第20話 このEクラスは最底辺ということだ

 無事に入学試験を突破した僕は、晴れて王立学院の武術科に入学することができた。


「ええと、僕はEクラスだったっけ」


 前世ではロクに学校に通うことができなかった僕にとって、学校生活というのは憧れだ。

 僕は期待に胸を躍らせながら、Eクラスの教室へと足を踏み入れた。


 教室内の雰囲気は二分していた。


 一つは僕と同じように、入学できたことを喜んでいる人たち。

「本当に受かってよかった」「今日から王立学院の生徒だ」などと嬉しそうに話している。


 一方で、まったく言葉を発することなく、俯きがちに椅子に座っている人たちもいた。

 まるでお葬式のような空気だ。


 彼らの悲壮な顔を見ていると、とても新入生とは思えない。

 何かあったのかな……?


 一人や二人ならともかく、それが何人もいるのだ。

 偶然にも不運が重なった、なんてことはないだろう。


 ひとまず僕は空いている席に腰を下ろした。


 しばらくして、教員らしき男性が教室へと入ってくる。

 僕たちの担任だろうか?


 彼は教室内を見回し、口を開いた。


「全員いるな? ではこれからガイダンスを始める。質問があれば最後に纏めて聞く。いいな?」


 数人が「はい」と返事をした。

 それで異論はないと判断したのか、彼は続ける。


「最初にはっきり言っておく。もちろん知っている者も多いとは思うが、武術科では、入学試験の成績などに応じて、SからEという六つのクラスに分けることになっている。Sが最も優れた成績を出した者たちであり、その後、A、B、C……というふうに優秀な者から順に割り振られていく。つまり、このEクラスは最底辺ということだ」


 なるほど、だから一部はお葬式みたいな空気だったのね……。


 単に合格することが目標だった人たちは、入学できたことを素直に喜ぶ。

 逆に、もっと上のクラスを目指していた人は、Eクラスだったことを悔しがっているのだ。


 でもおかしいな。

 僕、実技試験で十分な結果を出したはずなのに。

 試験官をしてくれた在校生の人が間違っていたのかな?


「だが最底辺と言えど、王立学院の生徒であることに変わりはない。ゆえに、授業の内容において、レベルを下げるということは一切しないつもりだ。……たとえその結果、付いてこられなくなる者が出たとしてもな。実際、毎年少なくない脱落者が出ている。入学しただけで満足しているようでは、その一人になりかねないだろう」


 その言葉に、喜び組――もちろん前世の某集団とは無関係――が背筋を伸ばした。


「それからクラスは固定ではない。もし相応の力があると判断された場合は、学期の途中であろうと上のクラスに昇格することができる。無論その逆もあり得るが……最底辺にいる君たちは今のところ降格する心配はないから安心したまえ」


 今度は悲しみ組が決意に満ちた表情になる。

 昇格を目指そうというのだろう。


 その後は学校生活についての細々とした説明があって、今日のところは解散となった。

 授業は明後日からだ。






 ガイダンスが終わると、僕は学生寮へ向かった。

 どうやら部屋が決まったらしい。


 寮監さんから部屋番号を教えてもらい、僕はこれから生活することになる部屋を探す。

 それは北東の角にある部屋だった。


「ここかな?」


 ドアを開けて中に入る。

 思っていたよりも狭かった。


 二段式になっているベッドが左右に置かれ、そのせいか圧迫感がある。

 ベッドの間を通って奥に行くと、コの字を描くような形で机が四つ置かれていた。


 四人部屋だ。

 もちろん個人のスペースなどない。


「お、もしかして新入生?」


 とりあえず空いている机に荷物を置いていると、誰か入ってきた。


「うん。君も?」

「ああ。俺はランタ。よろしくな」

「よろしく。僕はアークだよ」


 僕たちはお互いに名乗りながら握手を交わす。

 気さくな感じの少年だ。


 年齢は僕より一つ上の十三歳らしい。

 このエデルハイド王国の出身のようだ。


「フェイノット? 聞いたことないな? それ一体どこにあるんだ?」

「ここよりずっと東」

「剣の都市がある辺りか?」

「もっと東だよ」

「おいおい、そりゃ随分と遠いところから来たんだな。何日もかかるだろう」


 二日ぐらいだけどね。


「ランタは何クラス?」

「俺はCクラスだ。お前は?」

「僕はE」

「そうか……。だがまぁ、年齢を考えれば合格しただけでも十分だろうな。中には十二歳でSクラスに入るような天才もいるらしいけどよ。知ってるか? 今年、魔法科に【最上級職】の新入生が入ったらしいぜ」

「へえ、そうなんだ。よく知ってるね」

「いや、かなり噂になってるしな」


 どうやらランタは情報通らしい。

 僕と違ってこの国の出身だし、知り合いも多いのかもしれない。


「しかも聞いた話によれば、結構かわいい子らしいぜ」

「女の子なんだ」

「まぁ、残念ながら学科が違うし、接点を持つのは難しそうだけどな」


 寮は学科に関係ないけれど、女の子だったら女子寮の方だしね。

 レイラも当然そっちの方に入ることになっている。


 そのとき部屋に二人組が入ってきた。

 大柄な少年と、どこか陰湿そうな笑みを浮かべた中肉中背の少年だ。


「お前らが新入生か。オレ様は四年Aクラスのガオン、この部屋のだ」


 大柄な少年はそう名乗ってから、唇を吊り上げて告げた。


「つまり、オレ様の命令は絶対だ」

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