第16話 僕はどっちでもいいけど
「わー、沢山いるねー」
「うん」
入学試験の当日。
学院に行くと、大勢の人でごった返していた。
「みんな受験者かなー?」
「いや、半分は父兄じゃないかな。明らかに年齢高いし」
入学には年齢制限があって、十歳から十八歳までだ。
ただ、この世界には戸籍なんてないし、どうやって年齢を確認するのだろう?
と思っていると、
「受験者の皆さんにはまず、〈鑑定〉を受けていただきます。年齢や職業などを確認するためです」
なるほど、〈鑑定〉で年齢が分かっちゃうわけか。
祝福の儀を受けた後にも〈鑑定〉を受けて鑑定書を貰ったけど、さすがに年齢が書かれていたことまで覚えていなかった。
僕たちは言われた通り列に並んだ。
《鑑定士》の人がたくさんいて、受験者を一人一人〈鑑定〉している。
やがて僕たちの順番がきた。
まずはレイラからだ。
「えっ……? ま、《魔導剣姫》……っ!?」
本当はダメなんだろうけど、あまりに驚いたのか、鑑定士さんはレイラの職業を大きな声で叫んでしまった。
それを聞いて、周囲の人たちが騒めく。
「《魔導剣姫》……? 聞いたことないぞ?」
「けど、どう考えても《魔法剣士》の上位互換だろう……?」
「つまり【最上級職】……? あんな子供が……?」
「まだ祝福を受けて間もないはずじゃないのか……?」
レイラが鑑定結果を受け取ると、続いて僕の番が来た。
「今の女の子の兄妹かな……?」
「だとしたらあいつもすごい職業なんじゃねぇか……?」
な、なんか期待されてるんだけど……。
鑑定士さんもどこか緊張した面持ちだ。
でも生憎と僕はレイラのような【最上級職】じゃないんだよねぇ。
周囲が静まり返って耳を澄ませる中、今度はさっきと同じ過ちを犯すまいと、きっと鑑定士さんも気を引き締めていたと思う。
「は……? む、《無職》……?」
……驚きの方向性が別ベクトルだったせいか、またしても声に出してしまった。
今度は呟くような声だったけれど、周りがシンとしていたせいではっきりと聞こえてしまったようだ。
どっと笑いが巻き起こった。
「おいおい、《無職》だってよ!」
「マジか! 俺、初めて聞いたぞ!」
「よく受けようと思ったな。不合格以外あり得ねぇだろ」
鑑定士さんが慌てて口を押えるが、もはや後の祭りだ。
「も、申し訳ありませんっ……」
「いえ、気にしないでください」
僕はそう取りなして、待ってくれていたレイラと合流した。
「う~、アークは凄いんだから!」
周囲からの馬鹿にするような視線に、なぜかレイラの方が憤慨している。
それから試験会場へと向かっていると、僕たちのところへと押し寄せてくる集団があった。
「うわっ」
僕は彼らに押し退けられてしまう。
どうやらお目当てはレイラだけらしい。
「君、もちろん武術科に入るよね!?」
「ぜひとも武術科に!」
「いやいや、魔法科に決まってる!」
「そうだ! 武術科は引っ込んでろ!」
この学院の教職員たちのようだ。
優秀な受験者が現れたことを知り、是が非でも自分たちの学科を選んでもらいたいらしい。
もちろん《無職》の僕には誰も注目しない。
……いや、取り残された僕を指さして嗤っている人はいるけど。
「あれ? いない?」
「どこに行ったんだ?」
レイラを取り囲んで言い合っていた彼らが、急に慌て出した。
見ると、レイラがいない。
それもそのはず、彼女は僕のすぐ後ろにいた。
「ふー、暑苦しかったー。アーク、行こ!」
〝隠密〟を使って抜け出してきたらしい。
レイラは気配を消したまま、僕と一緒に試験会場へと向かった。
すると新たな列ができていた。
どうやらまた並ばないといけないらしい。
しばらくして順番が回ってくる。
「ここでは志望する学科を選択していただきます」
「えっ? どれか一つを選ばなくちゃいけないの!?」
「もちろんです。一般科、武術科、魔法科のいずれか一つにしか入学できません」
これは初耳だった。
パンフレットには確かに三つの学科があるとは記載されてたけど、どれか一つしか入れないとは書かれていなかった。
……まぁ考えてみたら当たり前だけど。
当たり前だからこそわざわざ書かなかったのだろう。
「えー、何でー? パパは六つの学校に同時に入ってたのに!」
「六つ……?」
「レイラ、それはたぶん特殊例過ぎるよ……」
受付のお姉さんはちょっと困惑しつつ、言う。
「当然ですが、職業と適性の高い学科に入っていただくのがよろしいかと」
どの科を受験するかは、受験者に任されている。
でも与えられた職業に応じた学科を受けるのが普通だった。
「とはいえ、確かにこの職業ですと……」
レイラの鑑定書を見ながら、受付のお姉さんは難しい顔になる。
「ただ、授業が重なってしまうため、現実的に考えて複数の学科に入ることは不可能です。申し訳ありませんが、どちらかを選んでいただくしかありません」
するとレイラが何かを思いついたのか、ぽんと手を叩いた。
「じゃあ、レイラは魔法科にする! アークは武術科ね!」
「う、うん……僕はどっちでもいいけど……でも、いいの?」
「大丈夫!」
「そう?」
レイラにしてはあっさり引き下がったなぁ。
なんか嫌な予感がする……過去の経験から言って、レイラの大丈夫という言葉にはむしろ不安しかないよ。
ともかくこうして僕は武術科の試験を、レイラは魔法科の試験を受けることになったのだった。
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