第172話
緑生い茂る、砂漠の中の小さな森林地帯。少し視線を外せば、豊かな樹々を囲むように広大な砂漠が広がっている。そんなブルーブルーフォレストの真ん中にある、青の柱。乾燥した土地に突然変異のように佇む湖の中、そびえる塔。そこが私達の目指しているところ。
さきほど飛んだ場所は管理塔と言うだけあって、青の柱はすぐ近くだった。だけど、誰かに見つかると厄介だ。全神経を集中させて周囲を見渡す。その間も後ろの方から男達の悲鳴や、瓦礫が崩れる音がまだ聞こえてくる。レイさんとクロちゃんが相当派手にやっているようだ。
転送陣から出るまでにどれくらい時間が経ったのかは分からないが、今は昼間だ。太陽の感じから見て、おそらくは昼頃だと思う。勇者達と戦っていたのが朝方だったので、かなり時間が経過していることになる。生き埋めにされた彼らはどうなったんだろうか。死んでたら気分は悪いけど、ちょっと安心しちゃうな。ま、一筋縄ではいかないんだろうけどね。
「あっつ……どうなってんだ?」
「どうもこうも、そういう気候なんだよ」
私の前に座るフオちゃんに言って聞かせる。最強の寒冷地とも言えるヒノクニ出身の彼女にしてみれば、まさに異次元のような暑さだろう。しかもあそこから直接来たしね。私だって、温度差に体が上手くついていってない気がする。
「ここは年中こんなだよ。というか、雪が降る地域の方が少ないらしいよ」
「なっ、そうだったのかよ……父からヒノモトの成り立ちについては聞かされていたけど……そこにいるだけで贖罪になり得る土地だとされる意味が分かった気がするな」
フオちゃんは淡々とそう言ってるけど、私は気軽に相づちを打っていいことなのか分からなくて押し黙ってしまった。気まずい空気を打ち消すように、視線を少し遠くに向けてみる。
「あれ……なんだろ」
「私にも見せなさいよ!」
「あ、あぁごめん」
「グオー? グゥ〜!」
マイカちゃんが私をかわすように体を傾ける前に、クーが少し体を捻る。そしてマイカちゃんはじっと塔を見た。
「あの門、なんなの……?」
「わかんないけど……青の柱が面倒だってことは既に良く分かったね」
「それな」
塔に近付いてやっと気付ける異変。それは、大きな門が明らかに人間以外の何かを想定して設置されているということだ。多分、青の柱には船で入るのが普通なんだと思う。私達はそんなもの持ってないからゴリ押すけど。
高度を下げながら柱に近付いていく。ちなみに、棟に窓なんかは無く、ズルをして入ることは難しそうだ。まぁできてもやるか分かんないけどね、すごいディスられるから……。
「入る為には門をどうにかしなきゃいけないと思うけど、どうするの?」
「んー」
私は逡巡するような素振りを見せたけど、これはただのポーズだ。心の中はもう決まってる。きっとマイカちゃんは驚くだろうし、フオちゃんは下手したら引きそうだけど。
「仕方ない、どうにかして壊そっか」
「いいわねぇ!」
「いいのか!?」
私は水を操るように念じると、大きな拳を作った。さっき見たレイさんの魔法の水バージョンみたいなやつ。そいつで強かに門をぶん殴る。さすがに一回じゃびくともしなかったけど、何度か殴ると門は根負けしたように音を立てて開いた。
「めちゃくちゃだな、ランの力」
「あの、言っとくけど、普段はこんな乱暴しないからね……今はいつ勇者が追ってきてもおかしくない非常事態だからやってるだけで……」
「お、おう……分かった分かった……」
「信じてないでしょ!」
そんなやり取りをする私達を乗せて、クーは門をくぐった。塔の下の部分は船ごと進入できるようになっていて、だけど私達は船を持たないからそのまま入っていく。
水路の両脇は歩けるようになっていたから、クーから降りて徒歩で探索することにした。いつクーの力が必要になるか分からないからね。少しでも休んでいてもらいたい。クーはいやいやをしていたけど、こればっかりは譲れない。帰るときはまたお願いね、と言うと、やっと納得して小さくなってくれた。
「クー、可愛いな」
「でしょ」
マイカちゃんは何故か得意げな顔をしてふふんと鼻を鳴らしている。マイカちゃんも可愛いよって思ったけど、いま言うとただイチャついてるだけにしか見えないだろうから黙っておいた。
塔の中に入る前から察していたけど、中は単純な構造ではなかった。魔法で拡張されているらしく、外から見たよりも大分広く感じる。これは白の柱と同じで、塔自体の頂上を目指すことがめんどくさいタイプのそれだ。中がダンジョンみたいになっている。
少し歩くと、お風呂みたいになっている水場があった。どういうわけか、水が上から流れていて、ちょっとだけ温泉っぽい。
「体力を回復できる泉かもな」
「ホントに? ちょっとラン、入ってみなさいよ」
なんで得体の知れないものを私に試させようとするの。だけど、ウェンに殴られた傷が癒えたとは言え、昨日の深夜から私達は寝ていないんだ。回復できるならしておいた方がいいに決まってる。
私は靴を脱いで、ズボンの裾をちょっと折って足を入れてみた。全然足が床に付かない。かなり深いようだ。私は片足だけを入れたまま硬直した。
「どう?」
「……冷たい」
「そう。行きましょ」
「ちょっと待ってよ!」
慌ててタオルを取り出して足を拭く。なんなのこの水。意味分かんないし、私がスベったみたいで、ちょっと恥ずかしいんだけど。
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