第41話 汚名を雪いでみせると誓った

「レイラ、魔法で援護してくれる?」

「うん、分かった!」

「〝神足通〟」


 僕は距離を無視するような速度で、アトラスの顔の目の前まで飛んだ。

〝縮地〟と違い、その上位互換である〝神足通〟は、平面のみならず立体的な瞬間移動が可能だ。


 突然、眼前に現れた僕に、アトラスの一つ目が驚いたように見開かれる。


「っ! 消えた!?」

「み、見ろ! あそこだ!」

「なっ? いつの間に!?」


 地上からも驚く声が聞こえてくる中、僕はアトラスの首へ斬撃を叩き込んだ。


 ズバンッ!


 激しい音が響くが、しかしアトラスの太くて硬い首にはせいぜい一メートルくらいの傷ができただけだ。

 さすがこの大きさだけあって、防御力も高いようだ。


 加えてアンデッドだから痛みを感じている様子はない。

 即座に腕を振るい、僕を叩き落とそうとしてくる。


 ブオンッ!


「「「~~っ!?」」」

「「「うわあっ!?」」」


 僕は咄嗟に空中を蹴って回避したけれど、巻き起こった暴風が地上にいたみんなを襲い、何人かが吹き飛ばされた。


「こいつ」


 僕はアトラスの目玉に突きを見舞ってやった。


「アアアアッ!?」


 視界が奪われてさすがに焦ったのか、雄叫びを轟かせる。


「メテオストライク!」


 そこへ空から巨大な塊が降ってきた。

 レイラが発動したのは黄魔法の最高峰、メテオストライクだ。


 ドゴオオオンッ!


 凄まじい衝撃音とともに隕石がアトラスの顔面に直撃。

 頭部が地面にめり込むかという勢いで、その巨体がひっくり返った。


「うわ……」


 頭部が大きく凹み、そこに隕石が完全にはまり込んでいた。えぐい。

 普通なら顔が破裂していてもおかしくないところだが、あれで済んでいるのはそれだけ驚異的な石頭だということだろう。


 それでも死を超越したアンデッドだ。

 アトラスはすでに身体を起こそうとしていた。


「〝神空斬り〟×10」

「パーマフロースト!」


 そうはさせまいと、僕は上空から〝神空斬り〟の雨を降らせる。

 一方でレイラは極寒の冷気でアトラスを氷結させ、動きを封じようとする。


 やがてアトラスを完全に氷に閉じ込めることに成功した。

 よし、あとはこいつを浄化するだけだ。

 これだけ大きいと、さすがに少し時間がかかるだろう。


「レイラ、浄化は任せた。元凶を見つけたから僕はそっちを片づけてくる」

「りょーかい!」


 だけどそれはレイラにお願いし、僕はその場を離れる。

 まだアトラス以外にも何体か魔物が残っているけど、あれくらいなら他のみんなで対処できるだろう。


 僕は木々の隙間を縫って疾走する。

 アトラスをすぐには浄化せず、先に動きを封じておいたのは、供給されている魔力を辿るためだった。

 一キロくらいあった距離を僕はものの数秒で駆け抜け、ついにそいつを発見する。


「一体、何が起こっているんだっ? あれだけいたアンデッドが、たかがあの程度の人間にやられたとでもいうのかっ!? それにアトラスまでどんどん反応が弱まっているだと……っ!?」


 数体のアンデッドモンスターを従え、喚いていたのは魔族と思われる男だった。

 こいつが元凶の死霊術師らしい。


「憤慨しているところ悪いけどさ、そろそろ気づいてくれたら嬉しいんだけど」

「っ!?」


 声をかけると、ようやくこっちを向いた。


「なっ……い、いつの間に!?」

「えーっと、魔族だよね? この森で何をしているの?」

「貴様っ、どうしてここが分かった!?」

「質問に答えてほしいんだけど」


 魔族は僕から距離を取ろうと後退る。


「き、決まっているだろう! 貴様ら人間に復讐するためだ!」

「復讐?」

「そうだ! 四年前、私の師匠が都市を襲うも、人間どもに敗れてしまったのだ!」


 師匠って、あの爺のことさんかな?

 人間だったけど、魔王軍の幹部をしていた死霊術師だ。


「だが、私にはどうしても納得がいかなかった! あの師匠が人間ごときに敗北するとは、どうしても思えない!」


 僕が倒したんだよなぁ……。


「ゆえに私は師匠に代わり、必ずやその汚名を雪いでみせると誓った! そのためにこの四年間、私は入念に準備を進めてきたのだっ!」


 なるほど。

 それがあの大量の魔物とアトラスか。


 先日、森の外で遭遇したハイオークは、何らかの要因で術者のコントロールを外れ、森の外に出てしまったのだろう。


「しかし、この森に現れた人間どもを試しに抹殺し、我が悲願のための駒にしてやるつもりだったのに……これは一体、どういうことだ!?」

「どうもこうも、その思惑が失敗に終わったってことでしょ」

「失敗だと!? あり得ない! あの程度の数の人間に、あれだけのアンデッドモンスターたちが負けるはずがない!」

「いや、現実は受け入れた方がいいと思うよ」

「黙れ! お前たち、あの人間の子供を排除しろ!」

「「「オアアアアアアアッ!」」」


 それまで大人しくしていたアンデッドモンスターたちが、一斉に襲い掛かってきた。


「ホーリークロス」

「「「アアアアアッ!?」」」


 浄化の光を浴びせ、怯んだところへ斬り込んでいく。


「ば、馬鹿な……?」


 あっさりと配下を全滅させられて、死霊術師の魔族は呆然としている。

 隙だらけなので、間合いを詰めて袈裟斬り。


「ぎゃああああああっ!?」


 もう他に弟子とかいないよね……?

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