第169話

 レイさん、クロちゃん、フオちゃんは手を重ねる。私とマイカちゃんは巫女ではないので蚊帳の外だ。二人はレイさんの呪文を追うように唱える。空間にある光が同時に明滅し始めて結構怖い。

 三人の声が止むと、左手の空に浮かんでいた星々を残して他の光が消えていった。


「ここまでは上々。あっちの方だね」

「でも、まだたくさんあるよ。ここからはどうするの?」

「運」

「今の、「うん」って返答じゃなかったらぶっ飛ばすわよ」


 マイカちゃんは笑顔で拳を作る。私の身体で乱暴なことするのやめて欲しいな……。

 やんわりと制止して、私は残った光を見上げた。半分以下に削ることに成功したようだけど、この中から適当に選んで正解を引き当てるのは絶望的だと思う。


「ま、運ってのは冗談だけどね」

「ぶっ飛ばすわよ」

「どっちにしてもぶっ飛ばすんじゃん!? こっわ!」

「怖いのはこの状況で冗談言えるレイさんだよ……」


 私がそう言うと、フオちゃんが若干呆れた顔で同調するように頷く。フオちゃん、見た目は派手だけど、この中で誰よりも常識人っぽいから、なんか可哀想になってくるな……。


「今のは第一詠唱。いっぺんに割り出すのは難しいと思ったから、とりあえずはざっくりした座標を割り出す作業をしたんだ。ランちゃん達は星の変化を見てて。反応があった星が正解だと思うから」

「ちょっと待ちなさいよ」


 マイカちゃんは腕を組んで真面目な顔をしている。まさかこの期に及んでまだ失敗した時のもしも話をするとは思えないし、なんだろう。


「巨大転送陣に出るのよね。それは構わないけど、そこって人はいないの?」

「いるかもね。分かんないよ」

「はぁ!?」

「本当は目当ての星を探してから説明しようと思ったんだけど……成功したらすぐにそれを使ってブルーブルーフォレストの管理塔の転送陣に飛ぶよ」


 管理塔ってなんだ。私達はまたもや話についていけない。フオちゃんなんかは、セイン王国やブルーブルーフォレストという地名すら知らなさそうだ。

 レイさんが言うにはブルーブルーフォレストは砂漠にある巨大オアシスで、流通の際に重要な拠点になっているそうだ。水質汚染やモンスターに占拠されたりしないよう、はるか昔に管理塔が建てられているとか。管理塔と、そこに転送陣があるのは様々な文献にも載っていることだから間違いないらしい。


「いざって時、応援を呼ぶのに時間をかけてたんじゃ意味が無いじゃん。元々王国の巨大転送陣は大量の兵士を管理塔に送る為に作られたもので、色んな空間に飛べるようになったのは副産物的な成果だったんじゃないかってあたしは見てるんだよねー」


 レイさんはベラベラと話し終えると、フオちゃんとクロちゃんを見た。


「青の柱にはマイカとランとフオに行ってもらう。あたしとクロは、転送陣で向こうから飛んで来れないように、魔力で蓋をする。オッケー?」

「分かった。ただ一つ聞かせてくれ」


 フオちゃんは腕を組んで首を傾げている。この中で一番話について来れていないのは彼女だろう、いや、もしかしたらマイカちゃんの可能性もあるけど。


「亜空間での時間の経過は外と同じなのか?」

「へ? ううん。実際にこっちに来たのが初めてだから憶測ではあるんだけど、おそらくは二十倍くらいのスピードで亜空間の時間は流れてるはずだよ」

「二十倍……急いでいるのは分かったけど、その先についても聞かせてくれ」


 私は二人の会話を聞いて唖然としていた。雰囲気に流されてなんとなく慌ててたけど、そっか……二十倍は焦るわ……。


「あたしら四人の巫女をランが救おうとしているのは知ってる。そうじゃないとランとマイカの街が壊れるんだろ? だけど、四大柱の巫女を救い出したあとはどうなるんだよ」

「封印の形を変えるんだよ。別の剣を用意して、ね。封印をそっちに移せば、ハロルドはただの空中都市。もう脅かされることはないんだよ」

「なるほど……さっき話してた封印場所ってのはそういう話か……。でも、どこに? そんな台座、どこにでも設置できるワケないだろ。代わりになる場所は見つかったのか?」

「もちろん。ま、その辺のことについては心配しないでよ。それに、地理に疎そうな君に話してもあんまり意味がないんじゃない?」

「……確かに」


 悪気はないんだろうけど、レイさんの言い方はたまにちょっとだけトゲがあるというか、オブラートに隠さずに事実を話すことが多いからキツめに聞こえる。だけど、フオちゃんは気にしないタイプのようだ。レイさんの言い分に納得すると、何度か頷いてから、先ほど詠唱した時のように片手を前に出した。


「これから何が起ころうとしていて、どうすべきなのか、理解した。あたしはお前らのやろうとしていることに異論はない。というか……太古からこの世界に横たわっている理を根底から覆す、ワクワクしないワケねーだろ」


 彼女はそう言って不敵に笑った。先代からのルールに縛られていた自分と、ハロルドを重ねているのかもしれない。クロちゃん、そしてレイさんと、二人がフオちゃんが差し出した手に手を重ねる。

 三人の手が合わさると、彼女は「お前らの街、ぜってー救おうな」と言ってこちらを見た。明らかに主役の顔をしていた。

 ただでさえかっこいい見た目なんだから、それ以上かっこよくならないでほしいな……。私、立場無いからさ……。

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