第13話 その台詞たぶん三回目だぞ
魔王を倒して故郷に帰ってきてから、以前より訓練の厳しさが軟化した。
というのも、おじいちゃんとおばあちゃんに怒られたからだ。
やっぱり八歳の子供に課すようなものじゃなかったらしい。
とはいえ、その代わりに増えたレイラとの〝遊び〟が、結局それに負けないくらいハードなので、正直あまり変わってない。
今日もレイラに連れられて町から百キロくらい離れたところにあるダンジョンに潜り、色々と酷い目に遭ったし。
そんな感じで月日が過ぎ去り、気づけば僕たちは十歳になっていた。
そう、祝福の儀を受ける年齢である。
そしてあっという間に祝福の儀の当日がやってきた。
「アークとレイラがどんな職業を与えられるのか考えていると、おじいちゃん、緊張のあまり昨日は一睡もできなかったぞ!」
「ふふふ、おばあちゃんもです」
「二人ともその台詞たぶん三回目だぞ? もう歳なんだから、しっかり睡眠は取らないと」
祝福の儀には家族みんなで参加するらしく、おじいちゃんとおばあちゃんまで朝から張り切っていた。
お父さんはいつも通りだけど。
ちなみに我が家は二世帯住宅だ。
元々あった古い家に新しく付け足したような形になっていて、家族八人と従魔四体が一緒に住んでいる。
当初は少し離れた土地に新築を建てて引っ越す予定だったけど、おじいちゃんが「やっぱり寂しい!」と言い出し、一緒に住めるようにしたのだ。
僕はまだ生まれたばかりだったけど、転生者なのでそのときのことを覚えている。
「ふ、ふ、二人ともっ、そう緊張しなくていいからなっ! なるようにしかならないんだから、すべてを受け入れる気持ちで臨むんだっ!」
「ママが一番緊張してるよー?」
「そそそ、そんなことはないぞっ!?」
……お母さん、声が上ずってるよ。
「あー?」
「これからお兄ちゃんたちは祝福を受けに行くんだ。フィアはママと一緒にお留守番だ」
「うー」
お母さんの腕の中には一か月前に生まれたばかりの僕の妹がいた。
そう、八人目の家族だ。
フィアと名付けられた彼女は元気に育っているけれど、さすがに一緒に連れてはいけない。
お母さんの言葉が分かっているのかいないのか、円らな目でじーっと見ている。
いや、さすがに分かってないよね。
赤ん坊がいるから仕方ないとはいえ、お母さんは不安そうだ。
「アークのことはミラに任せておいてください」
「なぜアークだけなんだ……。レイラのことも頼むぞ?」
「考えておきましょう。アーク、たとえどんな職業を授かろうとお姉ちゃんはあなたの味方です」
「? う、うん、ミラお姉ちゃん、ありがと」
慈愛に満ちた目で僕を見てくるミラおば――お姉ちゃんに、戸惑いつつも礼を言っておく。
ミラお姉ちゃん、いつも僕ばかり贔屓してくるんだよね。
何でだろう?
お姉ちゃんと呼んでる――呼ばされてるとも言う――けど、実際にはお父さんの妹、つまりおばさんだ。
ちょうど十歳違うので今は二十歳になっているはずだ。
おばあちゃんに似てと美人だしスタイルも良いので、近所の青年たちからは大人気らしいけど、まったく浮いた話は聞かない。
時々ふらっといなくなることがあるけれど、普段はずっと家にいる。
……働いてないのかな?
お父さんと違って、一応【上級職】らしいけど。
職業には【基本職】と【上級職】があって、【上級職】は珍しいようだ。
【基本職】を極めることで、はじめて【上級職】に成ることができるかららしい。
ただ、お父さんの《無職》は、どんなに頑張っても《無職》以上にはならないのだとか。
神殿にやってきた。
同い年の子供たちとその家族が礼拝堂に集まっている。
「では祝福の儀を始めたいと思う」
神官の人が告げた。
前の担当神官が年齢のため引退してしまったので、今年からは新しい人らしい。
まだ若く、二十代半ばくらいかな?
ひょろっとした細長い体型で、少し神経質そうなお兄さんだ。
一人ずつ順番に前に出て、神官とともに祈りを捧げていった。
やがて僕たちの番が回ってくる。
「レイラからでいいよ」
「ありがと!」
レイラが祭壇の前で祈りを捧げる。
「こ、これは……」
神官のお兄さんが目を見開いた。
「ま、《魔導剣姫》……? は、初めて聞く職業だ……」
礼拝堂がざわついた。
「それってすごいの?」
「分からない……だが、その名からして恐らくは【上級職】である《魔法剣士》より上……つまり、【最上級職】かもしれない……」
さらに礼拝堂が湧く。
「すげぇ、新しい職業だなんて……」
「しかも【最上級職】だってよ……」
「レオンさんところのお孫さんか……やはりあの一家は特別だな……」
レイラが戻ってきた。
「《魔導剣姫》だってー」
「ふむ。《魔導王》と《剣姫》の両方を兼ね備えた職業ということだろうか」
いずれにしても当たり職業なのは間違いないだろう。
「よかったね、レイラ」
「うん! アークも良いのがもらえるといいね!」
続いて僕が祭壇前まで歩いていく。
レイラと僕は双子だ。
職業は血筋の影響を強く受けるらしいし、双子なら同じ職業でもおかしくないだろう。
だからか、周囲からの強い視線を見なくても感じ取ることができた。
いやダメだ、今は祈りに集中しないと。
そうして女神様に祈りを捧げていると、僕の脳裏にある文字が浮かび上がってきたのだった。
――《無職》
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