二人で目指す新たな土地

第57話

 あと小一時間も歩けば、森を抜けることができるだろう。私達は何度目かの戦闘の後、話をしながら歩いていた。


「レイの話では、ルーズランドに行くには森を抜けたところから東に歩いて行けばいいんだっけ?」

「そそ、目指すはマッシュ公国。ここは関所が緩いから通行証も要らないみたいだし。ま、気楽に行こうよ」


 レイさんのとっておきというのがこれだ。マッシュ公国自体は近道でもなんでもない。ただ、あの国は流通関係で栄える国だ。陸路はもちろん、空や海を渡って様々なものを世界各地に運んでいる。それは物だけに止まらない、人も例外ではないのだ。

 世界各地に馬車を配置してその運賃のいくらかがマッシュ公国に入るような仕組みを作っている。これはレイさんに聞いた話だけど、私たちがアクエリアに向かう為に使った馬車やピコの町に向かった船も、マッシュ公国の国営企業が運営しているものなんだとか。


「青の柱があるブルーブルーフォレストは、砂漠の巨大オアシス。赤は寒風ふきすさぶ見捨てられた大地、ルーズランドにある」

「なんかイメージ的に逆だよね。赤の方が砂漠っぽいし、雪国は青の方が合ってる気がする」


 私が情報を整理していると、マイカちゃんが横槍を入れてきた。彼女の言う事は分かる。だけどそれには訳があるような気がしてならないというか……。


「うーん、それなんだけど、青の柱には水の女神が、赤の柱には炎の女神がいると思うんだ。要するに、その地域に欠いてるものを補おうとしてるんじゃないかって」

「なるほどね。有り得なくもなさそうね」


 空に開いた魔界と繋がる大穴、それを塞ぐ為に神々が作り出したという柱。どうせ柱を作るなら喜ばれそうなところにしようとしたのだろうと考えている。これは私の希望的観測だけではなく、一応根拠もあったりする。


「そう考えれば、大昔に白夜が続いていたと言われる、あの湖の近くに黒の柱があることも頷ける。みんなにゆっくり眠れる夜を授けたんだ。逆にキリンジ国は昔は日照時間が少なかったなんて記録があったよ」

「ありがたい役割を果たしてるってことね。まぁピコの人達はそのおかげで夜な夜な遊んでるわけだけど」

「ま、まぁいいじゃん。あの人達は夜を満喫してるんだから」


 柱の成り立ちや伝説については、私も図書館でいくつか読んだ。そのおかげでこれから向かう二つの柱の伝説の概要なんかを大まかに把握してるワケだけど。

 私はもう一つの話をマイカちゃんにすることにした。


「私達は必要がないからやってないけど、柱の封印を解除するには巫女の他にもう一つアイテムが必要なのは覚えてる?」

「塔のカギ?」

「まぁ、それもそうなんだけど……惜しいような惜しくないような……」

「他にって言われてもねぇ……何かあったかしら」


 彼女は足を止めずに、腕を組んで唸っている。どうやら本当に心当たりがないようだ。多分それを免除されてるおかげでとんでもなく楽をしてるんだけど……。


「ほら、巫女をあの空間に送り込むための神具だよ」

「あぁ! そういえばそうね。私達はランがズルしてくれるおかげでその辺は楽してるけど」

「ズルしてるって言い方やめてくんないかな」


 私は図書館で知った事を彼女に告げた。神具の入手方法は、私の説をいい感じに裏付けている。と私は思っている。例えばオニキスニエでは常闇の洞窟というところに神具が保管されてたとか。それがジーニアでは天上の階段という崖の上だったとか。

 要するに、その土地が求めているものが奉られている気がしてならないのだ。


「うぅん……分かったような分かんないような。結局、ランが言いたいことって何?」

「ルーズランドは極寒の地なんて言われてるけど、私は、柱の周辺はそれなりに暖かいんじゃないかなって思ってるんだ」

「その説が合ってるならそうかもね。これまでは光とか闇とかだったから、温度を感じるようなものでは無かったし」

「でも、ジーニアは一日中街が明るかったよね?」

「それは人工的に灯してたからじゃないの?」

「それもあるだろうけど、私にはあの塔自体が仄かに発光してるように見えたよ」


 マイカちゃんは再び唸る。分からないのも無理はないと思う。周りが真っ暗になってくれれば気付けるだろうけど、あんな街中じゃ、注意して目を凝らさないと分からないのは当然だ。私だって事前に知らなかったら、気付けてなかったと思うし。


 森の出口が見えてきた。そろそろこの話もやめにしようと、私は長々と話したことのまとめに入った。


「ルーズランドに暖かいところがあるなんて、どの資料にも載ってなかったんだよ」

「……じゃあランの仮説が間違ってるんじゃないの?」

「でも、そうは思えない。マイカちゃんなら分かるでしょ。あそこは女神が直接宿ってる塔だよ」


 マイカちゃんは私を見て、少し呼吸を置いてから呟いた。どうやら、彼女にも私が何を言わんとしているのか、伝わったようだ。


「……ということは、何らかの理由で、ルーズランドの情報は世間に正確に伝えられてないってこと?」

「うん、私はそう思ってる。理由は見当も付かないけど、レイさんが言ってたでしょ。重罪人の流刑地だったって。ルーズランドに入る時はこれまで以上に警戒しなきゃ駄目だって、肝に命じといて欲しい」

「分かった、私の肝はもちろん、ランの肝にも私から言っておくわ」

「それは私から伝えるから大丈夫だよ。そんな何回も同じこと言われたら私の内臓可哀想じゃん」


 そうして私達は森を抜けて、東の平原に位置するマッシュ公国を目指した。


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