第39話 見た目もあのままだ

 最初は不審者扱いされていたが、今はこの学院で教授をしているカイトと偶然再会したことで、無事に滞在の許可を得ることができた。


 赤の学院の学院長は当時と変わっておらず、体格のいいおっさん――レッドラだ。

 彼も俺のことを歓迎してくれた。


「レオンのやつは元気にしてるか?」

「全然変わってないぞ。見た目もあのままだ」

「そうか。いつか暇があったら酒でも飲もうと伝えておいてくれ」


 父さんとは学院生時代に同期だったらしく、レッドラは昔を思い出すような目で頼んでくる。

 本人が応じるかは分からないが、伝えるくらいならお安い御用なので、俺は頷いておいた。


「しかし、そうか、あいつには孫がいるのか……もう完全に爺さんだな……」


 アークとレイラを見て、レッドラはしみじみと呟く。

 彼は五十代になるが未だに独身らしい。


「そういえば、魔王軍が襲ってきたという噂を聞いたんだが、大丈夫だったのか?」

「もちろんだ。奴ら、敵わないと見るや、尻尾を撒いて逃げていきやがったぜ」


 どうやら撃退したらしい。

 湖の島にある都市なので攻めにくく守りやすい。

 そうした地の利もあったのだろうが、さすがは魔法都市だ。


「パパー」

「む?」


 俺と学院長の話が退屈だったのか、レイラが服を引っ張ってくる。


 それから双子を連れて、俺は久しぶりに赤の学院を見て回った。


「パパ、パパ! あれ、何してるのっ? あっちはっ?」


 レイラにとってはそもそも学校というものが珍しく、講義や研究室などに興味津々だ。

 アークはいつも通り大人しい。


「この子たちも将来は師匠のような魔法使いになれるかもしれませんね!」


 カイトが興奮気味に言ってくる。


「そうだ! つい最近できたばかりの訓練施設があるんですよ。よかったら見ていかれませんか?」

「ふむ、面白そうだな」


 カイトに連れていってもらった建物は、確かに俺が在学していた頃にはなかったものだった。


「ここはより実戦的な魔法の訓練ができるように作られています」


 中に入ってみて驚いた。

 訓練場といえば、その多くは何もないただの空間があるだけだった。

 しかしここには実戦を想定したフィールドが用意されていたのである。


「三種類のフィールドがあります。一つ目は市街地。それから森と河。そして最後の一つが宮殿です」


 学院を卒業した後、そのまま教員になったり、研究の道に進む者も多いが、どこかの国の魔法騎士団に所属したり、冒険者になったりする生徒も決して少なくない。

 そして彼らが経験することになる実際の戦闘は、訓練場のような場所で発生するのはむしろ稀だろう。


「ちょうど今、僕が教えている生徒たちも訓練中みたいです」


 各フィールドは今俺たちがいる廊下とは透明なガラスで仕切られているのだが、低い位置にあるため様子を上から眺めることができるようになっていた。

 カイトが指さすのは市街地を模したフィールドで、建物などの遮蔽物に隠れながら複数の生徒同士が魔法を打ち合っていた。


 だが飛び交うのは赤魔法と青魔法である。

 ここは赤の学院のはずだが……?


「あら、カイトじゃない」


 声の方を振り向くと、気の強そうな女性がこっちに歩いてくる。


「やあ、クーファ。そうか、今は君のところの生徒と戦っていたのか」

「ええ、そうよ。今のところ私の生徒の方が優勢のようね。このままいけばきっと勝つわ」

「まだ分からないって。手数重視の君のところと違って、こっちは一発逆転を狙える強力な魔法があるから」

「生憎とそれは対策済みよ。……ところで、そっちの見かけない人たちは?」


 クーファって、もしかして、あの?


「師匠だよ、師匠!」

「師匠……? って、まさか、あの意味分からない自称無職!?」

「自称じゃないぞ」

「何でこんなところにいるのよ!?」


 やはり彼女はあの三人組の一人で、青の学院に入学したツインテール少女のようだ。

 さすがに髪型は違うし、しっかり化粧もしていて随分と大人っぽくなってはいるが、性格の方は当時とあまり変化していないらしい。


 現在、彼女も青の学院で教授になっているそうだ。


「へえ。つまり、奥さんと子供を連れての家族旅行の途中で立ち寄ったってわけ?」

「いや、ただの旅行じゃないぞ。二人の訓練のためだ」

「訓練って、まだ祝福も受けてないでしょ?」


 そんな話をしていると、模擬戦が終わったらしい。

 結局、逆転でカイトの生徒たちが勝ったようで、クーファが悔しがっている。


「ここ赤の学院だろ? 何で青の学院の人間がいるんだ?」

「ああ、それも師匠がいた頃と違うところですね。以前は各学院の交流と言えば、せいぜい魔導神祭のときくらいだったんですけど、もっと学院同士が協力し合っていこうと学院長たちが呼びかけあったことで、共同研究や共同訓練なんかが盛んになってきているんです」

「なるほどな」


 確かに当時は学院間の繋がりなど皆無に近かったもんな。

 俺が六つ同時に通っていることに誰も気づかなかったぐらいだ。


「師匠がきっかけなんですけどね」

「俺の?」

「詳しくは知りませんが、学院長たちが歩み寄ったのは師匠のお陰だと、レッドラ学院長が話していましたよ」

「ふむ?」


 言われてもピンとこないのだが。


「ちょっと待て、アークとレイラがいないぞ?」

「本当だ」


 ライナが慌てたように周囲を見回している。


「また隙をついてどこか行ったな」

「貴様が余計なスキルを教えたせいだろう……」

「俺でも警戒してないとよく見失うほどだからなー」

「嬉しそうに言うな!」


 まぁあの二人のことだし、心配は要らない。

 レイラはともかく、アークはしっかりしているしな。


 ドオオオオオンッ!


 そこへ大きな爆発音が響いてきた。

 ふむ、どうやら市街地のフィールドに入ってしまったようだな。


「「……え?」」


 なぜかカイトとクーファが目を丸くしていた。



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