激闘・ドランズチェイス
第100話
——はい、というわけで! 実況は今年も
——ボンズさん、そろそろ
——あ、はいはい! すみませんね話が長くって!
張り詰めた緊張感を一気に吹っ飛ばしたのは、実況のボンズという男性だ。確かに関係ないことばかり喋ってる気がするけど、まだレースも始まってないし、結構聞き取りやすい声なので私はあまり気にならない。
やんわり注意をした女性は、彼とは対称的な印象を受ける。解説のレイラさんというらしい。生体研究の権威で、特にドラゴンのことを調べてるんだとか。
私はゆるやかな風に吹かれながら、彼らの会話に耳を傾けた。
——というわけで、まもなく開幕するレースですが、今年は昨年よりも参加者がさらに増えまして! なんと八十名のドラゴンライダー達がこの大会に集まってくれました!
——毎年少しずつですが、参加者が増えているのがこのレースの特徴ですね
——そうなんですそうなんです! 盛り上がり続けるドランズチェイス! いいですねー! いつまでもこの席でマイクを握り続けたいものです!
——ボンズさん、進めましょう
ボンズさんはなんていうか、うん、熱い人なんだね。色んな意味で対になっている二人のおしゃべりは耳に楽しい。
このあと、前にルークに教えてもらったようなルールとコースの説明をした二人は”恒例の企画”なんて言って別の話題に移った。
——さて、では注目の選手を紹介しましょう! まずはなんと言っても、三年連続優勝のリード王女! ゼッケンは一番! いやー! ドラゴンも王女も精悍な顔付きですねー!
——王女の相棒は去年と変わらず、セントレア君。気品漂うラグーンドラグーンです。海中も泳げるドラゴンですが、空も速いのは皆様ご存知の通りですね
リードさんの名前が出ると、周囲に歓声や指笛が響いた。やっぱり凄い人気なんだな、あの人。だからって「触っちゃいけない胸がこの世に存在するとは思わなかった」は頭がおかしいと思うけど。
二人は数名の選手の紹介のあと、真打ちっぽい感じで知ってる名前を出した。
——続いてご紹介するのはゼッケン七十番! ハブル商社所属のルーク選手! そう、神速のルークです!
——お噂はかねがね。しかし、女性だったんですね。これは意外です
——クレアさんが淡々としすぎていて全く意外そうに聞こえませんが、そうなんです! 同じ女性! 同じ年頃! そしてリード王女に勝るとも劣らない美少年のような中性的な顔立ち! ついつい比較したくなってしまいます! これ以上のライバルはいないでしょうね!
——愛竜はハイワイバーンのドラシーちゃんです
——固辞し続けていた大会への参加にはリード王女との因縁があるとかないとか! 色んな意味で楽しみですね!
かっこいいなぁ、ルーク。私もああいうところで紹介されてみたい。
いや、やっぱり嫌だな。恥ずかし過ぎるや。大衆の前で「美少年みたいな顔立ち」だなんて褒められ方をして、ルークも今頃苦笑いしているところだろう。
リードさんは、笑顔で周囲に手を振ってそう。好きそうだもんね、こういうの。それを羨ましく思ったりはしないけど、とことん民衆の上に立つという素質を兼揃えている人だと思うよ。ちょっとアレだけど。
——時間が少々余っていますので、もう一人紹介させてください! この大会のダークホース! ゼッケン八十番! 一番最後に選手登録をした謎の少女と謎の金色竜!
——謎ってなんですか
——それがですねぇ……先ほど彼女の書いた登録書を確認したんですが、ちょっと読めないんですよね
——見せて下さい。……これ、ルクス地方の言葉のようですね。私もなんて書いてあるのかは分かりませんが……
——遠路はるばるこの大会に参加されたということでしょうか! 彼女をご紹介する理由はなんと言っても乗りこなしているドラゴン! 世にも不思議な金色のドラゴンです! クレアさん、これは?
——事前の体調チェックによると、あの個体は突然変異で、選手からは「クー」と呼ばれていたとか。金色のドラゴンと言えば最近発見されたエルドラがいますが、体の特徴はかけ離れています。
——まるで神話に出てくるエモゥドラゴンのようですね! 彼女がどんな試合運びをするのか、見物です!
マイカちゃん……字を読んでもらえなくて謎の選手扱いされてるじゃん……。私が笑いを噛み殺していると、少し離れたところに立っている双眼鏡を覗いていたフラッガーのおじさんが「いいぞー! 頑張れちびっこー!」と大きな声を張り上げた。
謎の選手として取り上げられた彼女は、ボンズさんの煽りとその容姿で、観衆を味方に付けたらしい。
——そろそろレースが始まります! 時計台の鐘が鳴ったら、各選手一斉にスタートです
——今年はどんなドラマが生まれるのでしょうか
——あ! 今の! 実況っぽくていいですね!
——……ドランズチェイス、まもなく開催です
二人が言い終わるとほぼ同時に、街の中央にある時計台の鐘が鳴った。米粒みたいだけど、飛竜に乗った人達が第一チェックポイントを目指すのが見える。太陽の光に照らされた金色の竜の翼が、私に合図するように輝いて見えた。
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