第6話 俺は幻を見ているのか

「のぉっ、ちょこまかとっ!」

「ゴリラさん、ゴリラさん、レイラばっかりでいいの?」

「何だと?」

「僕もいるってことだよ」

「っ!?」


 レイラと戦うゴリラの獣人は、僕の動きにまったく気づいていないみたいだった。

 僕の方から声をかけて、ようやく気づいたようだけれど、もう遅い。


 ブシュゥゥゥゥッ!


 地面に頭から倒れ込むゴリラの獣人。


「ま、魔族を倒しやがった……」

「本当に子供二人で……」

「信じられない……」


 うーん、そんなに驚くようなことかな?


「パパ、倒したよ!」

「見てたぞ。よくやった。しかし魔族はもうちょっと少し強いと思ってたんだがな」

「うん、弱かったね!」


 そこへリリアというらしいおば――お姉さんがニコニコしながら近づいてきた。


「さすがアレルさんとライナのお子さんですね! ところであの男の子、アーク君っていいましたか? 年上のお姉さんとかどうですかね?」

「胸に手を当てて自分の年齢を思い出してみろ」


 それから僕たちは都市の中央広場へと向かった。

 すると魔物が集まっていて、大勢の剣士たちが捕らわれていた。


 一人のおじさんがライオンの獣人に食べられそうになっている。


「お父さん!」


 どうやらお姉さんのお父さんらしい。


「助けに行ってくる」


 と言いおいて、お父さんが広場へと飛んでいく。


 ライオンの獣人は魔王軍の幹部だったみたいだけど、お父さんには手も足も出なかった。

 そのうち決着が付くだろう。


 てか、簡単に〝分身〟してるけど、あれ、めちゃくちゃ難しいんだよね……。


 と、そこで僕はあることに気づいた。


「っ……大変だ」

「どうしたの、アーク?」

「あれを見て」


 ライオンの獣人が上げた大きな咆哮に呼応したのか、土地のあちこちに散らばっていた魔物が一目散にここに向かってきているのが見えた。

 このままだと広場にいる人たちはあの魔物の波に呑まれ、蹂躙されてしまうだろう。


「レイラ、あの人たちの拘束を解こう」

「うん!」

「お姉さんも手伝っ――あれ、いない? ……まぁいいや」


 僕はレイラと示し合わせ、広場へ。

 せめて彼らを動けるようにしておかないと、助けきれそうにないしね。


「こ、子供っ?」

「何でこんなところに! 危ないから早く逃げるんだ!」


 と心配されつつ、僕たちは彼らを縛っていた縄を斬っていく。

 二人で全員の拘束を解くのは大変だけれど、解放された人が他の人を助けていくことで後半は一気にペースが上がった。


 そうこうしているうちにお父さんが魔族の親玉を倒していて、黄魔法で何かを作っている。

 あれは……剣?


「こいつを使ってくれ」

「って、剣だと!?」

「しかもこんなに大量に……一体どこから持ってきたんだ!?」

「よく見ろ、何もないところから出てきているぞっ?」


 僕も黄魔法で剣くらい作れるけど、さすがにあんな速さで大量生産するのは不可能だ。

 ほんと、出鱈目だよね、この人……。


 ともかく、これでみんなが武器を手にし、戦うことができるようになったぞ。


「「「オオオオオオオオオオオッ!!」」」


 魔物の大群が広場に押し寄せてきた。


「坊主たちは後ろにいろ! 俺たちが絶対に護ってやるからな!」

「お前ら、魔物を二人に近づけさせるんじゃねぇぞ! 子供が危険を顧みずに俺たちを助けようとしてくれたんだ、大人として借りは返さねぇとなぁ!」

「「「おうよ!」」」


 ん?

 なんかそんな声が……まぁ、いいか。


「って、いねぇ!? どこに行ったんだ!?」

「あっ、あそこだっ!」

「「「危ねぇ!?」」」


 僕とレイラは先陣を切って迫りくる魔物に突っ込んでいった。


「「エクスプロージョン」」


 二人同時に魔法を放ち、先頭集団にいた魔物をまとめて吹っ飛ばす。


「……は?」

「今、魔法を使ったのか……?」

「あ、あり得ないだろっ? 祝福を受けてない子供に魔法を使えるはずがない!」


 うん?

 魔法って、訓練すれば普通に使えるようになるでしょ?


「グルァッ!?」


 突然の爆発に驚き、魔物たちの勢いが減じたその隙を突いて、僕らとレイラは群れの中へと飛び込んだ。


「な、何だあの子供たちは……? 動きが速すぎて、目で追うだけでも精いっぱいなんだが……?」

「オーガが一刀で……? お、俺は幻を見ているのか……?」


 ええと、僕たちの戦いを見ている場合じゃないと思うけど……仕留め損ねた魔物がそっちに行ってるよ?


 だいたいさっきお父さんが戦うところを見てたじゃないか。

 それと比べたら、僕たちなんて驚くに値しないと思う。


「ちょっ、ちょっと待て!? あの子供たち、あっちにもいないか!?」

「馬鹿を言え、そんなわけ――――なっ!?」

「双子じゃなくて四つ子だったのか!?」

「いや見ろ! 向こうにもいる! 六つ子か!?」


 そんなわけないでしょ。

〝分身〟だよ、〝分身〟。


 生憎とお父さんと違って、僕たちは同時に二体ずつしか生み出せない。

 それも維持できるのはせいぜい数分で限界だ。


「あまり長引くと……まぁ、大丈夫そうかな」


 気づけば魔物が大きく減っていた。

 僕とレイラも頑張ったけれど、大半はお父さんの成果だ。


 他の人たちが倒した魔物は、全員を合わせてもお父さんの数分の一といったところ。

 剣の都市と言っても一般人も暮らしているそうだし、たぶん初めて剣を握ったような人も多かったのだろう。


 やがてすべての魔物を片づけることに成功。

 僕たちは剣の都市を魔王軍から救い出したのだった。

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