第94話
ハブル商社に着くと、そのままクーを屋上に待たせて事務所へと向かった。半日ぶりのルークとの再会は全然久しぶりって感じがしなかった。
「おっ、来たねー?」
「連れてきたよ、クー」
「クーくん? クーちゃん?」
「ちゃんよ」
「そっかー!」
ルークはとっても嬉しそうだ。マイカちゃんにメスだと聞かされると、そっかそっかーと言って戸棚から何かを取り出す。
「それは何?」
「ドラゴン達が好きなオヤツだよ。ドラシー達はこれ見せると、キュンキュン言って頬擦りしてくるんだよ」
「へぇ、肉とか?」
「クセが強くて人間が食べるには不向きな小動物のね」
「確かめてみないと分からないわ?」
「確かめようとしないで」
私はマイカちゃんと制止すると、三人で屋上へと向かった。さっきクーを小屋に連れてった時はドラシーはお昼寝をしていたけど、まだ寝てるかな。
扉をガチャっと開けると、クーがすやすやと眠るドラシーの匂いをくんくんと嗅いでいるところだった。
「こら、ドラシーちゃん寝てるから、また今度ね」
私が駆け寄ってクーを引っ張ると、案外すんなりやめてくれた。やっぱり言葉が通じるのかな。そのまま扉のところまでクーを連れてってルークに会わせると、彼女は目をまん丸にして固まっていた。
「え……」
「私達の友達のルークだよ、友達。クー、分かる?」
「クォウ」
分かってるのか分かってないのかは分からないけど、それっぽい返事をするとクーはルークに顔を近づけてスンスンしている。初めて見た人や生き物は嗅ぐ癖でもあるのかな。
「ねぇ。マジでエモゥドラゴンっぽいじゃん」
「だからそうだって言ったじゃない」
「嘘でしょ……」
唖然とするルークを他所に、匂いを嗅いでいたクーはルークが何か美味しいものを持っていることに気付いたらしい。
「あ、あぁ。これ? うん、あげる。お近づきの印にね」
袋から干し肉を取り出して差し出すと、クーは体を少し小さくしてからそれをぱくついた。賢い、小さい方がいっぱい食べれるって分かってるんだ。クーの体が大きくなったり小さくなったりするのは、もう慣れていたから「美味しいのもらって良かったねー」なんていって頭を撫でたりしていた。けど、ルークはそうはいかない。
「え!? いま小さくなったよね!?」
「そうよ?」
「そうよ? じゃないじゃん! これ本当にあのエモゥドラゴンじゃん!」
ドラゴン好きのルークに言わせれば、これは有り得ないことらしい。古代種だとは聞いてたけど、こんなに驚かれるとは思っていなかった。
ルークの反応を訝しげに見ていたマイカちゃんは、「何よ、エモゥドラゴンには小屋、貸してもらえないとか?」と問う。
「まさか! 光栄だよ! ねね、私もちょっと乗せてもらっていい!?」
「あ、あぁ。いいよね? クー」
「クー!」
クーは翼をひろげて、全身でウェルカムだと示している、と思う。おやつをもらったことで、すっかりルークのことが気に入ったのだろう。
そこで私はあることを思い出して、クーの頭を撫でるルークを呼び止めた。
「そうだ。あのさ、クーに手綱みたいなものを付けたいんだけど。ドラシーにも付いてるでしょ? ああいうの」
「あぁ、いいよいいよ。余ってるのがあるからタダであげるよ」
「いいの!?」
ルークは小屋の隣の物置に駆けて行くと、両手に金具を持って戻ってきた。首元に付ける手綱になるパーツだけではない。他にも様々な装具がある。
「これは体に巻いて、足を引っ掛けるのに使うんだよ」
「あ、いいね、それ」
「太腿でぎゅって踏ん張ればいいじゃない」
「それができるのはマイカちゃんだけだからね」
二人で乗るにしても、装具を二つも付けるのは可哀想だ、ということで私の分だけ付けさせてもらうことにした。ベルトになっていて、多少の調整も効く。これならクーのサイズが変わっても苦労せずに済みそうだ。
「クー、似合ってるよ。かっこいい」
装具を付けている間、じっとしていたクーを褒めて、またおやつを食べさせてあげる。
喜ぶクーを尻目に、マイカちゃんがルークに振り返った。
「そういえば、お祭りっていつからなの?」
「お祭りは来週からだよ」
「ということは、リードさんもその頃には戻ってくるんだろうね」
「そういうことになるだろうね。まぁ、今回は大臣を怒らせてきつめのお灸を据えられたって感じだろうしね」
「次やらかしたら、もっと長い期間あそこに閉じ込められることになりそうだね」
私は呆れたように笑って、リードさんの顔を思い浮かべる。これで懲りてくれたらいいんだけど、あの人も結構我が強いというか、めげなさそうだからなぁ……。
迎えに行くようには言われてないらしいから、騎士団の人達が行くことになると思うけど、何もないといいな。
戻ってきたら、レースでルークと一戦交えることになるだろうし。どう転んでも一悶着ある気しかしなくて、私は落ち着かない気持ちを誤魔化すように、クーの頭をまた撫でた。
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