第7話 ここは子供の遊び場じゃないぞ

「見えてきたぞ。あれが魔法都市だ」

「すごーい! 湖の真ん中にあるよ! きれーだね、アーク!」

「うん、そうだね」


 剣の都市に別れを告げた僕たちは、続いて魔法都市にやってきた。

 世界各地から優秀な魔法使いたちが集まり、日々、魔法の研究に明け暮れているという。


「ここには六つの魔法学院があるんだ」

「六つ?」

「ああ。赤魔法、青魔法、黄魔法、緑魔法、黒魔法、白魔法と、それぞれ専門的に学んでいるんだ」

「へー? なんで一緒にやらないの? ぜんぶいっぺんに学べばいいのにね!」

「……レイラ、お母さんはあまり魔法のことは詳しくないが、あまりそれを街中で言っちゃダメだぞ」

「ママ、どうして?」


 魔法を使うことができないお母さんは、ここに来るのは初めてらしい。

 魔法が使えると色々と便利だし、お母さんも練習してみたらいいのにね。


 どうやらここは剣の都市と違い、魔族や魔物に占領されているということはなさそうだった。

 通りには活気があり、人々は普段と変わらない日常を送っているようだ。


 僕たちは赤の学院へとやってきた。

 お父さんが通っていたらしいけれど、事務室に行くと不審者扱いされてしまった。


 このままでは敷地から追い出されてしまうというとき、二十代半ばぐらいのお兄さんが声をかけてきた。


「師匠!? 師匠じゃないですか!」

「……誰? 弟子なんて取った覚えないのだが」

「ちょっ、僕ですよ、僕! カイトです! 忘れたんですか!?」


 どうやらお父さんの知り合い、というか、弟子だったらしい。


 カイトさんというらしいこのお兄さんの計らいで、僕たちは学院内を案内してもらうことができたのだった。


「そうだ! つい最近できたばかりの訓練施設があるんですよ。よかったら見ていかれませんか?」

「ふむ、面白そうだな」


 新しくできたという訓練施設に連れて行ってもらった。

 そこには実戦を想定したフィールドが用意されていて、


「三種類のフィールドがあります。一つ目は市街地。それから森と河。そして最後の一つが宮殿です」


 それぞれよくできていて、まるでゲームの中みたいだなー、という感想を僕は抱いた。


 くいくい、と背中を引っ張られる。

 振り返ると、目を輝かせたレイラがいた。


 あ、これはめんどくさいパターンだ。

 生まれてからずっと一緒にいて、もはや熟知している双子の妹の特性から、僕は瞬時にそう察する。


「アーク、あたしたちもあそこでモギセンやろうよ!」

「いいけど、ちゃんと許可を――――っ!?」


 気づいたらレイラに腕を引っ張られ、僕は宙を浮いていた。

 鯉のぼりみたいになった僕は成すすべなく、レイラと一緒に市街地のフィールドへと飛び込んでいた。


 人はいないけれど、建物や道路はまさに街そのものだ。

 横転した馬車なんかが置かれている。


「何でできてるのかな?」


 気になって馬車に触ってみると、かなり硬い。

 普通なら木材だけれど、どうやら金属で作られているみたいだ。

 たぶん魔法を浴びても壊れないようにしているのだろう。


「お前たちどこから入った!?」


 突然、怒鳴り声が聞こえてきた。

 視線を向けると、迷惑そうな顔をした高校生くらいの男女の集団がいた。


「ここは子供の遊び場じゃないぞ! 危険だから早く出ていくんだ!」


 たぶんこの学校の生徒たちだろう。

 どうやら今からこのフィールドを使うところだったみたいで、そこに僕たちが入り込んでしまったようだった。


「す、すいません。すぐに出て――」

「お兄ちゃんたちもモギセンするのっ? じゃあ、あたしたちも交ぜてよ!」

「ちょ、レイラっ」


 僕の言葉を遮って、レイラが彼らに声をかける。


「あははは! まだ数年早いよ! 祝福を受けて運よく魔法使い系の職業になれたら、また来るんだね!」

「そうだぞ、お嬢ちゃん。ここは魔法戦のためのフィールドだ。魔法を使える人しか利用できないんだ」

「魔法なら使えるよ? ほら、見て」

「いやいや、未祝福の子供に魔法を使えるわけ――」

「ファイアランス」


 ドオオオン!


 槍状の炎が近くの建物に直撃した。


「「「……は?」」」

「わ! すごい! こわれてない!」


 お兄さんたちが呆気にとられる中、レイラは建物がほぼ無傷であることに歓喜している。

 やっぱりかなり強固に作られているみたいだ。


「もっと強くしたらどうかな? エクスプロージョン」


 ドゴオオオオオオオンッ!


 猛烈な爆発が建物を襲う。

 今度は壁がどろりと溶解してしまった。

 それでも建物自体はまだちゃんと原型を留めている。


「わー、こわれてなーい!」


 驚くレイラ。

 一方で、お兄さんたちは信じられないといった顔で、


「う、嘘だろう……? 魔法障壁が付与された特殊な建材でできているはずなのに……」

「ていうか今、エクスプロージョンを使わなかったか……?」


 レイラはにっこり笑って、お兄さんたちに言った。


「ね、魔法使えるでしょ! あたしたちも一緒にモギセンしていい?」

「「「っ……」」」


 なぜかお兄さんたちは顔を引き攣らせながら後退る。


「よ、用事を思い出した! すまない、みんな! また明日な!」

「あっ、こら! 待ちやがれ!」

「私も今日は体調悪いから休むは……あとはよろしくね……」

「さっきまで元気だっただろうが!」


 なぜか一人、また一人と、逃げるように去っていく。

 やがて最後の一人も、


「あー、そうだー、テスト勉強するの忘れてたー。というわけで、俺は今すぐ帰らせてもらうが、君たちは自由に使ってもらって構わないから。それじゃ!」


 そう言い残して、返ってしまったのだった。


「みんな忙しいんだねー」

「うーん、そんな感じじゃなかったと思うけど……」


 結局、僕たち二人だけで模擬戦をすることになった。

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