第158話
私は現状を整理しながら、どうすればいいのかを考えていた。分かっていることはシンプルかつ少ない筈だ。だけど、できるだけ早くここを脱出しなければと思うと、思考がこんがらがった。
そうして、かなり時間をかけてから、もう一つ確認したいことを思い付いた。
「クー。真ん中まで行って、そこから上に向かって飛んでみてくれる?」
さっきまで私達がクーの背中に乗ってしたことを、クーに一人でやってもらうのだ。それを横から見て、登っているのか、それともそこ留まっているのかを確認する。
「どっちだと思う?」
「その場に留まってると思うわ」
「私もそう思う」
これじゃ賭けにならない。パタパタと塔の中央に移動し終えたクーを見守る。滞空しながら少し体を大きくして翼を動かす。
すると、クーの体は上へと向かった。螺旋階段の足場に視界を遮られて、どれくらいの高さまで飛んでいったのかは目視できないけど。
「行っちゃったわね。呼び戻す?」
「ううん、まだ確認したいことがあるから」
「でも!」
「大丈夫だよ。ここ、声が響くから。マイカちゃんの声なら二キロ先でも届くんじゃないかな」
「は?」
実に余計なことを言ったと思う。隣から突き刺さる視線からも、それはひしひしと感じてる。
私は見えなくなったクーの姿を探すように下を向いた。視線の向きがおかしいと指摘するマイカちゃんだったけど、私がまるっきりおかしいことをしているワケではないと、感覚で理解したのだろう。
「まさか……」
「可能性としてはあるでしょ。こういう現象でも起こらないと、私達の体感時間が同時に狂ったとか、そういう話になってきちゃうし」
そしてクーはすぐに下から顔を出した。やっぱり無限ループじゃん。クーは上で私達が待っていたのが意外だったようで(そりゃそうだ)、キャウ!? と声をあげていた。そんな種類の声を出せるんだね。
クーは眉をハの字にして心配そうにしている。わさわさという、少しだけ控えめな羽ばたく音を聞きながら腕を組む。
「不本意だけど、この建物を破壊しましょう」
「すごい問題になりそうだから絶対にやめようね」
「じゃあどうするのよ」
「まぁ方法が無いワケじゃないんだよ」
「……あ! そうじゃない! 女神に聞きなさいよ!」
私が言うよりも先に、マイカちゃんは気付いたらしい。この茶番とも言うべき流れに。そう、私がここの女神に話し掛ければいいのだ。ちなみに、無視されたら、「自分達で考えろ」ということだと解釈してまたしばらく頑張ることになる。
心の中で呼びかけようにも、意識がパンと繋がる感覚が掴めない。もしかすると、私達が何かしらの幻術の中にいるから、その魔法が女神への呼びかけを邪魔しているのかもしれない。
私は落ちないように最低限の注意を払って、移動を始めた。その神経のほとんどを女神への呼び掛けに費やす。マイカちゃんが手を握って歩いてくれてるから大丈夫。
歩いたり立ち止まったり、私の動きはかなり不安定なものだった。繋がったと思ったら、その気配が消えてしまうから。マイカちゃんはその度に心配そうに振り返るけど、生憎目を合わせて取り繕う余裕もない。
とにかく上手くいかない、その焦りが女神に向ける声を濁らせていく気がして、私は必死で平常心を保とうとした。
——……… ル 、 っ …… ナ……
いきなり繋がりがはっきりとして、私は立ち止まって顔を上げた。多分だけど、ループ地点の頂点まで行って、たったいま下に飛ばされたところだと思う。声が聞こえたということは、多分ね。
つまりループの境目では声が通じる、と。そういうことだろう。私は階段を上がったり下がったりして位置を調整する。あぁ、多分ここだ。この段に私達が脚を掛けた時に仕組みは作動するようになってるんだ。
成功すると確信できるポイントを見極めると、改めて意識を集中する。
すると、やっとはっきりと女神の声が届いた……!
——ズルを、するな
「あ、はい」
なんか怒られたんだけど。しかも反論できないくらい完全に私が悪いですってことを。
ダメだと言われたのなら仕方がない。私達はやり直すために、早速クーの背中に乗り込もうとした。が、そこで、強い思念がスコーンと頭に飛んで来た。
——歩いて降りろ
——歩け
——ズルをしようとした
——罰
——あまり調子に乗るなよ
——ヘタレが
「もう! 分かったよ分かったから!! って、ちょっと!? ヘタレッて何!?」
マイカちゃんとクーにはこの声は聞こえていないので、私は一人でいきなりキレたヤバい人だ。二人に事情を話して、私達は長い階段を降りた。念の為、階段からきちんと足を離して、地上フロアを踏んでおく。
完全に「今から階段上りますよー」という状態に戻ると、私はため息をついた。マイカちゃんもこんなことになるとは思っていなかったらしく、珍しく背中をさすって励ましてくれた。
「同情はするけど、ここに留まっている時間は無いわよ」
「……うん、分かってる」
マイカちゃんは私の手を握って先導するように歩いてくれた。歩きにくくないの? とは聞かない。階段でこんなの、絶対歩きにくいって分かってるから。でも、手を繋いでいると、私も自然と元気が出てくる気がした。
階段をのぼりきる。長い長い螺旋の先に待っていたのは案の定と言うべきか、久々に見る紋様の転送陣だった。
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