第21話 部活の上下関係っぽい
朝、学生寮では鐘の音が鳴り響き、みんなが一斉に強制的に起床させられる。
二段ベッドの下で目を覚ました僕は、その場ですぐに服を着替えていく。
横を見ると、ランタも眼を擦りながら起き上がろうとしているところだった。
僕たち新入生はどちらもベッドの下だ。
上級生の二人は上を利用している。
朝食の前に掃除の時間だ。
部屋ごとに担当する掃除場所が割り当てられていた。
僕たちは自分たちの部屋と、部屋の前の廊下だ。
ちゃんとやらないと寮監さんに怒られてしまうらしい。
「ええと、掃除の時間ですよ?」
上級生たちがまったくベッドから降りてこないので、僕は声をかけた。
「ああ? うるせぇな。掃除はお前ら一年の仕事だろうが」
そう吐き捨てたのは、四年生のガオンさんだ。
もう一人の上級生、三年生のイザートさんはニヤニヤ嗤っている。
「ちゃんと綺麗にしておけよ」
そう言い残して、二人は部屋を出ていってしまった。
「……何だよ、あれは」
「仕方ないね。二人でやろう」
「けどよ、狭い部屋とはいえ、二人だけでやるのは大変だぜ? 廊下もあるしよ」
と、そこへなぜかガオンさんたちが戻ってきた。
ランタは慌てて背筋を伸ばす。
「おい、ランタだったか? お前はオレたちと一緒に来い」
「は?」
「は、じゃねぇよ。聞こえなかったのかよ?」
「だけど、掃除が……」
「んなもん、そいつにやらせときゃいいだろうが。つべこべ言わずにとっとと来やがれ」
「わ、分かりましたっ」
ランタは僕の方をちらりと見てから、慌ててガオンさんの後についていく。
残された僕は一人で掃除をすることになってしまった。
「なんか……」
僕は思った。
「部活の上下関係っぽいっ!」
そう、これだよ、これ!
前世では、中学生になったら多くの人たちが部活に入り、そして初めての上下関係に苦しむものだった。
もちろん当の本人たちにとっては大変なのだろうけど、病弱な僕は当然ながら部活に入ることもできなかったので、そのことに密かに憧れを持っていたんだ。
それをまさか実際に経験することができるなんて……っ!
僕は嬉しくなって懸命に掃除をした。
床を塵一つないほどキレイにし、こびりついていた汚れもしっかりと落としていく。
「ていうか、よく見たら壁も床も結構ボロボロだね……」
年季が入っている建物なので仕方ないと言えば仕方ないけれど……。
「あ、そうだ、土魔法で新しく作り直したらいいんだ」
いいアイデアを思いついたと、僕は手を叩く。
「よし、これでばっちりだ」
僕は満足して汗を拭った。
気づけば部屋の中はまるで新築のようにピカピカになっていた。
「あ、そろそろ朝食の時間かな。食べに行こう」
そうして部屋を出ようとすると、ちょうどガオンさんたちが戻ってきた。
ランタも一緒だ。
「おい、ちゃんと掃除は終わったんだろうな?」
「はい、終わりました」
「本当だろうな? 見せてみろ」
ガオンさんが部屋に入ってくる。
そして唖然としたように立ち尽くした。
「……は? ちょっと待て。ここ、オレたちの部屋だよな?」
慌てて外に出て部屋番号を確認している。
「ええと、間違えてませんよ?」
「う、嘘だろ? た、確かに、あれはオレの荷物……」
さて、一働きしたからお腹が空いた。
目を丸くしていたランタを促し、一緒に食堂へ向かう。
「な、なぁ、アーク、お前、一体何をしたんだ?」
「なにって、掃除しただけだけど?」
「いや、明らかに掃除のレベルを超えてるだろ!」
「ああ、せっかくだから床や壁は新しくしておいたんだ」
「新しくしておいた!?」
大きく仰け反って驚くランタ。
ちょっと大袈裟すぎじゃないかな?
うちだとレイラがしょっちゅう壁に穴を開けて、お父さんが土魔法で修復してたけど。
「それよりランタの方は何をしてたの?」
「いや、何も。ただの朝の散歩」
「へぇ、楽しそうだね」
「お前、ほのぼのとしたやつを想像してるだろ? 全然そんな感じじゃねぇよ」
「どういうこと?」
「あいつ、下級生を見つけてはどうでもいいことでイチャモンをつけてやがったんだ。俺はそれに付き従う言わば舎弟みたいなもんだった」
「おおっ、なんか体育会っぽい!」
「たいいく……?」
いかにも学校って感じだった。
「とにかく、俺たち酷い先輩と同じ部屋になっちまったみたいだな。これから大変だぜ」
「そうだね。一緒に頑張っていこう」
「……何で嬉しそうなんだよ?」
その日は入学式があった。
大講堂に全校生徒が集まって、偉い人の祝辞を聞いたりした。
もちろんレイラも参加している。
人の話をじっと聞いていることができない子なので、たぶん寝ているだろうけど。
「それでは続いて在校生代表挨拶です。四年Sクラス、セレスティア=リゼラ=エデルハイド様、よろしくお願いいたします」
新入生たちがなぜかざわついた。
「王女殿下だ……」
「殿下が挨拶されるのか……」
「入学してよかった……」
どうやらこの国の王女様らしい。
王立の学校だし、王族が通っていてもおかしなことではないだろう。
「え……?」
皆の注目が集まる中、登壇してきたその生徒を見た瞬間、僕は固まってしまった。
凛々しくも可愛らしい顔立ちに、輝くような銀髪。
当時と比べると幾らか大人びているけれど、見間違えるはずがない。
壇上に現れた彼女は、四年前、死霊術師に襲われていたところを助けてあげた、あの女の子だった。
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