火の元の源 赤の柱

第157話

 鍵穴に鍵を差し込んで、ぐるっと一周させる。ガチャンと乾いた音が鳴った。物々しい雰囲気だけど、私達は案外平然としていた。大それたことをしようとしている自覚はもちろんある。きっとマイカちゃんも一緒。

 だけど、もう三度目だ。中がどんな風になっていても驚かない自信がある。例えば白の塔みたいに迷路の末にコロシアムみたいになっていたとしてもね。


「いこっか」

「えぇ」


 門の中に入るとすぐに塔の扉がある。たいまつを用意してからゆっくりと扉を押してみると普通に動いた。マイカちゃんと目を見合わせて、頷いてから中に入る。そして内部を見た私は、驚かないって言ってたくせに驚いてしまった。


「……何も無いじゃん」

「これ、黒の塔と同じ作りね」


 マイカちゃんは腕を組んで塔の内部を見上げている。上の方は地上なので、そこに付いている窓から光が差している。明るいとは言い難いが、思ったよりも視界はいい。


「……手抜きだね」

「もしかして、白の塔だけ特殊だったとか?」

「さぁ……この世で4つしかない物に特殊とか普通とか言うのも変な感じするけどね」

「言われてみればそうね」


 私達は雑談をしながらも階段の始まりへと歩いて行った。壁に沿うように螺旋階段が続いている。そういえば黒の塔でもすっごい疲れたんだよな、これ……。そんなことを考えて歩いていると、いつの間にかクーが地上に降りていて得意げな顔をしていた。


「うん? どうしたのよ?」

「……あ! もしかして!」


 マイカちゃんはまだピンと来てなかったみたいだけど、私はすぐに分かった。多分「どうしかしてこの面倒なイベントを回避できないか」ってすっごい考えてたから、そっちに繋げるのがマイカちゃんより早かったんだと思う。


「上まで乗せてってくれるんだよね!?」

「クッ!!」


 クーはニコニコして何度か首を縦に振る。マイカちゃんも時間の短縮になるのならと、私達を制止しようとはしなかった。

 大きくなった金色の背中に乗り込む。ただし、室内だからか、いつもより少し小さめだ。バサバサと翼が動いて、ぐんぐん高度を上げていく。ありがとうクー。クロちゃんを連れ出したときのことを思い返したら、本当に性格が暗くなるレベルで嫌だったからすごく助かる。


 翼の音が響く中、振り返るとマイカちゃんが眉間に皺を寄せていた。

 実を言うと、私にはその理由が分かっている。というか、もしかすると私も同じ顔をしているかもしれないから。あと十秒待ったら言おう、勘違いかもしれない。そう思ってもう絶対に十秒以上経ってる。言わなきゃ。


「あのさ」

「……うん」

「この塔。こんなに長かったっけ?」

「それなのよね」


 マイカちゃんは塔の窓を睨んでいる。それ、私もさっきやった。階段は目印にならないし、ずっと見てたらなんだか目が回ってくるから、一定の高さで据え付けられる窓ならどうだって、思うよね。あのね、意味無いよ、それ。


「とりあえず、適当なところに降りようよ」


 ずっとクーに無意味かもしれない運動をさせておくのは忍びないので、私達は下に落ちないように注意しながら階段に移った。このサイズのクーが階段に着地したら崩れるかもしれなかったから。


「上も下も何も無い、ねぇ。行きはよいよい帰りは怖い、なんて歌を聴いた事があるけど、これじゃ行きも怖くて帰りも怖い、ね」

「地獄じゃん」


 だけどマイカちゃんが言ってることは事実だ。早くどうにかしなきゃ。私は氷の双剣を引き抜いて、壁にガッと傷を付けてみる。これを目印に一周分歩こう、そう言って私達は初めてこの塔の階段を歩き出した。

 ちなみに、ここの女神に呼び掛けるのは後回しだ。光の柱みたいに、私達の力を見極める為にあえて様子を見てる可能性だってある。


 丁度一周した辺りで壁を見る。注意深く探してみても傷はない。要するに、ループせずに普通に階段を上れているっぽいということ。でもまだ甘い。私はゆっくりと振り返ると、今度は一周分降りることを提案した。


 カンカンと響く私達の足音。横を見るとマイカちゃんに抱っこされているクーがどこかから取り出した火吹き餌を食べていた。本当に気に入ったねぇ、それ。


「ラン、この辺でしょ」

「うん……」


 傷を付けた筈の地点まで戻ってきた私達は、徐々に視線を上げていって、今は自分の背丈より上を眺めてる。つまり付けた筈の傷が見つからなくて、そんなところまで探す羽目になっている、ということ。


「……ねぇ、ここ。実は一番めんどくさいんじゃないの?」

「私も今更その可能性に気付いてぞっとしてる」


 ここに入るまでだって大変だった。姉の奪還作戦を企てていたサライさんが私達を見つけてくれなかったらジーニアも大変だったと思うけど。それでもここよりマシだと思う。塔に入るまでの道のりも、入ってからの厄介さも。

 白の塔も大変だったけど、あれはまだ道があった。迷ったり敵と戦ったりして、歩みを進める意味を感じた。


 だけど、この無限ループは……キツい……何をどうしたらいいのか分からないのが辛いし、マイカちゃんが考えることを放棄して、「で? どうしたらいいのよ」という顔で私を見てくるのも辛い。一緒に考えてよ、ねぇ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る