第11話 このギルドはもう終いだ
ブラックブレードを後にした俺は、他のギルドへも足を運んでみた。
別に、必ずしも母さんがいたギルドに加入しなければならないわけではないからな。
剣の腕を磨くには、トップギルドの方が環境が整っていて良いだろうとは思うのだが、仕方がない。
「は? 《無職》? 無理無理。そんなやつ、うちには要らないよ」
「ぎゃはははは! お前、マジで《無職》で剣士ギルドに入れると思ってんのかよ!」
「雑用係としてなら雇ってやれなくもないぞ?」
……しかし、どのギルドに行っても、《無職》というだけで門前払いだ。
「ふむ。弱った」
俺は思わずそう呟いた。
まさか《無職》と伝えただけで、話すら聞いてもらえなくなるとは。
せめて剣の腕を見せられればいいのだが、その機会すら与えれくれない。
違う職業と偽って加入しておいて、実力を示して認められた後に《無職》だと明かせばどうだろうか?
「いや、鑑定書の提示を求められたら困るな」
一発でバレてしまう。
「どうしたものか」
「どうしたものでしょうか……」
「「ん?」」
声が重なった。
視線を転じると、そこにいたのはあのときの金髪女。
「あああっ! あなたは! 偶然また会うなんて、きっと運命ですね!」
「だが断る」
「まだ何も言ってないですよ!?」
女はそうツッコミを入れてから、先ほどの俺の発言を思い出したのだろう、
「さっきの台詞! もしかしなくても、ブラックブレードへの加入を断られちゃいましたね!?」
「ああ」
「なるほどなるほど! まぁあそこは最低でも【上級職】っていう厳しい条件がありますからね!」
非常に嬉しそうだ。
「ですが、そんなあなたに朗報です! 我が剣士ギルド〝ドラゴンファング〟に、そんな条件はありません! どんな方でも大歓迎です! 今なら登録料無料! しかもこんな美人なお姉さん付き!」
普通、自分で自分のことを美人とは言わないと思う。
それはそうと、ドラゴンファングか……聞いたことがあるような無いような。
「とりあえず見学するだけでもしてみませんか? 実はすぐそこなんです!」
言って、女が指差した方にあったのは、かなり立派な建物だった。
ブラックブレードの本拠地(ホーム)よりも大きい。
いや、さすがにそれはないか。
たぶんその横にある小さくてボロい建物の方だろう。
「いえいえ、こっちで間違いないですよ! これがドラゴンファングの本拠地です!」
「弱小ギルドではなかったのか」
「だからそう言ったじゃないですか! 誰もが知る有名なギルドですって!」
そう言えば本人はそう主張していたな。
何にせよ、これならトップギルドと遜色のない規模だろう。
「ちょっと待ってくださいね」
「?」
本拠地に入ろうとすると、なぜか腕を掴まれて止められた。
「見学のためにはここにちゃちゃっとサインをしていただく必要があるんです。いえ、サインするだけなので簡単ですよ!」
そう言って、女が一枚の用紙を見せてくる。
そこには文字が書かれているが、一部が彼女の指で隠れていて見えない。
「ここです、ここ。ほら、ここにちゃちゃっと」
「……」
俺は素早く用紙を奪い取る。
「あっ!?」
〝加入契約書〟と書かれていた。
俺はビリビリに破り捨てた。
「あああっ! ちょっ! 待――」
喚く女を後目に、本拠地内へと踏み込む。
立派な外観に相応しい、広々としたロビーが出迎えてくれた。
しかし人っ子一人いない。
足音が響くほどの静寂が満ちていた。
「なるほど。誰もが知る有名なギルド――だったというわけか」
つまりは過去の話。
本拠地だけはその当時のものを残しているが、閑古鳥が鳴くほど落ちぶれてしまったということだろう。
「か、過去には何人ものトップ剣士を輩出してきました!」
「過去は過去だ。過去の実績を誇ったところで、現実は何も変わらない」
「ぐふっ!」
図星だったのか、女は血を吐くような声を出した。
だがもはや開き直ったか、
「ああ、そうですよ! どうせうちの栄光は過去の話、今はド底辺の最弱ギルドです! でも決して諦めていません! かつての黄金時代を取り戻してみせますよ!」
そう力強く宣言する。
「だから、ね? 人が、必要なんですよ。だから必死に勧誘をしているんですけど、全然新人が入って来なくてですね……? えへへ……」
急に腰を低くして、甘えるように訴えてくる。
「だったら言葉ではなく、実力で引っ張るべきではないのか? あんたがどれだけの実力か知らないが、大会で実績を上げていけば、自ずと加入を希望する者も増えてくるだろう」
「も、もちろんそれが一番だと分かっているんですけど……今は事情があってですね……」
「事情?」
「実はですね……その、あと数日中に最低でも剣士を一人増やさないと、この本拠地が無くなってしまうんです」
と、女が悔しげに明かしたそのときだった。
酔っ払ったおっさんが入り口から入ってきた。
「ひっく……」
「お父さん! また昼間からお酒を飲んで……!」
「うるせぇよ、リリア」
どうやら女の父親らしい。
かなり酩酊しているようで、足取りが覚束ない。
しかしこのおっさん……右腕がないな。
服の袖がひらひらと宙を泳いでいる。
おっさんと目が合った。
「なんだ、新入りか? はっ、見ての通り、このギルドはもう終いだ。他に行った方が賢明だぞ」
それだけ言って、ふらふらの足取りで奥へと去っていく。
「……昔はあれでもこの都市で一、二を争う剣士だったんですけど……」
「片腕を失って自暴自棄になったのか」
たとえ加護が切れた状態で傷を負ったとしても、加護が戻れば傷は修復していく。
だがさすがに身体の欠損のような大怪我を治すことはできないのだ。
「……簡単に言うとそんなところですね。しかも《双剣王》だったので、片腕を失った結果、大半のスキルを使えなくなってしまって……」
ふむ。
《双剣王》か。
《剣姫》と並ぶ【最上級職】だな。
……思い出したぞ。
母さんがいたトップギルドの名前。
その名の由来は、鋭い牙で獲物に喰らいつく竜を模した必殺スキル――《双剣王》の〈竜牙斬り〉。
ドラゴンファングだ。
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