第2話 魔法は剣と違うんだ
「アレル。残念だが、さすがにそれは難しい」
俺が魔法を教えてほしいと頼むと、返ってきた父さんの第一声はそれだった。
「確かにお前は《無職》ながら、誰にも負けない剣の腕を手に入れることができたかもしれない。しかしそれは剣だったからできたことだ。魔法は剣と違うんだ」
父さんが言うには、どんな初歩的な魔法であっても、魔法を使うためには魔法を使える職業であることが必須なのだという。
というのも、人は普通、魔力など所持していないからだそうだ。
《魔術師》などの職業を与えられることによって、初めて体内に魔力が宿るようになる。
それゆえ、それ以外の職業では絶対に魔法を使うことができないというのである。
「もちろん父さんもそうだった。祝福の儀を経て、初めて魔法を使えるようになった。それまでは魔力など皆無だったのだから当然だ」
父さんは諭すように言う。
「剣と魔法が違うというのはそういう意味だ。腕があれば、剣は誰にでも振るうことができるし、訓練すればスキルが無くとも上達できるかもしれない。だが魔法に関して言えば、そもそも腕がない状態なんだ。これでは訓練をすることすら不可能だろう? 幾らアレルと言えど、それでは魔法を使うことなんてできない」
ふむ。
なるほど、確かに父さんの言い分は理屈が通っているように思える。
だが俺はそれに反論した。
「まず一つ訂正しておきたい。腕がなくても剣は振れる。足を使ったり、口を使ったりすればいい」
必ずしも腕を使わなければならないとは限らないのだ。
俺は確かに健常な腕を二本持っているが、もしなかったとしても、まったく別の方向からアプローチしていたことだろう。
あまり固定観念に捉われてはダメなのである。
「むう……」
と父さんは微妙な顔をして唸った。
そんなことができるのはお前だけだと思うが……とぼそり呟いている。
「それからもう一つ、父さんの話には訂正すべき点がある」
「……?」
首を傾げる父さんに、俺は問う。
「何で人は魔力を宿していないと言い切れるんだ?」
父さんは一瞬呆けたように驚いた後、難しい顔をしながら、
「いや、それはそう一般的に言われているからだな……」
「もちろんそれは知っている」
俺も一応、書物などで少しは下調べをしたのだ。
「だが、どこにもはっきりとした根拠が書かれていないんだ。せいぜい〝魔力を認識できないから魔力がない〟ということくらい。けど、これでは魔力がないと言い切ることはできないはずだろう?」
もしかしたら単に魔力量が少な過ぎるため、自分でも魔力を認識できないだけではないのか?
本当はどんな人間でも、微量ながら魔力を持っている可能性があるのではないか?
「それが俺の仮説
「うーむ……確かに、絶対にないとは断言できないが……ん? だった?」
「実際に仮説が正しいか、確かめてみた結果がこれだ」
「……?」
怪訝そうにしている父さんの前で、俺は
ごく微量な魔力の波動ながら、父さんの前髪がふわりと浮き上がる。
「へ?」
「まぁこんな感じだ」
体内の魔力を認識できるようになるまで苦労したけどな。
実は剣の都市で〈魔法剣〉とやらを見てから、秘かに挑戦していたのだ。
いったん自分の魔力が分かれば、それを集束させたり、移動させてみたり、あるいは外に放出したりするのは、それほど大変なことではなかった。
ただしまだこれを実際に〝魔法化〟するところまで行ってない。
「ここに例外があった。つまり祝福で魔法を使える職業を与えられていない人は魔力を持たない、という通説は少なくとも絶対ではなかったということだ」
俺はそう結論付けた。
恐らくどんな人も魔力を持っているとは思うが、サンプルが俺一人ではそこまでは言えない。
「ま、ま、ま……」
「どうした父さん? そんな変な顔して」
しばし父さんは餌を食べる魚のように口をパクパクさせていたが、いきなり大声で叫んだ。
「ま、またアレルがさらっととんでもないことしてるううううううううううううっ!?」
自分の魔力を認識できるようになっても、それはまだスタート地点に立っただけに過ぎない。
ごく微量しか存在しない以上、これではロクに魔法を使うことができないのだ。
「だからまず、魔力を増やす方法を教えてほしい」
「わ、分かった……」
すんなりと頷く父さんだが、まだ少し興奮から醒めていない様子である。
「た、確かに魔力を増大させるやり方なら幾つか知ってはいるが……。あくまで魔法を使える職業の者たちがやっていることだし、同じ方法でお前の魔力が増えるとは限らないぞ?」
「まぁ難しければ、そのときはそのときだ。だがゼロを一にすることに比べれば、一を二にする方が遥かに簡単だと思う」
「……」
そうして父さんから教えてもらったやり方は、非常に単純なものだった。
魔力を使う。
それだけらしい。
魔法を使える職業の人たちは、魔力を使えば使うほど、魔力量が大きくなることを経験的に知っているのだという。
ふむ。筋肉と同じだな。
筋肉も使えば使うほど強くなる。
「簡単だな」
もっとも、自分の魔力を認識していることが必須条件で、そこまで到達するのがそれなりに大変なわけだが。
とりあえずやってみよう。
というわけで、俺は魔力をどんどん放出し――
「?」
「アレル!?」
――その場でぶっ倒れた。
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