作りたての伝説

作りかけの伝説

第210話

 私達が色々と話をしているうちに、滝の水はさきほどの出来事なんてなかったかのように元通りになっていた。あとはあそこに入る方法を考えればいいだけだ。近くまではクーが乗せてってくれるだろうけど、どうやってあの水をくぐろうか。


「ランさん、もしかして水を通過する方法を考えていらっしゃったんですか?」

「うん。ニール、どうにかできないかな」

「うふふ、私ですか?」


 ニールは意味深に微笑む。とびきり柔らかく、可憐に。こんなに綺麗なドレスを着た子がここにいるのってすごく不釣り合いだなって、今更そんなことを考えながら、私は彼女の笑顔から目が離せなくなっていた。

 何か、できるんだ。そう確信した瞬間、彼女は笑顔のまま言った。無理です、と。


「…………………………………………意味深な間を置くのやめてくれる?」

「ランさんの期待する子犬のような目を見るとどうしても……」

「気持ちは分かるけど最低。ランが可哀想。気持ちは分かるけど」

「クロちゃんは私の味方してるようでしてないよね」

「二人ともいい加減にしなさいよ。気持ちは分かるけど」

「マイカちゃんまで……」


 私が三人を相手にしていると、レイさんがケラケラと笑いながら注目させるように手を叩いた。私達は彼女を見る。ちなみに、フオちゃんはずっと周囲の警戒をしてくれている。本当に生真面目だなって思う。クーと同じように、フオちゃんは私の癒しとなりつつある。見た目はこの中で多分一番怖いんだけど。


「はいはい、ふざけてないで。ちょっと待ってて。よっと」


 レイさんは手をかざして、光の大きな手のひらを空中に作った。そして、すーっと滝に手を伸ばして、穴が開いたであろう位置を探るように滝の中に何度も手を沈めている。なんか面白そう。


「あ、あった。え! すっご! 拳がそのまま、ずっぽり入っちゃった!」

「おいレイ。破廉恥なことを言うな」

「? 今の、どこが破廉恥だったのよ?」

「さぁ。分からない」

「ごめんなさい。私、破廉恥と聞こえてしまって。ただ、このタイミングで破廉恥だなんて言う訳がないですし、あの、きっと私の聞き間違いですよね?」


 クロちゃん達が頭に疑問符を浮かべて何かを言う度に、フオちゃんの顔が赤くなっていく。耳まで赤くすると、気まずそうに視線を逸らして「なんでもない、続けてくれ」と話題を逸らそうとした。私は、フオちゃんってすごいむっつりなんだなって心に刻み込みつつ話を戻した。


「レイさんの魔法、すごいな。あの勢いで落ちてる水をものともしないなんて」

「でしょ? あたしの魔法でこうやって傘を作れば、あとはクーちゃんに連れてってもらえるんじゃないかな」

「クー、行けるかしら?」

「グオオオオオオォォォ!!」


 振り返ると、クーは既に身体を大きくしてスタンバイしていた。二人乗っても平気そうな大きさだ。あんまり大きいと穴の中に入れないということも分かっているらしく、ちょうどいいサイズになってはりきっていた。

 私達が何を目的として行動しているのか理解しているかは分からないけど、少なくとも今どうしたいのかは分かっているらしい。さすがクーだ。とても賢い。


「あたしは魔法の維持があるから最後に行くよ。クロも一緒に残ってくれる?」

「当然。ラン達のあとはフオとそこで裸になろうとしてる痴女が先に行くように」


 横を見ると、クロちゃんの指摘の通り、服を脱ごうとしているニールがいた。何故急に服を脱ごうとしているのかは分からないけど、説明されても理解できる自信はなかった。


「私達が初めに? いいけど、何か理由はあるの?」

「崩れたら危険。フオは回復魔法がメインだし、痴女は論外。消去法で二人になる」

「毒味役、か……ま、しょうがないよね」

「崩れるのを想定してアレを一人で行かせるというのもあるけど」

「それもう未必の殺意だよね」


 クロちゃんの視線を辿るようにニールをちらりと見ると、この間脱いだ時にはしてなかった下着を外そうとしているところだった。前回はどこにやったんだろう。脱ぎ散らかし過ぎて失くしたのかな。ってことは青の柱にはニールの下着が残されているのか……。封印の塔にそんなもの置いてきたの、後にも先にもこの人だけなんだろうな……。

 フオちゃんは少し考える素振りを見せてから「今はやめとけ」と、ニールにストップを掛けた。その辺がフオちゃん任せになってる辺り、私達も大分ニールに慣れてきたと思う。


「大体、なんで脱ごうとしたんだ」

「脱ぐのに理由が……?」

「お前が脱ぐことに理由は要らないが、周りの人間への説明は必要だろ」

「なるほど……次回から考えておきますわ」


 フオちゃんがニールの扱いに慣れ過ぎてて泣きそうになった。二人きりの間にすごい奇行を繰り返されたんだろうな……。


 私とマイカちゃんは、クーの背中に飛び乗った。今は時間が惜しい。地上に残る四人の巫女達と目を合わせ、行ってくるとだけ告げ、キリっとした顔で前を向いた。後ろから、私の腰に抱きついているマイカちゃんの声が聞こえる。


「ニール! 背中のジッパー上がりきってないわよ! フオ! 上げてやって!」

「おう!」

「これはこういうスタイルですの」

「うるせぇあっち向け!」


 私達がどこかに行こうとする度に絶対に格好が付かないって、ここまで来ると逆にすごい気がしてきた。

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