大先輩がいるんだ。私なんて彼の足元にも及ばない。
だけど、仲間の装備をちゃんと作れるくらいの実力はあると示せて本当に良かった。別に知られてなくてもいいんだけどね。これは私のプライドの問題。マイカちゃんは嬉しそうに笑顔で蹴りやらパンチやらを繰り出している。女の子の喜びの表現の仕方としてかなり特殊な気がするけど、喜んでくれてるならもうなんでもいいや。
私は忘れてしまう前に、マイカちゃんに装備の説明をすることにした。と言っても、難しいことは何もないんだけどね。
「そうだ。拳のところ、ちょっと膨らんでるでしょ」
「そういえば。前は無かったわよね、こんなの」
「その中に精霊石が入ってるんだよ。魔力がゼロの人が精霊の加護を授けた武器を使っても通常は無反応になっちゃうんだけど、精霊石が直接埋め込まれてたらさすがのマイカちゃんでもちょっとした魔法が使えるようになると思うんだよね」
マイカちゃんはきょとんとした顔を私を見て、言葉の意味を遅れて理解したのか、装備している小手と私とを交互に見つめたあと、私に飛びついてきた。
「へ!?」
「ラン、ありがとう!」
「う、うん」
首の後ろで小手がカシャカシャ鳴ってるけど、気にすべきはそんなことじゃない。マイカちゃんがデレた。いやデレたって言い方はおかしいんだけど。元々この子と私はそういう仲じゃないし。だけど、ハロルドにいた頃は塩ばかり撒いてきた子が、自分の首に手を回して素直にお礼を言ってくれているのだ。ついそう言っちゃうのも仕方ないと思う。
「二人とも、イチャつくのもいいけど、そろそろ出発しないと」
「べっ、別にイチャついてなんか! これは首を絞める前動作だし!」
「ぐるじ……照れ隠しで殺そうとするのやめて……」
私達のやりとりを見て、おっちゃんはやっぱり笑っていた。彼にお礼を言って、私達は再びジーニアを目指す。
マイカちゃんの戦闘力はアップしたし、ちょっとだけど魔法を使えるようにしてあげられたし。私としては大満足の船出だ。
上手くいけば今日の夜までには街に辿り着けるだろう。そうしたら今度は私がパワーアップする番だ。強くなりたい。その思いが、歩みを確かなものにしていた。
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