第38話 初対面なのに
どうやらセレスティアさんのゼミと合同で訓練を行うという。
「合同訓練っ?」
「面白そう!」
「王女殿下とお会いできる……」
初めて知った人も多いようで、教室内が湧き立った。
「女王殿下の自主ゼミには噂の一年生も参加しているらしい。つまりアーク君も参加すれば、兄妹がそろうということだね」
合同訓練か……。
当然セレスティアさんも参加するだろう。
酷い形で再会してしまったし、どんな顔して会えばいいんだろう。
僕のことをどう思っているのかも分からない。
レイラのことよりも、僕はセレスティアさんのことの方がよっぽど気になってしまった。
あっという間に合同訓練の日がやってきた。
都市外へ遠征することもあり、学院の授業が休みの日だ。
まず武術科の参加者たちで集合して出発し、目的地で魔法科の参加者たちと合流することになっている。
武術科の参加者は四年生が五名、三年生が三名、二年生が三名、そして一年生が一名の、合計十二名だ。
たぶん魔法科とほぼ同数だろう。
一応、各ゼミに一人ずつ、教員が同行してくれるそうだ。
「みんな準備はいいかい?」
ディアスさんが改めて訓練の概要を説明してくれた。
「今回の訓練は、王都の西部に広がっているドルイドの森を探索することになる」
ドルイドの森というのは、先日、魔法科のゼミで近くまで行ったあの森のことだ。
かつて自然崇拝主義のシャーマンたちが暮らしていたことからその名が付けられたらしい。
現在は人は住んでおらず、棲息しているのは魔物ばかりだという。
「先日も言った通り、テーマは魔法部隊との連携。いかにお互いを補い合いながら戦うことができるかが重要だ。独りよがりな行動は控え、いつも以上に周囲の状況をしっかりと見るようにね」
ディアスさんの言葉に、皆が神妙な顔で聞き入っている。
「だけどその上で、ぜひ王女殿下に僕たち武術科の練度の高さを見せて差し上げよう!」
「「「はいっ!」」」
ドルイドの森からほど近い場所で馬車が停止した。
ちなみに魔物避けのお香を焚いているので、一度も魔物に遭遇していない。
しばらく待っていると、魔法科の馬車がやってきた。
中から見知った人たちが降りてくる。
もちろんレイラに成り替わって参加していたため、大半は僕が一方的に知っているだけだ。
「殿下だ……」
「いつ見てもお美しい……」
「魔法科のやつら羨ましいよな……」
武術科の参加者たちが見惚れている中、ディアスさんが一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「本日はよろしくお願いします、王女殿下」
「ここは王宮ではないですし、そう畏まらないでください、ディアス。今日はお互い、同じ学院の生徒として頑張りましょう」
「ありがとうございます」
ディアスさんは頭を上げる。
「わーい、アークだ~っ!」
「ちょっ!?」
突然、横合いから衝撃を受けた。
レイラが僕に抱き着いてきたのだ。
「やめろって、暑苦しい」
「えー、なんでー?」
久しぶりにこうして一緒に冒険できるのが嬉しいのか、やたらとテンションが高い。
みんなが生暖かい目を向けてきてるし、本当にやめてほしかった。
と、そこで僕は目を丸くしてしまう。
ボブヘアーの小柄な少女がいたからだ。
「初めまして。レイラから話は聞いているわ?」
ワザとらしく微笑んでくるのはリッカだった。
「な、なんでいるの?」
「わたしも参加できることになったから」
「……」
「何でそんなに嫌そうな顔をするのかしら? 初対面なのに」
そうだ、僕とリッカは初対面なのだ。
……初対面でなければならない。
「へえ、その子がレイラちゃんの双子のお兄さん?」
「確かにそっくりだな」
「髪の色なんてまったく同じね」
魔法科の人たちが僕とレイラを見比べながら口々に言う。
「入れ替わっていても分からないかもね?」
お、おい、リッカ!
余計なことを言うな……っ!
僕が睨むと、リッカはクスクスと意地悪く笑う。
こいつがいるととても不安だ……。
さすがに森の中に入ると、リッカが声をかけてくることはなくなった。
自分の持ち場で真面目に歩いている。
「ねー、アーク、パパ元気にしてるかな~?」
一方でレイラはさっきからずっと僕に話しかけてきていた。
配置がすぐ近くだったせいもあるけど、そもそもこれくらいの森の探索など慣れっこなので、緊張感がないのだ。
「レイラさん、もう少し集中しなさい」
「えー? してるよ?」
アリサさんから注意され、レイラは唇を尖らせた。
実際、会話しながらでも、自然と周辺の気配を探ることはできる。
なにせ寝ていても可能なぐらい、身体に染みついているからね。
「あ、あっちから魔物が近づいてくるよ」
レイラは北西の方角を指さした。
もちろん僕も気づいている。
この気配の強さ、それほど強い魔物じゃない。
周りはまだ誰も魔物の存在を感じ取れていないらしく、「本当に?」「何で分かるんだ?」という顔をしている。
「レイラさん、どの程度の強さの魔物か分かりますか?」
「そんなに強くないよ! たぶん。ね、アーク?」
「う、うん」
「~~~~っ」
こっちを向いていたはずのセレスティアさんが、僕と目が合うなりなぜかすぐに顔を背けてしまった。
や、やっぱりこの間の決闘のせいで嫌われちゃった……?
僕はレイラを睨みつける。
「ふえ? 何で怒ってるの?」
「自分の胸に聞いてみなよ」
「……? 心臓の音しか聞こえないよ?」
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