第7話

「マイカちゃん! そっち行ったよ!」

「くっ……数が多い……! ここは大地の精霊を」

「マジでやめろ!!」


 私達は不慣れながらも精一杯戦っていた。大地の精霊の力に頼ろうとするマイカちゃんに要所要所でストップかけながら。マチスさんの物資調達に付き合うことがあって、数えるほどしか戦闘経験はないと言うマイカちゃんだけど、多分嘘だと思う。

 あのね、マイカちゃん、めちゃくちゃ強い。一匹目のゾンビキマイラと対峙したとき、庇わなきゃ良かったって思うくらい強い。毎晩特訓してないと、いや、特訓しててもこんな強い説明にならないでしょって感じ。ほとんど実践経験がなくてこれって、そんなの反則じゃん。しかもこの子、ドレス着て素手で戦ってるからね。

 マイカちゃんは岩場の陰に身を隠して、あるいは足場の段差を利用しながら、この身動きの取りにくい岩山の中で巧みに戦闘をこなしていた。


「ラン!」

「へっ、うわ!」


 マイカちゃんの声に見上げるように振り向くと、獣が彼女に空中で蹴り飛ばされているところだった。逆光になって二人の姿はシルエットしか見えない。

 情けない声をあげてすっ飛んでいるのは、私の背後から飛びかかろうとしていたらしいアシッドウルフだ。

 マイカちゃんの腕力が強いのは知ってたけど、まさかここまで戦えるなんて……。っていうか強過ぎてマジで引いてる。信じたくないけど、彼女が夜な夜な特訓を繰り広げてるなんて噂は聞いたことないから、この戦闘力は天性の才能なんだと思う。そういうのは私に授けてよ、神様。


 とりあえずその辺にいるモンスターは全て倒すことができたらしい。彼女が四匹も片付けている間に、私は一匹をようやく凍らせることしかできなかったけど。刃が当たったのだって偶然みたいなものだし。

 マイカちゃんとの戦闘力の差が如実に表れていて結構凹む。いや、二人とも戦えないより大分マシなのは分かってるんだけど。元々一人で柱に向かおうとしてた訳だし。気にならないはずがない。


「これで最後ね。早く極秘の材料のところに行きましょう」

「そうだね。歩きながらでいいから、話をしない?」


 あれだけ動き回ってまだ平気そうにしている彼女へと提案をする。ちなみに、私はもうかなりしんどい。ぜぇはぁとまではいかないけど、普通に「はぁー……はぁー……」みたいな呼吸の仕方してる。もうぜぇはぁの一歩手前。


「話ね、いいわよ。私も気になってることがあったから」

「本当に? マイカちゃんの気になってることについては、まぁちょっと置いとくとして。あのさ、さっきも言ったけど、本当に大地の精霊に呼びかけるのやめて?」

「なんでよ! いつか呼び出しに応えてくれるかもしれないでしょ! これは私の問題! ランはほっといてよ!」

「ほっときたいのは山々だけど、命が懸かった戦闘中にかなり頻繁に呼びかけられたら普通の人はスルーできないよ」


 そう、マイカちゃんは異常に魔法とか召還に憧れているのだ。もう今までの様子を見れば分かるだろうけど。こんなに物理で戦えるのに、なんで魔法に……なんてことは言わない。私だって剣でかっこよく戦うのに憧れるし……。

 マイカちゃんが私を目の敵にしている大きな理由の一つに、彼女が持っていないものを私が持っている、ということが挙げられるだろう。あとは普通に、家族みたいに扱われてるのも気に食わないんだろうけど。それにしたって、私が女神召還なんかで街を軽く騒がせなければ、ここまで嫌われなかっただろうなって思う。

 あと、彼女が夜な夜な戦闘の訓練をしているなんて噂は流れてないけど、自分で書いたっぽい魔法陣の中心に立って謎の存在に語りかけているという噂なら聞いたことがある。マジで不憫なんだよな。


「ねぇ、ラン。どこに行こうとしてるの?」

「……ちょっとかかるんだよ」


 何度かの戦闘を繰り返して、私達はやっとこの岩場を抜けようとしていた。インフェルロック、まさかの攻略である。だけど、マイカちゃんがいなければ危なかった、っていうか私一人なら確実に死んでた。夜になってしまったけど、この岩場で一日を過ごさなくていいというのはかなり大きい。寝てる間に襲われたら本当に目も当てられないし。


 道とも言えない道を歩いていくと、景色が徐々に変わっていく。岩だらけだった周囲に、ちらほら木々が見えてきた。私達は自然と早足になる。それから十分ほど歩くと、逆に大きな岩は見えなくなった。


「おぉ……」

「あそこを降りてきたのね、私達」


 道幅が広くなってしっかりしていると気付いた私達は、せーので振り返った。暗くてよく見えないけど、それでも高く険しい山々が空を指しているのは分かった。

 この景色を見るのは初めてじゃないけど、自力で戦闘しながら、というのはもちろん初めてだ。誰かに連れてきてもらって見た風景とは全く別のものに見えた。

 達成感に体を震わせながら、私はこの先にある馬車の乗り場へと急いだ。黒の柱をどうにかできたとして、あそこにマイカちゃん一人で戻れって言うのは、流石に気が引けるなぁなんて考えながら。


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