第31話 結局またこのパターンか
「と、飛んだ!?」
「あいつ空を飛んでやがるぞ! 魔法かっ?」
「ちょっと待て!? 剣士じゃねぇのかよっ?」
緑魔法で飛翔する俺を見て、船員たちが驚愕している。
「剣も魔法も使えるなんて、一体どんな職業だよ!?」
「ま、《魔法剣士》じゃねぇかっ?」
「そうか! それなら確かに……」
残念だが外れだ。
俺は《無職》である。
シャアアアアアアアッ!!
リヴァイアサンが鋭く喉を鳴らし、長い身体を躍らせて襲い掛かってくる。
丸呑みしてやろうというのか、口を大きく開いていた。
ベヒモスのときのように体内に入って攻撃することも考えたが、そのまま海底へと引き摺り込まれてしまうと厄介だ。
俺は空気を蹴って加速しながら、いったん逃げに徹した。
できるだけ船から離れる必要があるからな。
『逃げるなよっ!』
またしても津波が襲い掛かってきた。
「っと!」
俺は再び剣で斬り裂く。
二つに分かれて左右を通過していった。
『だから何でそんな真似ができるのさっ!?』
「訓練の賜物だ」
ふむ。これくらい離れれば十分だろう。
俺は空中で身体の向きを変えると、今度はリヴァイアサン目がけて急接近する。
『いったぁっ!?』
俺の剣がリヴァイアサンの頭部を斬り裂いた。
『ちょっ、何で普通にボクの鱗を斬ってるんだよっ? アダマンタイト並みに硬いはずなんだけど!』
「訓練の賜物だ」
当人はああ言っているが、しかし防御力や耐久力はベヒモスほどではなさそうだな。
とはいえ、それでも弱らせるのは大変だろう。
やはり体内から攻撃するしかないか?
リヴァイアサンが幾度も牙を剥いて飛びかかってくるが、俺はそれを悉く掻い潜って、逆に隙を突いて斬撃を見舞っていく。
あちこちに傷がついていくが、それでもこの大きさだ。
この程度では動きが鈍る様子はない。
『ちょこまかと! これならどうだ!』
「っ!」
海中から凄まじい速度で何かが飛び出してきた。
それは巨大な鞭――いや、リヴァイアサンの尾だ。
パアアアアアアアアンッ!
空気を切り裂く音が轟く。
すんでのところで回避していたため助かったが、衝撃波だけで吹っ飛ばされてしまった。
直撃を喰らっていたら加護を一気に持っていかれていただろう。
そこからリヴァイアサンは頭と尾の二刀流で攻めかかってきた。
幾ら緑魔法で自在に空を飛べるとはいえ、さすがに地上ほどの速さでは動けない。
堪らず俺は上空へと退避する。
『このっ!』
リヴァイアサンはすかさず追ってきたが、海面から百メートルを超えたところで停止した。
どうやらこの高さが限界らしい。
『降りてこい! 卑怯もの!』
「……さて、どうするか」
リヴァイアサンが罵ってくるが、無視して俺は考える。
「む? 海に戻っていく?」
しばらく口を開けて喚いていたリヴァイアサンだったが、何を思ったか海へと潜ってしまった。
まさか逃げたわけではないだろうな?
そのとき突如として海面が爆発した。
巨大な水柱が立ち上がり、俺のいる高さすらも軽々と越えていく。
その水柱の中から飛び出してきたのはリヴァイアサンだ。
『あははははっ! その高さなら届かないって油断したでしょっ!』
直後、俺はリヴァイアサンに丸呑みされてしまっていた。
「結局またこのパターンか」
真っ暗な体内で何度も肉壁に激突しながら呟く。
だがこれはチャンスだ。
リヴァイアサンは今、海中から飛び出している。
空中にいる間に内側から仕留めることができるかもしれない。
俺は四方八方へと斬撃を飛ばしていった。
『いだああああああああっ!?』
すぐに反応があった。
どうやら効いているらしい。
それにしても、ベヒモスもそうだったが、敵を生きたまま呑み込んでしまうなんて、なんとも迂闊だな。
内側から攻撃されるかもしれないことくらい、考えれば分かるだろうに。
神話級の魔物といっても、所詮は魔物。
どちらも頭がよくないのかもしれない。
「っ!?」
突然、水に呑み込まれた。
咄嗟に剣で斬るが、すぐにまた呑み込まれてしまう。
ダメだ、多すぎる。
気づけば俺はリヴァイアサンの体内から吐き出されてしまっていた。
「なるほど。体内で水を作り出したのか」
吐瀉物ではなく青魔法で生成した水だ。
ベヒモスは胃酸を逆流させて俺を吐き出そうとしてきたが、さすがに量的に限界があるので難しかったのだが……。
『よくもやったなぁっ!』
リヴァイアサンは激怒しているが、それほどダメージを負っているようには見えない。
「ふむ、マズイな」
しかも口から吐き出された勢いで、俺は海面へと叩きつけられてしまった。
すぐに空へ逃げようとするが、
『無駄だよぉ!』
リヴァイアサンが起こした波に呑まれてしまう。
そしてそのまま海中へと引き摺り込まれてしまった。
『あははははっ! ようこそ、ボクのホームへ! ここなら君も自由に動けないでしょ!』
さらに凄まじい海流によって、海の底へと落ちていった。
水圧がどんどん増していき、周囲が暗くなっていく。
『人間って水の中じゃ息ができないんでしょ? どう? 苦しい? 苦しいでしょ? あははははっ!』
蜷局を巻くようにして俺を取り囲みながら、リヴァイアサンは楽しそうに訊いてくる。
生憎と水の中なので返事ができない。
やがて、海中に呑み込まれてから十分が経過しただろうか。
俺が動かなくなったのを見て、リヴァイアサンは、
『そろそろ死んじゃったかな? 死んじゃったみたいだね? あははっ、こんなに簡単に死んじゃうなんて、人間って脆いねぇ』
どうやら死んだと思ってくれたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます