第39話 二人とも面識があるのかい

 僕たちは順調に森を進んでいた。


 今回は魔法科と武術科の連携が目的なので、それぞれを半々にし、二つのグループに分けていた。

 片方のグループが魔物と戦っている間、もう一つのグループは待機兼周囲の警戒だ。

 もちろん万一のときは、控えグループが対処する。


 武術科が前衛を務めて魔物を引きつけ、隙を見て後衛の魔法科が魔法で攻撃するというのが、基本的な連携の形だ。

 さすがはSクラスの生徒たちと言うべきか、今回が初めての試みだというのに、問題なく連携して遭遇する魔物を討伐していた。


 やがて木々が途切れて少し開けた場所に出た。


「ではここで少し休憩にしましょう」


 セレスティアさんがそう指示を飛ばす。

 すぐに魔物避けのお香を焚いて、魔物が近づいてこないような対策を取った。


「思っていたより上手く連携できていますね、王女殿下」

「ディアス、先ほど申し上げたでしょう? あなたにそんな他人行儀な態度を取られると、なんだか悲しくなります」

「分かったよ、セレス」

「ありがとうございます」

「……君の方こそ、もう少し砕けてもいいと思うんだけれど?」

「わ、わたくしの場合は、この方が自然になってしまっていますので……」


 セレスティアさんとディアスさんが何やら仲良さそうに話している声が聞こえてきた。

 王女と公爵家の子女ともなれば、幼い頃から付き合いがあるのだろう。


 思わず聞き耳を立ててしまう。


「それにしてもレイラさん、だったかな? 魔法科にはすごい一年生が入って来たね」

「はい。彼女は明らかに別格です。現時点でも、わたくしなんかよりずっと強いです」

「そんなに?」

「間違いありません」

「そうか……。彼女は《魔導剣姫》……もし武術科に入ってくれていたら……逃した魚は大きかったというわけか」

「でも、武術科には……」

「武術科には?」

「い、いえ、何でもありません」

「……?」


 どうやらレイラのことが話題に上っているようだ。


「ねぇ、アーク! 聞いてる?」

「え?」

「むー、さっきから呼んでるのに!」

「ご、ごめんごめん」

「きっと王女様に見惚れていたのよ」

「っ、リッカっ」


 またリッカが余計なことを言ってくる。

 見ていたのは事実だけど、見惚れていたわけじゃない。


「それともディアス様に嫉妬?」

「違うって!」

「そうだ!」


 と、そこで何を思ったか、いきなりレイラが僕の手を引っ張った。


「何するのっ?」

「いいから!」


 そうして強引に連れて行かれたのは、セレスティアさんたちのところだった。


「セレスお姉ちゃん! 紹介しておくね! レイラと双子のアークだよ!」

「ちょっ、レイラ!?」


 レイラのことだから余計な気を利かせたとか、そういうのではなく、単純に僕をセレスティアさんに紹介したかったのだろう。


 でもお願いだからもう少し空気を呼んでほしい。

 明らかに今、僕はセレスティアさんに避けられていた。

 しかもレイラのせいで。


「れ、レイラの双子の兄のアークです……い、いつもレイラがお世話になってます」


 仕方ないので僕は当たり障りのない挨拶を口にする。


「い、いえ、わたくしの方こそ、レイラさんにはとてもお世話になってます……」


 セレスティアさんは顔を少し俯け、呟くように返事をした。


「「……」」


 き、気まずい……っ!


「? 二人とも面識があるのかい?」


 ディアスさんが不思議そうに首を傾げた、そのときだった。


「「っ!」」


 僕とレイラはほとんど同時に同じ方向へと視線を向けた。

 魔物の接近を感知したからだ。


 だけどすぐにそれが一体だけではないことを悟る。

 三百六十度、まるで僕たちを取り囲むようにして、何体もの魔物が近づいてきている。


「この気配……」

「なんか変な感じ!」

「な、何があったんだい? もしかして魔物?」

「そうです。しかも、かなりの数です」

「でも、魔物避けの香はまだ効果が続いているはず……」


 恐らくそれが効かない種類の魔物なのだろう。


 休んでいたみんなが慌てて武器を手に取り、戦闘態勢を整えていく。


「アーク、何体くらい?」

「たぶん、百はくだらない」

「「「ひゃ、百!?」」」


 こうしている間にも気配はどんどん増えてきている。

 一番近いところにいる魔物は、もう間もなく僕たちがいるこの場所に姿を現すことだろう。


「この気配……間違いない。魔物はアンデッドです!」

「「「アンデッド!?」」」


 先日遭遇したアンデッド化したハイオークのことを思い出す。


「オアアアアアアッ!」


 真っ先に現れたのは、巨大な猿の魔物だ。

 少し遅れて、次々と多様な魔物が姿を見せる。

 見た目だけだと判別しにくいけれど、いずれもアンデッドだ。


「ま、魔法放て!」


 魔法科の生徒たちが遠距離攻撃魔法を一斉に放った。

 だけど直撃しても魔物はまったく怯まない。

 アンデッド化しているため、痛みも恐怖も感じないのだ。


「く、食い止めるぞっ!」

「「「おおおっ!」」」


 ディアスさんの号令で、武術科の生徒たちが前に出る。

 魔物が全方位から来ているため、どうしても少人数で、場合によっては一人で一体の魔物を対処するしかない。


「グルァァァッ!」

「っ! こ、攻撃が効いていない!?」

「アンデッド化しているからだ! 動きを止めるには足を狙うんだ!」

「は、はい!」


 ディアスさんの指示は的確だった。

 アンデッドでも足を負傷すると機動力が一気に低下する。

 そうして動きを鈍らせたところへ、魔法科部隊が集中砲火を浴びせていった。


 だけど数が多過ぎる。

 魔物の勢いに押され、武術科部隊はズルズルと後退を余儀なくされていた。

 このまま前衛が崩壊したら、みんなまとめて圧殺されてしまう。


 もちろんそんなことはさせやしない。


「レイラ!」

「うん! ホーリーレイン!」


 浄化の豪雨がアンデッドの大群へと降り注いだ。

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