第15話 乗り心地も改良してもらいたかったよ
お母さんは「勉強するなら近場の学校でもいいんじゃないか……?」と反対したけれど、「せっかくなら色んな人と触れ合える方がいい」というおじいちゃんとおばあちゃんの後押しもあって、僕とレイラはエデルハイド王国にある学校に通うことになった。
と言っても、本当に遠いので自宅から通えるはずもない。
寮があるらしいので、そこに住むつもりだ。
こうして僕とレイラは生まれ育った町を出ることになった。
長旅は二度目だけれど、二人きりは初めてのことだ。
十二歳の子供の二人旅というと危ないように聞こえるけど、お母さんだって十一のときに一人で剣の都市に単身で旅立ったそうだし、この世界ならそう珍しいことではないんだろう。
まぁそのお母さんが一番心配してたけど……。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ちゃんと歯を磨くんだぞ? 毎日お風呂にも入って……服は洗濯して……」
「大丈夫だって、お母さん」
「出発するよーっ!」
家族に別れを告げ、僕たちは出発する。
「いっけーっ!」
「ちょっ、いきなり飛ばし過ぎだって!」
移動手段は船だ。
以前お父さんが作った〝陸船〟で、魔力で走ることができる。
レイラの急加速に慌てていると、あっという間に町が見えなくなってしまった。
てか、前に乗ったときより速くなってない?
「パパが改良してくれたんだって! 魔力効率がよくなってもっとスピードが出るように!」
「できれば乗り心地も改良してもらいたかったよ!」
振動が凄くてお尻が痛い。
すぐに酔ってしまいそうだ。
「そもそも今回は僕たちだけなんだから、空を飛んだ方が早くない?」
「あ」
空を飛ぶことにしました。
エデルハイド王国に辿り着いた。
空を飛んで、だいたい丸二日かかった。
前世の感覚だとすごく長時間かかった感じがするけれど、交通の発達していないこの世界ではたったの二日だ。
馬車とかだとたぶん半月以上は必要だろう。
「あれ? アーク、ここ来たことないー?」
「うん、僕もそう思った」
学校があるらしい王都を空から眺め、僕たちは頷き合う。
街並みに覚えがあったのだ。
ただ通り過ぎただけではないだろう。
あまり記憶力のない(というより興味のないことはすぐ忘れる)レイラも覚えているくらいだし。
「ここって……そうだ! 確か、アンデッドに襲われてた都市だ」
「そうだったっけ?」
レイラは首を傾げているけど、間違いない。
僕がアンデッドを操る死霊術師を真っ先に探し出し、倒したんだ。
あれから四年が経ち、街は綺麗に修復されている。
道行く人たちには活気があって、あのときとは印象がまったく違って見えた。
地上に降り立ち、街に入る。
うん、やっぱりそうだ。
長く伸びる大通りの先には四年前と変わらないお城があった。
だけど学院の場所が分からない。
誰かに聞こうかな?
「ねぇねぇお姉ちゃん! 学院ってどこにあるの?」
レイラがすぐ近くを通りかかったお姉さんに声をかけた。
僕と違って人見知りをしない性格なので、こういうのは得意だ。
天真爛漫さが顔から滲み出ている女の子だし、いきなり声をかけられた方も大抵は親切に教えてくれる。
果たしてお姉さんは立ち止まってくれた。
「学院……エデルハイド王立学院のことね。試験を受けに来たのかしら?」
「試験?」
微笑むお姉さんの言葉に、レイラは首を傾げた。
僕は呆れながら言う。
「王立学院に入学するには試験に合格しないといけないんだよ。パンフレットに書いてたでしょ?」
「ほえ? そうだったっけ? ていうか、そもそも試験ってなーに?」
そこからか……。
「試験っていうのはね、入学するのに相応しいかどうかをテストされるんだ。それで相応しいと判断されたら合格して、晴れて生徒になることができるんだよ」
「落ちたらどうなるのー?」
「また来年、かな」
「ふえ~」
難易度は分からないけれど、たぶん簡単な試験ではないはずだ。
おじいちゃんたちは僕らなら絶対に一発で合格できるって言ってたけど。
「王立学院なら街の北西部にあるわ。この道をずっと真っ直ぐね」
「こっちだね! お姉ちゃんありがとう!」
「どういたしまして。あなたたち遠くから来たの? 二人だけで?」
「うん! フェイノットっていう町から!」
「フェイノット……? 聞いたことないわね。とにかく、試験頑張ってちょうだい」
お姉さんにお礼を言って、僕たちは教えてもらった方向へと歩いていく。
思ってたより早く着いちゃったので試験は数日後だけれど、あらかじめ学院の場所くらいは確認しておきたかった。
「あ、あれかなっ?」
「みたいだね」
やがてそれらしき建物が見えてきた。
「すっごーい。広そうだね」
「うん」
周囲をぐるりと高い塀に囲まれているんだけれど、その塀がずっと先まで続いている。
かなり大きな敷地を持っているらしい。
正門前まで行ってみたけれど、部外者は立ち入り禁止らしくて中に入ることはできなかった。
たぶん試験のときには入れるようになるだろう。
外から敷地の中を眺めていると、生徒と思われる集団が通り過ぎるのが見えた。
女子生徒のグループだ。
「あ……」
今、
生憎とすでに建物の陰に隠れてしまったので、確認することができない。
「どうしたの、アーク?」
「……ううん、何でもない。それより宿を探さなくちゃね」
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