第10話 めちゃくちゃ失礼ですよね
「だが断る」
俺ははっきりと断った。
「ちょっ、何でですか!?」
「何でも何も、入るなら規模の大きなギルドだろう」
わざわざ進んで弱小ギルドを選ぼうとするやつなどいないはずだ。
「……うちは弱小じゃないです……だ、誰もが知ってる有名ギルドです……」
「ならなぜ目を逸らす?」
「ぎくり」
誰もが知っているほどの泡沫ギルドなのかもしれない。
「くっ……こんな美女が恥を忍んで土下座までしてるのに、あなたは血も涙も無い悪魔ですか! も、もしかしてわたしの身体まで要求するつもり……!?」
女は頬を引き攣らせながら、両腕で身体を隠す。
「残念ながら俺は大きい胸が好みだ」
「どうせわたしは貧乳ですよコノヤロウ!」
女は涙目で叫んでから、
「では靴を! 靴を舐めますから!」
……それにしても、随分と変な女に絡まれてしまったな。
そんなに新人が欲しいのか。
ここまで必死になるからには、何かのっぴきならない事情でもあるのかもしれない。
「せ、せめて詳しい話だけでも聞いてください!」
「ふむ」
「聞いてくれますか!? ではここでも何ですので、ギルドにご案内します!」
「だが断る」
「何でですかぁっ!?」
「別に興味ない」
「ひでぶっ!」
この女のギルドがどんな状況だろうと、俺には関係がないからな。
俺は剣を極めるためにこの都市に来た。
正直それ以外のことには関心がない。
「ううう……土下座作戦なら今度こそ上手くいくと思ったのに……」
女が何やら呻いているが、気にせず質問した。
「ところでこの都市でもっとも力のあるギルドは何だ?」
「……それをわたしに訊きますか……図太いにも程がありますよね……」
もうどうでもいいや、という顔で女は教えてくれた。
「間違いなく〝ブラックブレード〟でしょうね……A級剣士が八人もいますし……」
ふむ。
ブラックブレードか。
母さんが言っていたギルドの名前は忘れたが、何となくそんな仰々しい感じだった気もする。
「広場に本拠地(ホーム)がありますよ……でも最近は特に入会条件が厳しいので、なかなか入るのは大変らしいですけど……」
「そうか。助かった」
「どういたしまして……」
最初の勢いはどこへやら、女の口調は弱々しい。
「まぁ頑張れ。俺以外にも新人はたくさんいる。中にはお前の話を聞いてくれる変わり者もいるだろう」
「めちゃくちゃ失礼ですよね!?」
「……?」
励ましてやったというのに、なぜ怒られたのか。
俺は首を傾げつつ、ブラックブレードという剣士ギルドへと向かった。
「ふむ。あれだろうか?」
ブラックブレードの本拠地らしき建物はすぐに見つかった。
「何の用だ?」
門へと近付いていくと、門番の剣士が訪ねてきた。
「ここがブラックブレードの本拠地か?」
「そうだ」
「入会したい」
「入会希望者か。だがうちに入るためには試験に合格しなければならん。毎月10日に開いている。次は3日後だな」
3日後か。
それまで待つ必要があるのか。
いや、むしろ3日で済んだのだから運がいいのかもしれない。
「受けるためには試験の登録が必要だ」
「分かった」
門番に連れられて中に入り、受付へ。
俺と同じように試験の登録に来たのだろう、若い剣士たちが大勢並んでいた。
しばし順番を待ち、俺の番が回ってきた。
「試験登録ですね。当ギルドの試験を受けるためには、【上級職】以上であることが必須となります。職業を教えていただけますか?」
なんだと。
【上級職】が必須?
そんな条件があるのか。
「いや、俺は《無職》だ。【上級職】ではない」
俺がそう伝えると、受付の男は一瞬、目を丸くして、
「ぶふっ」
噴き出した。
「も、申し訳ありません。……《無職》、ですか。先ほど申し上げました通り、当ギルドへの加入は【上級職】であることが最低条件となっております。残念ですが、お引き取り下さい」
笑いを何とか堪えているといった顔で、男はそう言ってきた。
「おいおい、《無職》だってよ!」
「まさかあいつ、《無職》がこのトップギルドに入れると思ってたのか」
「つか、《無職》なんてどこのギルドだって門前払いだろ!」
俺の声が聞こえていたらしく、背後からも笑い声が聞こえてくる。
ふむ。
これは困ったな。
《無職》だからと馬鹿にされるのは慣れているからいいのだが、ギルドに加入する試験すら受けることができないとは。
「そこを何とかできないものか? 受験すれば確実に受かる自信がある」
「ぶほっ……も、申し訳ないのですが、規則は規則ですので」
また盛大に噴いたぞ。
背後からも大きな笑い声。
「受験すれば確実に受かる!?」
「やべぇ! マジもんの阿呆だぜ、あいつ!」
「受付もめちゃくちゃ対応に困ってるじゃねぇか!」
と、そこで俺は重要なことを思い出す。
そうだ。
母さんが手紙を書いてくれたのは、きっとこういうときのためだろう。
「ならばこの手紙をギルドの代表に渡してほしい」
「ギルド長にですか?」
「ああ」
「……」
受付の男はしばし何かを見定めるような視線を俺に向けてから、大きなため息を吐いた。
「残念ですが、お受けかねます」
「なぜだ?」
そこで男の接客用の笑顔が崩れ、侮蔑に満ちた表情になる。
「決まっているでしょう。ギルド長はお忙しいのです。《無職》ごときに裂く時間などありません。……後ろが使えてますので、とっとと帰っていただけませんか?」
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