第14話 パパとおそろいだね
「げ、元気を出すんだ、アーク! どんな職業を与えられても、お前は私の可愛い息子だ!」
「うあー?」
家に帰ってお母さんに報告すると、必死に慰めてくれた。
フィアが不思議そうな顔をしている。
「心配要らないよ、お母さん。だって、職業なんてあってもなくても大して変わりないんでしょ?」
お父さんが言ってた。
「それはお父さんがおかしいだけで……いや、しかし、そういうことにしておいた方がいいのか……?」
お母さんは難しい顔をして唸る。
「こういうこともあろうと、幼い頃から色々と叩き込んでおいてよかったな。やはり俺は間違っていなかったようだ」
得意顔で頷くのはお父さんだ。
「アークはパパとおそろいだねー」
レイラが少し羨ましそうに言った。
外れ中の外れと言われている《無職》だけれど、正直まったく気にはならなかった。
だって同じ《無職》のお父さんがこんなだしね……。
それにしても親子で《無職》って、なんか字面だけ見たら完全にダメな家系だ。
嫌なことがあるとすれば、周りからの評判が面倒なことくらいだろう。
噂を聞きつけたらしく、近所にあるアイテムショップのおばあちゃんが心配して家にやってきた。
もうすぐ八十になるようで、すっかり腰が曲がっているおばあちゃんは、僕の手を皺くちゃの手で掴むと涙目で言う。
「ああ、可哀想に……親子そろって同じ運命だなんて……」
「う、うん」
「強く生きるんだよ……強く生きるんだよ……お父さんのように家族に黙って家出しちゃだめだよ……」
「だ、大丈夫だから」
別にお父さん、家出したわけじゃないんだけどな。
昔、修行のために色んなところに行っていたのを家出だと勘違いし、今もそう信じているみたい。
あとは近所の子供たちにも馬鹿にされた。
まぁレイラの顔を見たら尻尾を巻いて逃げていくんだけど。
僕の《無職》だけでなく、レイラの《魔導剣姫》の方も噂になっているようだ。
そんな感じで、僕はすんなりと《無職》であることを受け入れたんだけれど……しばらく経った頃、ある問題に直面してしまった。
今まで僕とレイラの力はほぼ互角、もしくは年の功か、やや僕が優勢といった感じだったのに、祝福を受けてからはレイラに追い越され、それどころか差をつけられ始めてしまった。
なるほどこれが職業の差かと感心しつつも、これまでライバルでもあった双子の妹の後塵を拝することになったことに、僕は少なからず戸惑ってしまった。
僕を相手に連勝するようになったことで、レイラがちょっとつまらなそうな顔をしたときには、さすがに凹んだ。
でもまぁ仕方ないよね。
レイラはレイラ、僕は僕、気にしないようにしよう。
と思っていたら、ある日お父さんが、
「アーク」
「……お父さん?」
「今日からお前だけ秘密の特訓だ」
「うぇ……」
普段は鈍感なくせに、こういうときだけ鋭いんだから!
お陰で僕だけ毎日、お父さんの地獄の特訓メニューをこなす羽目になったのだった。
二年が経った。
僕は十二歳になり、
「もう嫌だ!」
……秘密の特訓に疲れ切っていた。
だって毎朝、夜中の三時に起きて、日が昇り出す時間まで続くのだ。
その後は通常の訓練があるし、三百六十五日ずっと休みがない。
ブラック企業だってもうちょっと休みがあるだろう。
よく二年も我慢したよ。
「というわけでお母さん、僕はしばらく旅に出る」
「あ、アーク!?」
僕の突然の宣言に、お母さんが目を剥いた。
それから家族会議が始まった。
当然、お父さんはみんなから非難の集中砲火を浴びた。
「ずるーい! レイラも秘密の特訓したかったのに!」
レイラだけはそう口を尖らせたけど、ほんとやめてほしい。
なんで僕が地獄を味わったと思っているんだ。
「ふむ、さすがに少しやり過ぎたかもしれないな」
少しじゃねーよ!
まったく反省してないよね、この人?
ともかくみんなの説得もあって秘密の特訓はなくなった。
ほっと安堵していると、おじいちゃんがあるものを見せてきた。
「生徒募集……?」
どうやらとある学校のパンフレットのようだ。
来年度の生徒を世界各地から募っているらしい。
「エデルハイド王国? 聞いたことないなぁ」
大陸西部にある国だとか。
ということは、魔王討伐の旅の途中に寄ったことがあるかもしれないね。
「何でこんな田舎に?」
「少し前に都会に行っていたペテラさんが、たまたま見かけて持って帰ってきたそうだ。最初は自分の孫に行かせようかと思ったらしいけど、そんなお金はないことに気づいて儂にくれたんだ。どうだ、アーク、行ってみないか?」
うちだってそんなお金ないような……?
ていうか、そもそも誰も定職に就いてないんだけど、どうやって家計を維持しているんだろう……今更ながら謎だ。
「ふふふ、おばあちゃんも賛成です! 訓練ばかりではなく、勉強で知識を身に着けることも大事だと思いますよ」
この世界の文明レベルを考えると、すごく先進的なことを言って後押ししてくるおばあちゃん。
「それに大きな学校みたいですし、友達ができるかもしれません!」
確かにこの歳で友達一人もいないけど……。
心配してくれてたんだね……。
学校か……うん、悪くない。
前世は義務教育だったのに、僕は身体が弱くて数えるほどしかいけなかった。
「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん。……僕、この学校に行ってみるよ」
「レイラも!」
え、レイラも?
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