第31話 いやあんたいつもそれだろ
「いいだろう! この私に任せておきたまえ!」
よく分からないが、どうやら発表会に参加できる方法があるらしい。
「ぜひ頼む」
知らない教員ではあるが、自信満々に言うからには、たぶん本当に何とかできるのだろう。
行き詰っていた俺は一も二も無く彼の提案に飛びつくことにした。
「あなたも災難ですね……。よりによって、ログウェル先生に目を付けられるなんて」
ログウェルが去っていった後、事務員がそんなことを言ってくる。
「何か問題でもあるのか?」
「……恐らく当日は先生の助手として参加することになるかと思います」
「助手?」
「はい。あの先生、ゴーレムを操る腕に関しては超一流なんですが……その性能を発表会で披露するのが趣味なんですよ。主に戦闘で」
どうやら自身のゴーレムの強さを見せつけるのが、彼の恒例の発表内容らしい。
「戦う相手がいないとつまらないからって、毎回必ず生徒を捕まえて対戦相手に指名するんです。しかもまったく容赦しない方で……。大勢の前でボロボロにやられたことで、心を折ってしまう生徒も多く、恐らくもう目ぼしい相手がいないんでしょう。ここ最近はこの辺りをずっとウロウロして、生徒が通るたびに勧誘してましたし」
先ほど現れたのは偶然ではなかったようだ。
教員でなければ完全に不審者だな。
「それでも、まさかファーストグレードの生徒にまで手を出すなんて……」
事務員は呆れたように嘆息してから、
「悪いことは言わないので、今からでも断った方がいいです。先生の発表は最終日ですし、聴衆も多く、ファーストグレードのあなたが務めるには荷が重いでしょう」
俺は首を左右に振った。
「いや、むしろ好都合だ」
見ている者が多いのなら、むしろ俺の新型ゴーレムの性能を披露するには持ってこいだ。
「……若い頃って、なんでそう根拠のない自信を持っているものなんでしょうね……」
事務員は諦めたような顔をして呟く。
「どのみち他に手はなさそうだしな」
発表会の最終日がやってきた。
今日は学院の各所にて教員による発表が行われている。
トップクラスの魔法使いたちの最先端の魔法研究の成果が見られるとあって、それぞれの発表時間が近づいてくると、黄の学院の生徒たちは我先にと争って良い場所を確保していた。
人気の教員が行う発表など、定員オーバーで大量の立ち見が出るほどだ。
今日は教員たちにとっても重要な一日だった。
というのも、発表内容が査定に関わるらしい。
主に学院長や退職した元教員がそれを行うという。
中には他の教員を蹴落としてやろうと、質疑応答の時間で嫌らしい質問を投げかけているような教員もいた。
そしてここ、校舎地下に設けられた屋内訓練場においても、教員たちの成果発表が行われていた。
その内容は主に土魔法の実演である。
土を使ったショーと言っても過言ではない。
ものの数十秒で巨大で芸術的な土の城を築きあげた教員がいれば、土人形での演劇を披露してみせた教員もいた。
錬金魔法の地味な発表とは違い、派手なので人気が高く、学院外からも見学者が訪れているほどだ。
そんな中、ログウェルの発表の順番が回ってきた。
「ごきげんよう! 今回は、なんと! 私の素晴らしいゴーレムたちをお見せしたいと思う!」
彼がそう告げると、
(((いやあんたいつもそれだろ)))
会場の多くの人たちがそんな顔をしていた。
しかしログウェルはそれを意にも解さず、訓練場の地面に敷き詰められている大量の土から、自慢のゴーレムを生み出していく。
全部で五体。
ゴーレムと言えば武骨で物々しく、ぎこちない動きしかできないというのが一般常識だ。
だが彼のゴーレムはそうではなかった。
スリムで洗練されたボディに、滑らかな動作。
そして一糸乱れぬ動きで、見事な演武を披露してみせたのだ。
……まぁ武芸としてはツッコミどころが多かったが。
観客の中には見飽きた者もいるようだったが、それでも演武が終わると大きな拍手が巻き起こった。
特に入学したばかりの生徒たちは確実に初見なので、興奮した様子で手を叩いている。
「もちろん私のゴーレムたちは実戦にも強い! これからぜひそれをお見せしたい!」
どうやらようやく俺の出番のようだ。
「またいつものをやる気だぞ」
「可哀想になぁ」
「てか、あんまり見たことない奴だな? 年齢的にはセカンドグレードっぽいけど……」
舞台に出ていくと、観客の生徒たちが憐れむような目を俺に向けてくる。
あの事務員が言っていた通りのようだ。
「これから彼のゴーレムと私のゴーレムを戦わせてみたい! なに、心配は要らない! さすがに生徒を相手に本気を出すほど私も鬼ではない! 私が扱うゴーレムは一体だけだ! 君は何体使っても構わない!」
ログウェルが意気揚々と宣言した。
「何体使ってもって……」
「普通、ゴーレムは何体も同時に作れねぇし……」
「たとえ作れたとしても今度は同時に操作するのが難しいしな……」
そんな呟きがあちこちから聞こえてくる。
俺は早速この日のために用意した新型のゴーレムを披露することにした。
「来い、アルファ」
俺がその名を呼ぶと、あらかじめ会場の脇に置いておいた真っ赤な金属装甲のゴーレムが、機体を隠していたベールを自ら剥ぎ取って動き出した。
……動き出したと言っても、もちろん俺が自分で動かしてるのだが。
誰もが、地面の土から俺がゴーレムを生み出すと思っていたはずだ。
だがそうではなく、しかもまったくの予想外のところから、まったく予想外の姿をしたゴーレムが出現したので、
「「「え?」」」
ぽかんと口を開けた。
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