第112話

 クーの息が少し荒くなってる気がした私は、ガーゴイルとの戦闘を終えてすぐに降り立っても問題なさそうなところを探した。広くなっている平地を見つけたので、そこを目標に休憩することにした。


「携帯食糧、お菓子の味はある?」

「あるよ。あとは、重たいからそんなに買わなかったけど、果物のジュースみたいなやつとか」

「それいいわね。降りたら飲みたいわ」

「いいよ。お楽しみに取っておいたんだけど、重いしかさばるし、飲んじゃおっか」


 降りるべき場所を指差すと、クーは徐々に高度を下げて、危なげ無く地上に着地した。鞍から降りて周囲を再度見渡す。何もないことを確認すると、やっと腰を下ろした。

 クーは自主的にミニサイズになって、マイカちゃんの膝の上で両手を広げてだっこをおねだりしている。可愛い。マイカちゃんはクーの要求に気が付いて、両腕で人形を抱えるようにしてあげた。


「クッ♪」

「クー、お疲れ様。頑張ったわね、少し寝なさい。ラン、食糧」

「あ、はい」


 なんか私への扱いだけ雑な気がするんだけど、まぁいいや。私は鞄から出したジェル状の飲み物が入った容器を手渡すと、自分の分と地図を取り出した。

 クーはマイカちゃんの腕の中ですやすやと寝息を立てている。いくらなんでも寝るのが早過ぎる。きっとすごく疲れたんだろう。もっと早く気付いてあげられれば良かった。


「クー……そんなに疲れてたんだね。ごめんね」

「それにしても寝付きがいいわね……大きくなって飛ぶと負担になるのかしら」

「まだ成長途中らしいから、あんまり無理はさせたくないよね」


 クーを起こさないように、少しだけ声のトーンを落として会話をした。地図も一緒に見たかったので、私はマイカちゃんの横にぴったりとくっついて地図を広げた。近いとかあっち行ってとか言われたけど、いつも私のこと抱き枕にしてるからすごく理不尽に感じる。


「なんで嫌なの?」

「えっ……い、いや、じゃない、けど……」

「あっち行ってって言ったじゃん」

「……っさいわね。で、地図が何よ」


 変なの。でも一緒に地図を見てくれるみたいだからいいや。

 私は大体の現在地を予測して、飛び始めたところからの距離を見てみる。そして、地図にあるユーグリアとルーズランドとの距離を比べた。

 クーに無理をさせたくないなら、ペース配分はより綿密に考えるべきだと思ったからだ。そして、あまり芳しくない結論が出た。


「……これ結構大変な道のりになるんじゃない?」

「うぅん……距離が倍くらいあるね……しかも道中に変なモンスターが出てくる可能性もあるし」

「その辺どうしたらいいのか、少し考えなくちゃダメね」


 そこで私はある提案をした。

 当然これからどんどんマッシュから離れていくし、つまり呪文は使えないものとして考えた方がいいだろう。空で敵に遭遇したときの魔法の使い方も思い付いていない。そして武器も極力使いたくない。さらに、マイカちゃんの力について、新たな発見があった。つまり。


「クーを寝かせてる間に、マイカちゃんの小手をちょっといじっていい?」

「いいけど、何するのよ」

「精霊石が見えるように、蓋に穴を開けようと思って」

「……?」


 見てどうすんのよ、という視線が容赦なく突き刺さる。これにはれっきとした意味があって、決して私が久々に武具をカスタマイズしたくなった訳ではない。

 精霊石を見える状態にすれば、私はいちいち小手を分解せずに精霊の力を付与することが出来る。いや、今でもそれくらいできるんだけど、私のポリシー上しないようにしているので。

 つまり戦闘中での連続使用が可能になるのだ。私の力の使い道があやふやな今、こうするのが一番手っ取り早くて強い気がした。それに、私に触れてる間、小手の中でどんな風に精霊石が反応しているのかも気になるし。


「別にいいけど、元々そういう作りにすれば良かったじゃない」

「精霊石はあんまり丈夫じゃないからね……パンチで砕けたら大変だと思ったんだよ。でもその辺は割り切っちゃって、割れたら交換すればいいかなって」

「そうね……特にユーグリアへの道中は空中戦がほとんどだろうし」

「じゃ、私はあっちで作業してるから」


 クーを起こさないように。そう配慮して立ち上がろうとしたところで、服の裾を引っ張られて引き止められてしまった。


「え?」

「お父さんが言ってたわ。優れた鍛冶職人の作業の音は子守歌になるって」

「え、えぇと」

「あっちで出来るなら、ここでも出来るでしょ。見ててあげるわ。クーを起こしたら叩くけど」

「酷くない!?」


 私のお父さんも同じことを言ってたけど、もしかしてマチスさんからの受け売りだったのかな。いや、そんなことはどうでもいい。

 クーを起こさないように、できるかなぁ……。私はおそるおそる工具を鞄から取り出すと、マイカちゃんから小手を受け取ろうとした。

 小手を外そうともぞもぞしてるときにクーが頭を上げたけど、それも私の作業の不備として膝を叩かれた。今のは絶対マイカちゃんがいけなかったよね……。


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