第17話 とても言い難いんだけれど
まずは筆記試験があるらしい。
学科によらず内容は一緒のようで、一般常識が中心だという。
何の勉強もしてこなかったけど、大丈夫かな?
僕自身よりもむしろレイラの方が心配だ。
あんまり頭の良い子じゃないからね……。
「思ったより簡単だったかな」
筆記が終わって、僕は息を吐く。
前世の試験と比べれば基本的なことばかりで、解きやすかった。
満点とはいかなくても、そこそこの点は取れたんじゃないだろうか。
「レイラはどうだった?」
「大丈夫! ちゃんと全部埋めたから!」
「それ、ダメな人が言うやつ……」
埋めただけじゃ点数にはならないんだよ?
まぁ次の実技試験で挽回すれば大丈夫か。
実技試験は学科ごとに内容が違うため、そこでいったんレイラと別れた。
僕は武術科の会場へと向かう。
武術科の倍率はおよそ三倍らしい。
定員は百人で、受験者は三百人ほどだ。
「おい、さっきの奴だぜ」
「ぷぷぷ、《無職》が武術科に入れるわけないのにね」
鑑定のときにいた人たちなのか、僕を指さして嗤ってくる者たちがいた。
ああいうのは無視するのが一番だ。
やがて受験者がそろうと、教師が試験内容を説明してくれた。
「実技試験では、諸君らに魔物を討伐してもらう。所定の狩場に向かい、そこで制限時間内に倒した魔物の数と質で実力を評価する。安全への配慮と成果の記録のため、必ず一人につき一人ずつ在学生に同行してもらう」
そうして僕のところにも試験官がやってきた。
十七、八ぐらいのお姉さんだ。
「あなたがアーク君?」
「はい、そうです」
「私は試験を担当するメレナ、武術科の三年生よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「それで……《無職》というのは本当?」
僕は頷く。
「そう……えっとね、とても言い難いんだけれど……」
メレナさんは申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「《無職》のあなたではゴブリンを相手にするのだって危険よ。それに万が一倒すことができたとしても、合格はまず不可能。悪いことは言わないから、辞退した方がいいと思うわ」
「いえ、辞退するつもりはないです」
僕は即答する。
「……フェイノット、という町から来たって書いてあるけど、たぶんかなり遠いところにあるのよね? はるばる試験を受けにきたというのに、辞退する気になれないのは分かる。でもね、命は一つしかないのよ?」
バカにしているわけではなく、単純に僕のことを心配してくれているみたいだった。
「ありがとうございます。でも、心配は要りません」
「……そこまで言うなら……」
メレナさんは僕の意思が固いと感じたのか、溜息を吐きながらも最後には頷いてくれたのだった。
指定された狩場は三か所あって、受験者が集中しないようあらかじめ割り当てられているらしい。
僕がメレナさんに連れられて向かったのは、都市の西にある森だった。
主にゴブリンが棲息しているらしく、初心者に優しい狩場だ。
すでに試験は始まっていて、受験者たちが我先にと森に飛び込んでいく。
僕も急がないと。
森の浅い部分は木も疎らで見通しも悪くなかった。
ただ、ゴブリンの数は少なそうだ。
しかも大勢の受験者が一斉にゴブリンを探しているので、取り合いになってしまう。
ゴブリンらしき気配は幾つか感じ取っているけれど、どれも近くに人の気配があって、すでにターゲットにされているようだ。
さすがに横取りはしたくない。
この様子だともっと奥に行かないとダメっぽいね。
「あまり深いところには行かない方がいいわ。ゴブリンの巣もあるから――って、言ってる傍から!? ちょっと待ちなさい!」
後ろの方からメレナさんが何かを喚いている気がしたけど、あまり悠長にはしていられない。
僕はどんどん森の奥へと入っていった。
「は、速……っ!? 森の中をああも楽に進んでいくなんてっ……」
一応メレナさんを引き離してはマズいので、ちゃんと付いてこれるペースにした。
武術科の在校生だし、これくらいなら余裕だよね?
「ぜぇぜぇ……ま、待って……っ!」
「っ……見つけた」
ゴブリンらしき気配を察知し、僕は右斜めへと方向を変えた。
草をかき分けたその先に、果たして一匹のゴブリンがいた。
「グゲッ!?」
こっちに気づいてびっくりしている。
僕は突きを繰り出し、心臓を貫いた。
ゴブリンは声を上げることもなくその場に倒れ込む。
「ぜぇっ、ぜぇっ……や、やっと追いついたっ……って、これはっ!?」
メレナさんが倒れたゴブリンを見て驚いている。
「倒しました。やっと一匹ですね」
「ぜぇ、ぜぇ……これ……し、心臓を一突き……? こんな綺麗な倒し方……は、初めて見た……」
「次に行きますよ」
「あっ……ちょっと待って……っ!?」
僕は次のゴブリンを探し、さらに森の奥へと足を進める。
二匹、三匹、四匹と、順調に倒していった。
やがて十五匹目を倒したところで、僕は足を止めた。
少し遅れて息を荒らげたメレナさんが追いついてくる。
「ぜぇはぁ……な、なんでっ、こんなに簡単にゴブリンを見つけられるのっ……?」
「……? 気配で分かりますよね?」
「け、気配……っ?」
「それより見てください。あそこ、たぶんゴブリンの巣があります」
「っ……」
僕がいったん立ち止まったのは、ゴブリンの巣らしき洞窟を発見したからだ。
中で無数のゴブリンが蠢いているのが感じられる。
「き、危険よっ? 今すぐ引き返すわっ」
「え? 何でですか? もちろん行きますよ? せっかくのチャンスですし」
「は? あっ、ちょっと待って……っ!? すでに十分、合格圏内なんだけど……っ!」
メレナさんが何かを叫んだ気がしたけど、僕は試験合格を目指してゴブリンの巣へと飛び込んだ。
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