できたての伝説
第215話
四大柱の女神全てが揃ったようだけど、巫女達の呪文はまだ終わらない。ちなみに、女神達は私がマイカちゃんのキラキラにまみれたときの話をミストから聞いてゲラゲラ笑っている。
声しか聞こえないからイマイチ状況が掴みきれないけど、フレイが過呼吸みたいになってるし、ミラに至ってはもう声が聞こえない。大丈夫なのかな。良く考えたら私はただの被害者だし、もう開き直ろうと思っていたら、ディアボロゥが居た堪れなさそうに「お、おい、笑い過ぎだろ」ってフォローに回ってくれちゃったからまた苦しくなった。
心を無にして呪文が終わるのを待っていると、耳馴染みのある二つの声が聞こえてきた。
「よう。遂にここまで来たんだな」
「私達が居なくて大丈夫かな、ちょっと心配だけど」
「ま、ランならなんとかできるだろ」
「それもそうね」
「イフリーさん! ヒョーカイさん!」
双剣に宿る女神の声に反応した直後、台座に刺さっていた双剣が一際強い光を発した。強烈な白に塗り潰された視界、思わず目を閉じる。いつの間にか、レイさん達が唱えていた呪文が止んでいる。
ゆっくりと目を開けると、そこには巫女の他、六人の女神が居た。人間界に女神を姿を現すなんて、伝説でしか聞いたことがない。
「う、そ……」
ヒョーカイさんとミスト、イフリーさんとフレイは姉妹だからか結構似ている。ミラは優しげなお姉さんという風貌で、ディアボロゥは黒を基調としたスーツに身を纏い、腕を組んで立っていた。っていうかディアボロゥ、スーツ着てたんだ……。羊のような立派な角とスーツの組み合わせが妙に決まっててかっこいい。
私は目の前の光景に口をあんぐりと開けて、目に映るものが幻じゃないか、それだけを確かめるように瞬きをした。
「封印を編むっていうのはこういうことだよ。というわけで、ミラ以外は初めましてかな。あたしはレイ、光の柱の巫女。大体の事情は知ってるだろうけど、今からこの双剣で柱の封印をし直すから」
レイさんは相変わらずだった。クロちゃんが持ち込んだらしい水筒の飲み物を受け取って、喉を潤しながらあっけらかんと説明していく。まるで日雇い労働者に今日の仕事を告げるような軽い口調だ。
「あ、そうそう。剣の封印は炎系と氷水系で分かれてもらうから、両姉妹はそのまま入ってもらうとして。ディアボロゥとミラはどっちの剣に収まるか話し合ってねー」
友達と旅行に行った時の部屋割りじゃないんだから。私はそう言いかけたけど、ディアボロゥ達のあまりに真剣な表情に黙ってしまった。
「えぇ……そんな生きるか死ぬかな顔、する……?」
「あーもう。どっちでもいいじゃない。じゃあアンタはミストとヒョーカイのとこ行きなさい」
マイカちゃんにビシッと指差されたディアボロゥは目を見開き、刈り上げたすっきりとしたうなじをさすりながら、視線を逸らして「腹が痛いのでまた今度にする」と呟いた。その反応で色々察した。
「あの、もしかしてだけど、ディアボロゥ、ミストと同じ剣に収まるの、嫌だったりする?」
「いいか、私は女神だぞ。そんな子供みたいな理由で駄々をこねる訳がミストだけは勘弁してくれ」
「耐えきれなかったじゃん」
私は呆れた顔で彼女を見つめた。彼女の反応に物申したい人が一人いた。ミストだ。彼女は心底ショックだという顔をして「どうしてです!?」とか色々言ってた。アクが強い面子の中でも、やっぱりミストって特別なんだなぁって。
「そこまで嫌なら仕方ないわね。時間も無いし、ここはミラが」
「ふふ、私はミストが嫌という理由ではありませんが、そちらの剣は運勢が悪いと占いで出ておりますのでミストだけは勘弁してもらえますか?」
「ミストって言っちゃってるじゃん」
ミストはディアボロゥとミラの周りとぐるぐると回りながら「どうしてですか? 楽しいですよ? きっと」と訴えている。しかし二人ともミストと目を合わせようとしなかった。反応がガチのときのそれ。
ディアボロゥはクロちゃんに、ミラはレイさん、じゃなくて何故かフオちゃんの背中に隠れるように移動する。ミラ、本能的にレイさんを避けたんだろうな……賢い……。
急いで封印をしてハロルドに戻りたいっていうのに、これじゃ埒があかない。困り果てていると、レイさんが笑いながら言った。そういうことなら自然界の法則に任せよう、と。
「自然界の法則?」
「うん。炎はどちらかというと光よりも闇に近い性質があるとされているんだよ。ちなみに氷水系の事象は光の性質を持ち合わせているとも。つまり」
「はぁ!? そんなので私達の永遠になるかもしれない部屋割り考えるのやめてくれます!? っていうかなんで!? なんで私が!?」
ミラがすごい勢いで抗議する。どんだけ嫌なのって吹き出しそうになったけど、我慢しなきゃ。顔面に苦笑いを貼り付けて、私はまぁまぁとミラを宥めた。
「ラン、本当にいいのか?」
声に振り返ると、そこにはイフリーさんがいた。この問いは、父の形見を封印の剣として使用することだろう。それについてはもう心は決まっていたので、私はしっかりと頷いた。
「そうか……」
「イフリーは寂しいんでしょ。ランと離れるの」
「……まぁな。お前もだろ」
「そりゃ。娘みたいに思ってましたから」
なんか、泣きそうになる。二人はずっと、私の成長を見守っていてくれたんだ。もしかすると、二人とも母親代わりのつもりでいてくれたのかもしれない。
私は二人に肩に手を回して、ぎゅっと存在を確かめるように抱き締めた。二人も抱き返してくれた。こんな風に触れ合える日が来るとは、きっと二人も考えていなかっただろう。
そうして私達はしばらくくっついていた。後ろではミラの必死な抗議が響き続けた。
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